代表的な内分泌・代謝疾患 No1. 2型糖尿病(その3)

8月26日(水)

 

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第114回医師国家試験問題(令和2年実施)A群(医学各論)から

 

症例の分析を2回に分けて行いました。それを簡単にまとめて再掲します。この症例の診断が糖尿病であること自体は問題ないと考えます。そして、2型糖尿病である可能性が会高いのですが、確定的ではありません。その理由は、尿ケトン体1+であるにもかかわらず、抗GAD抗体などの糖尿病関連自己抗体の所見がないからです。もし、抗GAD抗体が陽性であれば、緩徐進行1型糖尿病を積極的に疑い、インスリン療法の開始を検討しなければなりません。もっとも、コントロール不良の進行性糖尿病は2型糖尿病であってもインスリンその他の薬物療法を診断早期に開始すべきであるため、この症例では食事療法のみによって血糖コントロールを達成することは困難です。

 

❶ 50歳の男性。糖尿病治療の目的で来院した。
❷ 1か月前から両眼のかすみと視力低下を自覚して自宅近くの医療機関の眼科を受診したところ、両眼増殖糖尿病網膜症と診断され、内科を紹介され受診した。
❸ これまで健康診断は受けていなかった。
❹ 職業は自営業でデスクワークをしている。
❺ この1年間で体重は8㎏減少している。
❻ 身長170㎝、体重62㎏。脈拍72/分、整。血圧182/102㎜Hg。
  ⇒Ⅲ度高血圧症
❼ 両側アキレス腱反射は消失している。
  ⇒糖尿病神経障害
❽ 両側足関節の振動覚は著明に低下。
  ⇒糖尿病神経障害
❾ 尿所見(空腹時):蛋白3+、糖3+、ケトン体1+、潜血(-)。
 ⇒糖尿病腎症、尿ケトン体1+と陽性であり、インスリンの作用不足が示唆される。
➓ 血清生化学所見(空腹時):尿素窒素38㎎/dL、クレアチニン2.4㎎/dL、
  ⇒慢性腎臓病・糖尿病性腎症第4期(腎不全期)
⓫ 血糖348㎎/dL、HbA1c14.6%(基準4.6~6.2)、
  ⇒糖尿病
⓬ トリグリセライド362㎎/dL、HDLコレステロール28㎎/dL、
LDLコレステロール128㎎/dL、
⇒脂質異常症(高トリグリセライド血症、低HDL血症)
⓭ Na136mEq/L、K5.2mEq/L、Cl98mEq/L。
  ⇒低ナトリウム、低クロライド血症(ボーダーライン)

 

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以上のような詳細な病歴・検査データを提示していますが、実際の国家試験の問いを、以下に示します。

 

これは、どちらかといえば、医師国家試験レベルではなく、むしろ管理栄養士国家試験レベルであるといえるでしょう。逆に言えば、管理栄養士にもこの程度の医学知識が求められる時代になってきたともいえます。また、この症例をもとにして、内科専門医試験や糖尿病専門医の試験問題を作製しようと思えば作成可能だと思われます。

 

 

問題 この患者の食事療法として正しいのはどれか。

 

a 塩分摂取量は10g/日とする。

 

b 蛋白摂取量は45g/日とする。

 

c 総エネルギー量は1,400kcal/日とする。

 

d 糖質の割合は総エネルギー量の40%とする。

 

e コレステロール摂取量は1,000㎎/日とする。

 

 

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a 1日塩分摂取量については、糖尿病腎症病期分類に基づいて決定されます。
  本症例の推定糸球体濾過率(eGFR)=24.22mL/min/1.73m²
  であるため、GFRの区分ではG4(29~25)に該当し、腎臓の糸球体の濾過機能は「高度低下」と判定され、また顕性アルブミン尿(A3)相当であることが推定されるため、糖尿病腎症病期分類(2014)の第4期(腎不全期)に相当します。
  糖尿病腎症生活指導基準によると、第4期の糖尿病成人症の塩分摂取量は6g/日未満となります。また、高血圧症の生活習慣の修正項目においても、食塩制限は6g/日未満とされているため、10g/日という基準は明らかに不適切な基準ということになります。

 

b 1日蛋白摂取量については、㎏標準体重当たり0.6~0.9gになります。
  身長170㎝のこの症例の標準体重を計算すると、
  標準体重=22×1.7²=63.6㎏
  したがって、1日蛋白摂取量の下限値は63.6×0.6=38.2g
        同様に上限値は63.6×0.9=57.2g
  おおよそ38~58gが1日摂取量の範囲になります。
  1日蛋白摂取量45gというのは、妥当な目安となります。

 

 

c 1日摂取総エネルギー量については、腎不全期では25~30/kcal/㎏標準体重で算出します。
  したがって、1日摂取総エネルギー量の下限値は63.6×25=1,590kcal
同様に上限値は63.6×30=1,908kcal
おおよそ1,600~1,900kcalが1日摂取量の範囲になります。
   総エネルギー量1,400kcal/日は、明らかに少ないということになります。

 

 

d 糖質摂取エネルギー比について、糖質は通常総エネルギー量の60%であり、最低でも50%は必要とされます。したがって、40%という摂取比率は少なすぎます。
 一般に3大栄養素の摂取エネルギー比率は、
  糖質:脂質:蛋白質=6:2:2程度です。

 

 

e コレステロール摂取量に関する明確な数値目標規準は定められていません。