8月20日(木)
ARCHIVE 2020年6月18日 改訂版
わかりやすい臨床栄養学(第6版)
肝癌(191頁参照)、脂肪肝・肝炎・肝硬変(133~140頁)、肥満(87~90頁)、糖尿病(97~104頁)

肝がんの死亡者数は2017年で2万7,114人(国立がん研究センター統計)で、肺、大腸、胃、膵臓に次いで第5位の癌腫です。
胃がんと同様に、わが国のがん診療への取り組みが確認できる癌腫であって、肝がんの死亡率は減少傾向です。ここで大切なのは、肝がんの減少は自然現象ではなく、予防医学的介入によるものだということです。わが国では原発性癌の90%が肝細胞がんです。
わが国の肝がんの診療および治療には、日本肝臓学会編の「肝癌診療ガイドライン」が広く使用されてきました。なかでも日常診療で最も汎用されるのが「サーベイランス・診断アルゴリズム」と「治療アルゴリズム」です。2017年版からは「肝癌診療ガイドライン」が上梓されました。
肝癌は肝障害を背景として発症することから、根治的に治療が行われた後でも再発率は高率です。肝切除後の再発率は年率10%以上で、5年後に70~80%に達します。
肝癌の検出は「サーベイランス・診断アルゴリズム」に基づいて行われます。
〇超高危険群(B型肝硬変、C型肝硬変)は、3~4カ月ごとに腫瘍マーカー(保険適応はAFP、AFP-L3、PIVKA-Ⅱ、1カ月に2種類まで)の測定と超音波検査を行い、 6~12カ月ごとにダイナミックCTまたはダイナミックMRI検査を追加します。サーベイランスにはAFPとPIVKA-Ⅱの2種が汎用され、高度に肝細胞癌を疑うときにAFP-L3が使用されています。
〇 高危険群(B型慢性肝炎、C型慢性肝炎、肝硬変)は、6カ月ごとの腫瘍マーカー測定と超音波検査が推奨されています。
古典的細胞癌の診断には、ダイナミックCTが有用であり、動脈相で高吸収域、門脈・平衡相で低吸収域となり、造影剤のウォッシュアウトを認めます。
近年、抗ウイルス新薬による肝炎ウイルスの持続的陰性化(SVR)が得られた後の症例において肝癌発生例が散見されており、このような集団に対するサーベイランスも重要とされています。
肝がんの予防のためには、まずB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスに感染しないことです。
このウイルスが発見されていない頃は輸血などで感染することはありましたが、現在はB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスに感染する可能性はほとんどありません。
強いていえば血液を介して感染をすることがありますのでB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスに感染している人の歯ブラシやひげ剃りを共有しないでください。
最近、肥満や糖尿病の患者さんで肝機能異常を示す非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が増えています。このような方から肝癌が発生することもあり注意が必要です。
NASHの予防のためには、自身の体格・体重を確認しましょう。
BMI[体重(kg):(身長(m)の2乗)]が25以上になっていないか、ウエスト周囲径が増えていないか(男性85cm以上、女性90cm以上)に注意しましょう。
・血液検査や超音波などの画像検査を積極的に受けて、ご自身の肝臓の状態をよく知るように心がけましょう。
・食生活を見直しましょう。
1) 食べ過ぎに注意し、果糖を多く含む清涼飲料水や缶コーヒー、果物のとり過ぎに注意しましょう。
2) ラードやバターなど動物性の油は飽和脂肪酸が多いので控えるようにしましょう。紅花油、コーン油などリノール酸を多く含む油を使用した揚げものや炒めもの、コレステロールを多く含む卵を使用した料理などもとり過ぎに注意しましょう。トランス脂肪酸を含むマーガリンやショートニングを使用した菓子パンや洋菓子なども避けましょう。
3) 多価不飽和脂肪酸を多く含む青魚や、ビタミンEを含む緑黄色野菜を積極的にとるようにしましょう。
・体内の脂肪を燃焼させるため、ウォーキングやジョギング、水泳、水氣道®などの有酸素運動を週3~4回、30分以上行いましょう。水氣道をはじめとして関節に負担をかけない程度の筋肉トレーニングやヨガなどの運動を加えるようにすると、筋肉量が増加して基礎代謝も高まるので、さらに効果的です。
・ダイエットをうたった健康食品やサプリメントなどを安易に長期間使用するのは危険です。使用する場合は前もって医師とよく相談しましょう。健康ドリンクなどもカロリーが高いものがあるので、とり過ぎないように注意が必要です。
出典:
日本消化器病学会 編,日本肝臓学会協力,患者さんとご家族のためのNAFLD/NASHガイド 2016
杉並国際クリニックにおける検査の実際
血液検査と腹部超音波検査で肝がんの早期発見が可能
肥満や糖尿病の患者さんで肝機能異常を示す非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が増えています。このような方から肝癌が発生することもあり注意を払っています。
肝がんの予防のためには、日常診療の中で、生活習慣病をしっかりと管理することの重要性がますます高まりつつあります。
当クリニックは、肝がん予防という限局的な視点ばかりでなく、「沈黙の臓器」とも呼ばれている、生体内の最大の臓器である肝臓の健康状態を把握することが大切であると考えます。
「沈黙の臓器」である肝臓も、決して語るべき言葉を持たない臓器ではなく、しっかりと耳を傾ければ、いろいろなメッセージを発信してくれています。それは、肝臓ばかりでなく、全身に及ぶ「未病」(註)の発見にも繋がり、全身の健康状態を総合的に把握するうえで大きなヒントになるものと考えています。
この「未病」という概念は、新型コロナウイルス感染症対策を考えるうえでも大きなヒントを与えてくれるものであると、私自身は考えております。
註:
「未病」とは、一般に、「病気と健康の間」の状態を指します。日本未病学会の公式サイトには、「未病」に関する同学会理事長である吉田博先生の紹介文が掲載されているので引用してご紹介いたします。
未病には、自覚症状はないが検査で異常が見られる西洋医学的未病と、自覚症状はあるが検査では異常がない東洋医学的未病という考え方があります。
健康と病気の間を捉える場合、Disease (疾病)、容易ならざる状態ではなく、Illness (病い)、気分が優れず何となく普段と違う段階は、癒しやセルフメディケーションが働くステージでもあり、これらの一部も未病域にも入ることになります。
もとより、未病~病気のスペクトラムはグラデーションになっていてシームレスの状況にあるともいえるのです。社会構造の観点からは、病院完結型医療のCureから地域包括医療のCare、そしてさらにその先には本学会が目指している地域包括未病ケアがあり、これもまた有機的な連続です。
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