当クリニックで行う„癌„予防対策No1

8月17日(月)

嚥下機能の評価と食道がん予防


ARCHIVE 2020年6月15日 改訂版 誤嚥性肺炎と高齢男性の方に多い食道癌

 

参照:わかりやすい臨床栄養学(第6版)<三共出版>

189頁、197項、227-233頁

2020年4月30日 第6版第1刷発行

執筆者代表:飯嶋正広(杉並国際クリニック)

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食道がんは高齢者に比較的多い疾患で、罹患年齢のピークは70歳代です。

がん腫別では日本人男性で7番目位に多い疾患で、近年、罹患率は上昇傾向です。2017年の食道がんによる死亡は1万1,568人で、悪性新生物による死亡の3.1%を占め、人口10万対の年齢調整死亡率は男性7.4、女性1.2でした。


食道がんの発生部位は、日本食道学会の全国調査によると、胸部中部食道が約半数を占め、胸部下部食道がそれに次ぐ頻度です。

組織型は、扁平上皮癌が約90%と圧倒的に多く、他に腺癌が4%程度とされます。

わが国での日常診療では日本食道学会のガイドラインが用いられています。

 

がん予防の臨床試験の目的の一つは、何らかの行動によってがんを予防できるかどうかを検証することです。こうした行動には、果物や野菜が豊富な食事、運動、禁煙の他、特定の医薬品、ビタミン、ミネラル、栄養補助食品の摂取などがあります。



厚生労働省研究班の調査(註1)から、野菜と果物を多く食べる人ほど、食道がん(日本人に多い扁平上皮がん)のリスクが低いことが分かってきました。

あまり野菜や果物を食べない人(1日170グラム以下)と比較すると、よく食べる人(1日540グラム以上)は、食道がんのリスクが約半分(52%)と大幅に低下します。

また、野菜や果物を100グラム多く取るごとに、リスクが10%ずつ低下するという結果も出ています。

 

(註1)
厚生労働省研究班「多目的コホート研究」。日本各地の45歳~74歳の男性約39000人を対象とした追跡調査。2008年8月発表。野菜・果物の中でも、十字花科の野菜(キャベツ、大根、小松菜など)は、リスクを低減する効果が高いことも分かりました。これらの野菜に含まれるイソチオシアネートという成分に、制がん作用があるためと考えられています(註2)。ただし野菜だけ、あるいは果物だけを食べるよりも、野菜と果物の両方を多く食べるほうが、より効果的なので、バランスよく取るようにしましょう。

(註2)
イソチオシアネートは、大根の辛み成分としてもよく知られています。大根の繊維が壊れることで発生するので、細く切ったり、大根おろしにしたりすると増えます。ただし揮発性物質なので、時間がたつほど揮発および酸化によって成分は減少します。大根の千切りサラダや大根おろしは、食べる直前に調理しましょう。
 野菜・果物による効果は、飲酒や喫煙習慣のある人にもみられます。同調査によると、毎日2合以上のアルコールを飲み、タバコも吸う人は、リスクが7.67倍になります。しかし、野菜や果物を多く取ることで、リスクは2.86倍にまで低下します。ですから飲酒・喫煙習慣のある人でも、野菜・果物を多く取ることが大切だといえます。ただし、飲酒と喫煙習慣は、それ自体が食道がんのリスクを高める要因であることを忘れてはなりません。

 

 

食道がんの危険因子は、食道扁平上皮癌に関しては飲酒と喫煙です。しかも、この両方に暴露されることで発癌リスクが上昇するとされています。

したがって、飲酒歴もしくは喫煙歴を有する患者では、消化管スクリーニング時に食道の観察をより慎重に行うべきであるとする意見があります。

 


リスクを高める飲酒と喫煙

食道がんの最大のリスクは、過度の飲酒と喫煙です。

アルコールを飲むと、私たちの体内ではアセトアルデヒドという発がん性物質ができます。特にアルコールを飲んだときに顔が赤くなる人は、アセトアルデヒドの影響を受けやすい体質なので、注意が必要です。

 

また、タバコを吸うと活性酸素が多く発生し、細胞のがん化を促進します。

では、飲酒や喫煙によって、食道がんのリスクがどれくらい高くなるのかについてはさまざまな調査があります。

 

一例を挙げると「飲酒も喫煙もしない人のリスクを1」とした場合、「毎日1.5合以上のお酒を飲む人のリスクは約12倍」、「毎日20本以上タバコを吸う人のリスクは約5倍」になります。

さらにその両方の習慣がある人のリスクは、実に33倍にも及びます(愛知県がんセンターのHP掲載データなど)。

 

逆を考えれば、それだけに食道がんの予防には、まずアルコールの飲みすぎと喫煙の習慣をやめることが非常に大切だといえます。

また、熱すぎる飲み物も、食道に炎症を起こす原因となり、食道がんのリスクの一因となります。

日本茶にせよコーヒーや紅茶にせよ、熱々のままよりは、少し冷ましてから、慌てずに落ち着いて少しずつゆっくり飲むようにしましょう。

治療後の残存食道における異時性多発食道がんばかりでなく異時性重複がんにも細心の注意を払う必要があるとされます。

食道がんのリスク因子である喫煙、飲酒は、同時に頭頚部がんのリスク因子です。

したがって、術後フォローの上部消化管内視鏡検査においては、咽頭観察を十分に行い早期発見に努めることがとても重要です。

 

 


以下のリスク因子は、食道扁平上皮がんのリスクを増加させます。


喫煙と飲酒:

数件の研究によると、多量の喫煙や飲酒を行っている人では食道扁平上皮がんのリスクが高くなります。

 


以下の防御因子は、食道扁平上皮がんのリスクを低下させる可能性があります。

禁煙と禁酒:

数件の研究によると、タバコを吸ったりアルコールを飲んだりしない人では食道扁平上皮がんのリスクが低くなります。

 

非ステロイド性抗炎症薬による化学予防 :

がんのリスクを低下させるために、薬物やビタミンなどの物質を使用することです。

非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)には、アスピリンなどの腫れや痛みを抑える薬剤があります。数件の研究によると、NSAIDを用いることで、 食道扁平上皮がんのリスクが低下する可能性があります。しかし、NSAIDの使用は、心臓発作、心不全、脳卒中、胃や腸における出血、腎臓障害などのリスクを高めます。

 

 

以下のリスク因子は、食道腺がんのリスクを増加させます。

胃逆流:

道腺がんは、胃食道逆流症(GERD)に強く関係していて、特にGERDが長期にわたって持続し、重い症状が毎日発生する場合に顕著です。GERDは、胃酸などの胃の内容物が食道下部に逆流してしまう病態です。

 

この刺激により食道内部が荒れ、徐々に食道下部の内側を覆う細胞に変化が生じる場合があります。細胞にこうした変化が起きた状態は、バレット食道と呼ばれます。後に、変化した細胞がさらに異常な細胞に置き換わり、食道腺がんに進行することがあります。

GERDと肥満が重なると、食道腺がんのリスクがさらに高まる可能性があります。下部食道括約筋を弛緩させる薬剤の使用により、GERDが発生する可能性が高くなることがあります。下部食道括約筋が弛緩すると、胃酸が食道下部に逆流できるようになります。

 

手術などの治療法で胃内容物の逆流を防止することで、食道腺がんのリスクが低下するかどうかは不明です。手術や薬物治療によりバレット食道にならないようにできるか検証するために、臨床試験が実施されています。

 

 

杉並国際クリニックにおける検査の実際

杉並国際クリニックで行っている食道がんの検査は造影エックス線テレビ透視撮影法で行っています。

ただし、その目的は、食道がん発見のためだけに行っているのではありません。

 

食道の検査は、胃・十二指腸を含めた上部消化管全体を調べることができます。それに加えて、近年、超高齢化社会を迎えて、ますます重要性が増しているのは嚥下機能です。

当クリニックでは、食道がんの検査に際しては、嚥下機能を観察します。これは咽喉部の機能ですが、加齢等の影響によって機能低下が生じる(嚥下機能障害)と、誤嚥性肺炎をもたらすことが知られています。

 

消化管造影(X線テレビ透視撮影)検査とは。

X線が物質を透過する作用を使用した「透視画像」を用いて、リアルタイムに体内情報が得られます。診断を目的としたバリウム検査を併用してさまざまな検査・治療に利用されています。


食道造影検査
バリウムを飲んで、レントゲンで撮影する検査です。食道の径、形、通過の状態を全体的に把握します。潰瘍ができている場合その深さも判ります。また、飲み水が肺に流れ込むかどうかも診断できる重要な検査です。

 

上部消化管造影検査(食道・胃)

食道・胃・十二指腸の病変をチェックするための検査です。

通常のレントゲン写真と異なり、X線を連続して照射しながら行います。
バリウムは、X線を透過しないので、バリウムが口から食道、胃、十二指腸へと流れていく様子を動画で見ることができます。

バリウムの流れは、そのまま、私たちの食事の流れということになりますので、食道や胃、十二指腸が狭くなっていないかどうかを見ることができます。また、胃の粘膜についても、体を回転させてバリウムを粘膜に付着させることで、胃潰瘍やがんによる粘膜の凹凸の有無や、胃炎の有無なども見ることができます。

 

 

上部消化管の造影検査と内視鏡検査の違い

上部消化管造影検査(胃透視検査)とは、おもに胃・十二指腸を観察するレントゲン検査です。検査はまず、造影剤と適宜、発泡剤を飲み、造影剤を体の回転により胃・十二指腸粘膜表面に付着させて、レントゲン写真を撮影します。

 

内視鏡検査は、造影検査と比べ、かなり有利な条件を備えています。しかしながら、造影検査と内視鏡検査の違いとして、前者が液体(造影剤)を使用するのに対して、後者は個体(スコープ)を口から喉を通す必要があるため、内視鏡検査に対する不安感や抵抗感が生じます。杉並国際クリニックでは、とくに不安や緊張が強い方が多いため、内視鏡検査を積極的に展開させるには至りませんでした。

 

内視鏡検査のもう一つの問題点が偶発症です。1988年から1992年までの日本消化器内視鏡学会の統計によると、上部内視鏡検査の際起こりうる偶発症は約0.0023%(検査総数6,102,864件に対し141件)と報告されています。

つまり、頻度は少なく、安全性の高い検査と言えますが、10万件に2人の割合で偶発症が起こることになります。

その内訳は出血、穿孔、ショックなどですが、死亡に至った例が13例報告されています。たとえ頻度としては少なくても偶発事故に備えるためには、救急処置室および外科設備が必要であると考えています。

 

内視鏡検査のさらなる限界は、消化管の全体像の把握がむずかしく、消化管の形態(かたち)に現れる異常の発見には優れていても、その機能(はたらき)の観察にはあまり向いていないということです。そして、大多数の症例での異常は形態異常ではなく機能異常だからです。

 

一方、造影検査による偶発症に関する正確な疫学調査は把握されていませんが、大半はバリウムの誤嚥(気管内吸引)や検査台からの転落などで、重篤なケースは極めてまれと考えられます。上部消化管の立体的位置関係を含む全体像の把握など形態異常ばかりでなく、機能異常の発見にも有用です。

 

 

 

嚥下造影検査

検査の内容と目的

嚥下造影検査とは、飲み込みの過程や状態を正確に評価するための検査です。

摂食・嚥下障害(食べ物がうまく飲み込めず、誤って気管に入ってしまうこと。「誤嚥」ともいう)の疑われる患者さんに行い、のどの形や、飲み込み方に問題が無いかどうかを調べるのがこの検査の目的です。またこの検査により、確実に飲み込むことができる体位や、患者さんに適した食物の状態(「とろみ」をつけた方が良い、ゼリー状のものが良いなど)を検討します。
 

摂食・嚥下障害の疑われる患者さんは、誤嚥により肺炎を繰り返し発症することがあり(誤嚥性肺炎)、健常者と比べ、肺炎により死亡するリスクが増加します。誤嚥を診断して予防する方法を探すことが必要です。
 

嚥下造営検査の結果により経口摂取が可能かどうか判断できます。さらに、誤嚥を予防する体位や食事方法を検討することで誤嚥性肺炎を予防することにつながります。むせないように確実に食べ物を飲み込むことは、肺炎防止のために大変重要なことです。