見落としやすい腎疾患 ②

9月2日(水)
第1週:呼吸器・腎臓病

 

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初診時の患者さんの主訴は、「生の情報」としてとても重要な情報です。しかし、その「生の情報」をどのように活用するかが大切です。昔から「生兵法は大怪我のもと」といいます。


現代流に言えば「十分身についていない知識や技術に頼るととんでもない失敗をする」ということです。

 

たとえば、この症例のようなケースでは、「だるいのですぐに点滴してくれ!」という類の患者さんです。だるさを緩和して患者さんの苦痛を軽減することは、たしかに医師としての第一の責務ではありますが、適切な治療方法の選択はより大切です。高円寺南診療所を開設した当時は、そのようなタイプの患者さんで溢れていました。直ちに要望通りにしないと怒りを露わにする方も少なくありませんでした。杉並国際クリニックに改称して完全予約制などシステムを改組してからは、そのような方は見られなくなりました。

 

今回提示した医師国家試験問題の症例は、実際の日常診療の初診時に確認すべき診療内容をよく反映しています。

 

 

❺ 脈拍72/分、整。

 

❻ 血圧104/70㎜Hg。

 

❼ 意識は清明。

 

❽ 眼瞼結膜は貧血様である。

 

❾ 心音と呼吸音とに異常を認めない。

 

❿ 腹部は平坦、軟で、肝・脾を蝕知しない。

 

⓫ 両下肢に浮腫を認める。

 

⓬ 尿所見:蛋白3+、糖(-)、潜血1+、

 

 

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<初診時の診療Step2>

 

 

C バイタルサイン

 

❺ 脈拍72/分、整。
  ⇒正常範囲

 

❻ 血圧104/70㎜Hg。
  ⇒正常範囲だが、低血圧気味です。

 

❼ 意識は清明。
⇒ 正常範囲です。
⑤⑥⑦のバイタルサインは全体的には正常範囲内です。

 

 

D 診察所見

身体診察のポイント

医療面接の結果に基づいてポイントを絞った診察をすることができます。しかし、様々な疾患で体重減少をきたすので、スクリーニング的な身体診察も有用です。頸部では甲状腺腫やリンパ節腫大に注意しますが、高齢者の甲状腺は下方に位置し、触診で分かりにくいことがあります。胸部では心不全、慢性閉塞性肺疾患、肺癌の所見がないか確認します。腹部では悪性腫瘍や消化器疾患の可能性に留意します。

 

 

❽ 眼瞼結膜は貧血様である。⇒消耗性疾患や出血性疾患血液検査で確認します。

 

❾ 心音と呼吸音とに異常を認めない。

 

❿ 腹部は平坦、軟で、肝・脾を蝕知しない。
  ⇒少なくとも巨大な腫瘍性病変は見出せません。

 

⓫ 両下肢に浮腫を認める。
⇒浮腫は両側性なので局所の疾患ではなく、全身疾患が原因である可能性が高いです。
そこで浮腫の背景として低たんぱく血症の有無の確認と、
3大疾患(心不全、肝不全、腎不全)および蛋白漏出性胃腸症、甲状腺疾患、血液疾患などを疑います。

 

バイタルサイン正常(❺❻❼)および❾❿より、心不全、肝不全の可能性は高くないことが予測されます。そこで、浮腫の原因の一つとして腎臓病(腎不全、腎炎、ネフローゼ症候群など)を疑い、尿検査で確認します。

 

⓬ 尿所見:蛋白3+、糖(-)、潜血1+、
尿蛋白3+ ⇒高度な蛋白尿です。腎疾患による低たんぱく血症を来して浮腫をも   
たらしている可能性があります。❷全身倦怠感と体重減少の原因で    ある可能性があります。蛋白尿の程度がネフローゼ症候群の水準に達しているかどうかについては、外来受診時のスポット尿検査では評価できません。畜尿といって、入院などにより一日分の尿中にどれだけの蛋白が排出されているかを調べたり、血液生化学検査で血清総蛋白やアルブミン濃度を測定したりする必要があります。

 

アルブミンの働きは、主に次に述べる①水分を保持し、血液を正常に循環させるための浸透圧の維持と、②体内のいろいろな物と結合し、これを目的地に運ぶ運搬作用があります。血液の膠質浸透圧の維持に中心的な役割を担います。(膠質浸透圧の約80%を担います)

 

尿糖(-)⇒糖尿病の合併は完全には否定できませんが、少なくとも中等症以上の 糖尿病を合併している可能性は低いです。

 

尿潜血1+⇒泌尿器系の出血性疾患の存在が示唆されます。
          

❷全身倦怠感と体重減少の原因である可能性、❽ 眼瞼結膜は貧血様である、という診察所見を裏付ける所見の一つです。

 

 

 

<まとめ>

本例の症例の主訴である体重減少は高度な栄養障害を伴うので、全身倦怠感をもたらす可能性があることは、前回しました。そして、今回は診察による身体所見で浮腫を発見しました。このように、主訴とは、あくまでも患者さんサイドの訴えです。患者さんがすでに「浮腫」に気づいていても、特別に気に留めず、医師に申告しなければ、それは主訴として扱われませんが、申告していれば#1.全身倦怠感、#2.体重減少、に続き第3の主訴ということになり、#3.浮腫(両下肢)とカルテに記載されることになります。

 

そして、この#3.浮腫(両下肢)という症状は、#1.全身倦怠感、#2.体重減少という二つの主訴を相互に関連付ける現象である可能性が高いと考えられます。
その浮腫の原因は、栄養障害の指標項目の一つとされる低アルブミン血症が示されれば有力な裏付けになります。

 

そして、尿中への多量のアルブミン喪失と、尿潜血は腎障害の存在を示唆するものです。

 

次回は、この腎障害をもたらした疾患の診断と、その重症度評価について検討することになります。