統合医療(東洋医学・心身医学)新型コロナウイルス感染症の積極的早期治療法:柴葛解肌湯(さいかつげきとう)

8月29日

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柴葛解肌湯(さいかつげきとう)は、インフルエンザなどの急性疾患に良く使用されてきた処方です。

 

風邪のひきはじめは、表証といって悪寒、発熱、頭痛などが主症状ですが、それが半表半裏あるいは裏症といって、さらに体の奥へ進行し、全身に波及して激しさを増したときに頼りになる処方です。

 

とくに、新型コロナウイルス感染症では、こうした表証の段階から、急激に裏証の段階にまで到達してしまうため、医師の診断を受けて保険適応可能な処方を受けるまでの間にも急激に進行してしまいがちであるため、保険処方が可能な「葛根湯」や「麻黄湯」を、でも対応できなくなってしまいます。

 

ですから、最も重要なポイントは、可能な限りロスタイムを作らずに、直ちに対処することができる環境を整えておくことです。つまり、家庭の常備薬として手元に確保しておくことをお勧めします。

 

柴葛解肌湯を使用するうえでの前提条件は、体力が中等度以上であるということです。

逆に言えば、体力が虚弱な方には、直ちには使用できないということになります。

 

しかし、Covid-19に感染し易く、しかも重症化しやすいのは体力虚弱な方です。

それでは、どのようにしたら、日頃、体力虚弱な方を守れるのか?という重要な課題が、私が考案した段階的レシピ構築のヒントになりました。

 

虚弱体質を直ちに体力中等度以上にすることは不可能ですが、行動体力(競技体力)でなく防衛体力(免疫力)を高めることは可能です。

 

しかも、柴葛解肌湯が必要としている体力は、行動体力(競技体力)ではなく防衛体力(免疫力)の方です。そこで、普段から、体力虚弱者の防衛体力(免疫力)を高めておくこと、また体力中等度以上の方の体力を維持させておく工夫が必要になったというわけです。

 

それが、『玉弊風散(ぎょくへいふうさん)』基礎療法なのです。これを普段から使用していれば、体力虚弱な方でも、いざというときに、直ちに、安心して柴葛解肌湯を使用することができるようになります。
 

 

そこで、柴葛解肌湯の処方解説を致します。これは10味の構成生薬による処方です。

 

柴葛解肌湯は、病初期の太陽病(表証)期に使う「葛根湯」系と、そこからさらに病状がやや進行した少陽病(半表半裏)期に使う「小柴胡湯」系と石膏をひとまとめにしたような処方です。

 

インフルエンザなどの急性熱性疾患で、発病初期から高熱を出し、症状が激しい場合の第一選択となるのは、こうした処方構成からみても納得がいく内容です。

 

 

【上品(上薬)4味】
生姜、甘草、柴胡、桂皮(箘桂)『神農本草経』

 

【中品(中薬)5味】
葛根、麻黄、黄芩、芍薬、石膏『神農本草経』

 

【下品(下薬)1味】
半夏『神農本草経』

 

「葛根湯」系の生薬構成は、葛根をはじめ、麻黄、芍薬、桂皮、生姜、甘草ですが、大棗が除かれているため厳密には「葛根湯」そのものではありません。しかし、これらの生薬群は、体表部を温め、発汗解熱に働きます。とりわけタイトルロールとしての葛根は筋肉の痙攣を鎮め、首や肩の凝りを解きほぐします。そこに芍薬、甘草が加わり、葛根の働きを助けます。

 

「小柴胡湯」系の生薬構成は、柴胡をはじめ、黄芩、半夏、生姜、甘草ですが、人参や大棗が除かれているため「小柴胡湯」そのものではありません。柴胡と黄芩のペアは往来寒熱を取り除き、消炎、抗ストレス効果があります。

 

また、半夏と生姜のペアは吐き気を鎮めてくれます。以上の生薬群は清熱(熱さまし)作用がありますが、さらに石膏が加わっていることによって寝苦しさの原因ともなる胸脇の熱にもしっかり対応きるできる体制になっています。

 

このように、柴葛解肌湯は、体表を温めて発散させると同時に、内臓裏の炎症を鎮めることができる強みを持っています。これが、アスピリンなどの消炎解熱剤との大きな違いです。

 

わかりやすくいえば、西洋医学の解熱鎮静剤は非生理的かつ人工的に体熱を落としこんでしまうのが解熱剤と、これに対して、人体の免疫力を強化し、生理的な復調力を支えて熱がおさまるように働く清熱剤(漢方薬)だということができるでしょう。

 

ちなみに、100年前のわれわれの大先輩にあたる日本の名医たちは、当時大流行したスペイン風邪(後の遺伝子解析により、インフルエンザウイルスと判明)に際して、現代の医師を凌ぐほどの卓見を持っていたことに驚かされます。

 

我々は、政府、厚生労働省を含め、謙虚な姿勢で先達が築いてくれた歴史に学ぶべきです。以下に列挙してみます。

 

当時、すでに早期解熱剤禁止(好生館医事研究会)の公式見解をはじめ、「解熱剤制限」(吉田恒蔵、荘司勇助、両医師)、「解熱剤厳禁」(大島仁医師)、「解熱剤を用ひざること」(伊藤英逸医師)、という警告がなされていました。

 

これに対して、「玉子酒、橙油」(吉田正一医師)、「キナ皮、桂皮、茴香」(大桶弘医師)、「キニーネ」(遠藤大太郎、杉本宇吉、森田資孝、の各医師)、キナ皮・キニーネは抗マラリア薬で、米国のトランプ大統領も予防用に服用していました。

 

血清療法(横須賀衛戍病院をはじめ、渡口精鴻、工藤貞雄、中村寅三郎、高岡栄の各医師)、恢復患者血清(宮尾海軍中尉)、特にインフルエンザワクチンに言及している「インフルエンザ血清(ワクチン)」(北里研究所、片倉病院をはじめ、岩井誠四郎、見止春海、斎藤友次郎、の各医師)そして現代のCovid-19の救急医療でも用いている「酸素吸入」(渋村主税、鈴木慶之助、大島仁、の各医師)、とくに最先端のECMOと同じ原理の吸入混合血清」(安部益之助・渡辺惣五郎の両医師)、さらには、インフルエンザが心筋障害をもたらすことも既に知られていたようであり「強心剤」(安部益之助・渡辺惣五郎、加藤清一、斎藤友次郎、宮下耕団、大島仁、鈴木慶之助、の各医師)などの推奨の記録が内務省衛生局(現在の、厚労省の前身)の記録に残されています。

 

敗戦後75年を経ますが、米国式の医療システムの導入によって、戦前までのわが国の優れた公衆衛生および臨床実績が無残にも捨て去られていることは、とても残念です。こうした歴史を一顧だにしない行政をはじめ専門家・有識者は猛省すべきではないかと思います。

 

 

<『柴葛解肌湯』の主な応用法>

1 新型コロナ予防対策としては、まず日頃から『玉弊風散(ぎょくへいふうさん)』を1日1~2包内服して、免疫力を高めておく予防法を定着させておくことが望ましいです。それによって、いざ『柴葛解肌湯』を内服した際の安全性を高め、その後の治療効果を高めることが期待できます。

 


2 のどの違和感程度であれば、金羚感冒散(きんれいかんぼうさん)、身体が重だるく倦怠感がありお腹がすっきりしないようであれば、『藿香正気散(かっこうしょうきさん)』をまずはお勧めします。しかし、症状がやや激しくなってきたと感じたら、ためらわずに『柴葛解肌湯』を始めてください。

 

3 高熱(平熱+1.5℃以上:平熱36.5℃であれば38℃)があれば『地竜(じりゅう)』も内服してください。ただし、高熱に加えて激しい症状(急な寒気、全身の筋肉痛・関節痛、頭痛、口の乾きなど)がある場合は、間髪を入れずに、直ちに『柴葛解肌湯』を服用してください。