統合医療(東洋医学・心身医学)新型コロナウイルス感染症の積極的予防法:金羚感冒散(きんれいかんぼうさん)

8月15日


好評につき、先週のテーマとの関連のある記事としました。まだ8月1日、8月8日の記事をお読みでない方は、予め目を通していただければ幸です。

 

8月1日

 

8月8日

 


さて、本日ご紹介する『金羚感冒散(きんれいかんぼうさん)』は、治療で用いられるのは、熱っぽさがあって、ノドが赤く腫れて痛み、鼻水や痰が粘り、口が渇くものに用いられてきました。

 

しかし、感冒以外にも、熱による痒みや眼の充血にも応用され、花粉症の目の痒みにも効果があります。さらに、全身の熱感や発熱ではなく、局所の炎症(皮膚の発疹や口内炎など)にも有効です。それ以上に、ノドの初期症状に対して、即座に対応が可能であれば、ほとんどの例で速効するので、杉並国際クリニックに通院中の皆様で、これをお試しになった方には詳細な説明は不要かもしれません。

 

症状が現れて時間が経ってしまうほど、効果の切れ味が鈍くなるため、より長期の服用を要します。ノドに何らかの異変を感じたら、すかさず内服できるのが理想ですが、そのためには家庭の常備薬とし身近に確保しておくことがベストです。

 

金羚感冒散は、通常は銀翹散(ぎんぎょうさん)と呼ばれています。これは風熱邪に伴う感冒に用いられてきた代表方剤です。

 

とても優れた生薬構成なのですが、このような良い薬に限って、残念ながら保険収載されていません。

 

つまり、漢方専門医であっても、保険診療の枠組みの中で限定的に処方している限りにおいて、この漢方薬の効能の素晴らしさを実感することはできないということになります。

 

私自身も、患者さんの経済的負担を忖度するあまり、日本の保健医療制度にどっぷりと洗脳されてきたようなものでした。

 

しかしながら、漢方診療と言えば、ひたすら30年以上保険漢方にこだわり続けてきたことによって、かえって視野を狭めてきたことを痛感している一人です。

 

おそらく、コロナパンデミックを経験しなければ、予防を含めた漢方の効能の素晴らしさを直接体感できず、臨床応用できずに終わってしまった可能性が高いです。

 

 

先週は、生薬医学の古典である『神農本草経』が生薬を上品薬、中品薬、下品薬の3群に分類していることをご紹介しました。

 

そして、杉並国際クリニックが推奨する新型コロナ対策免疫増強処方として、最も基本に位置付けている第一段階の漢方薬として『玉弊風散(ぎょくへいふうさん)』を推奨していますが、3つの構成生薬のすべてが上品薬であることを述べました。

 

本日ご紹介している『金羚感冒散』は、杉並国際クリニックの患者さんであれば、すでにご存じの漢方薬ですが、これは10種の生薬で構成されています。

 

そのうち中国最古の生薬テキストである『神農本草経』(1~2世紀ころの成立)に収載されている最も古くからの生薬は5種のみで、他の5種の生薬は、これと並び称せられているテキスト『名医別録』(1~3世紀ころの成立)をはじめ、中国史上はじめての勅撰本草書である『新修本草』(659年)や『証類本草』(1090年頃)に、それぞれ3分類と共に、以下のように収録されています。

 

【上品(上薬)2味】
甘草(かんぞう)『神農本草経』、金銀花(きんぎんか)『名医別録』

 

【中品(中薬)5味】
淡竹葉(別名、竹葉)、羚羊角(れいようかく)『神農本草経』、薄荷(はっか)『新修本草』、
淡豆豉(たんとうし)、牛蒡子(ごぼうし)『名医別録』

 

【下品(下薬)3味】
桔梗(ききょう)、連翹(れんぎょう)『神農本草経』、荊芥(けいがい)『証類本草』

 

 

『玉弊風散』との大きな違いは、生薬の種類が多いことと、三品分類では、上品薬ばかりでなく中品薬が多く、下品薬も3味含まれているということです。
 

「下(品)薬」とは、急性の病気の治療を目的とした速効性のある生薬ですが、その分副作用を伴いやすいことについては既にご説明した通りです。

 

これに対して、「上(品)薬」は食事の延長線上にあるサプリメントにも通じる性質を帯びていて、しかも他の薬による副作用を軽減することができるという特徴が優れています。

 

つまり、「下(品)薬」の副作用対策として「上(品)薬」を組み合わせておくことによって、より安全かつ確実な薬効を期待できることになります。

 

そのような視点から、『金羚感冒散』の下品薬を分析してみると、下品薬3種のうち「荊芥」を除く2種は上品薬とセットになって構成されていることが見えてきます。

 

杉並国際クリニック方式では、それ以前にすでに『玉弊風散』の3種の上(品)薬によって、すでに免疫力強化および副作用発現防止対策は万全であることは容易にご理解いただけるものと思います。

 

【下品(下薬)3味】

・下品の「荊芥」は辛温解表剤

 

・下品の「桔梗」は上品の「甘草」とともに『桔梗湯』(のどの炎症・痛みをとる)…冷やす働きのある生薬

 

・下品の「連翹」は上品の「金銀花」とともに清熱解毒
次いで、中(品)薬の5種は以下の通りで、概ね「熱を冷ます」効果を発揮します。中(品)薬は、人によっては毒にも薬にもなる治療薬ですが、必要に応じて適宜配合すれば病気を防ぎ、体力を補うことが期待できるものです。

 

【中品(中薬)5味】

・中品の「淡竹葉」は清熱除煩

 

・中品の「羚羊角」は瀉火解毒

 

・中品の「薄荷」・「淡豆豉」・「牛蒡子」は辛涼解表

 

 

最後に、新型コロナウイルスに対する積極的予防法をすでに実践中の皆様からいただくご質問をもとに、より有効な使用法について手短にポイントをご紹介しておくことにいたします。

 

<『金羚感冒散』の主な応用法>

① 新型コロナ予防対策としては、まず日頃から『玉弊風散(ぎょくへいふうさん)』を1日1~2包内服して、免疫力を高めておくことが望ましいです。

 

② 『金羚感冒散(きんれいかんぼうさん)』を使用する場合は『玉弊風散』と併せて(混合して)湯に溶かして、少しずつ喉を潤すように服用してください。

 

③ 嘔吐・下痢などの消化器症状(霍乱:かくらん)を伴う場合は、『藿香正気散(かっこうしょうきさん)』と併せて(混合して)湯に溶かして、少しずつ喉を潤すように服用してください。

 

④ 高熱(平熱+1.5℃以上:平熱36.5℃であれば38℃)があれば『地竜(じりゅう)』も内服してください。