アレルギー専門医が診る皮膚疾患、湿疹その1(アトピー性皮膚炎)接触皮膚炎)

8月10日(月)

 

厚生労働省が発表しているアトピー性皮膚炎の総患者数は2014年度で456,000人です。成人のアトピー性皮膚炎患者が増加していて、たとえば、40~44歳で47,000人にのぼります。日本皮膚科学会・日本アレルギー学会による「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018」は2018年12月に改訂されたものが最新版です。

 

アトピー性皮膚炎は、一般に慢性に経過しますが、適切な治療によって症状がコントロールされた状態が長く維持されると、寛解も期待できる疾患です。しかも、年齢とともにある程度の割合で寛解します。

 

それでも長期にわたってアトピー性皮膚炎が改善しないケースにはある程度の共通点があります。

それは、

①治療の目的やゴールが明確になっていない(痒みが落ち着くと直ちに治療を中断してしまうケース)、

 

②根気強く治療を続けることができない、

 

③寛解導入療法や維持療法についての理解ができない、

などです。

 

つまり、そのときどきの炎症の程度に応じた対応をして、しかも炎症はしっかりと抑えておくことが大切であり、炎症がコントロールできた後もスキンケア(清潔、保湿)を続け、良好な状態を継続することが重要です。

軟膏等の使用法も鍵となり、必要十分量を塗ることが決め手になります。

 

 

軟膏療法を行なっても紅斑などの炎症が抑えられず、浸出液などが出ている状態や、紅皮症が生じている場合は、皮膚科専門医に紹介すべきと一般的には考えられています。

 

しかし、実際には、皮膚科を受診しているにもかかわらず、このような状態になって当院(当時は、高円寺南診療所)を受診する方が後を絶たなかった時代(平成10年代)がありました。

 

この頃は、ステロイド恐怖症という診断名が相応しくなるくいらいの極端に潔癖なキャラクターの患者さんが少なくなかったという時代背景もありました。

 

 

アトピー性皮膚炎の病態は、

 

①皮膚バリア機能、

②アレルギー炎症、

③掻痒の

3つの面から考えられています。

 

アトピー性皮膚炎の患者では、皮膚バリア機能の低下のため非特異的な刺激に対する皮膚の非刺激性が亢進し、炎症が起こりやすくなると考えられています。

 

アトピー性皮膚炎の患者の多くでは、皮膚組織でのインターロイキン(IL4、IL13)などのTh2サイトカイン優位の環境にあるため、角層細胞の実質部分に含まれるフィラグリンという物質量が減少しやすいアトピー性皮膚炎患者の皮膚は乾燥し、pHがアルカリ側に傾きやすいことが知られています。
 

 

アレルギー炎症については、皮膚バリア機能の低下による抗原(アレルゲン)の皮膚への侵入を促進し、非自己である抗原は免疫・アレルギー反応により排除される方向へと誘導されます。

 

コナダニや花粉のようなアレルゲンは蛋白抗原であり、また含有されるプロテアーゼ(蛋白分解酵素)によってTh2型の免疫反応を誘導します。とくにTh2型の免疫反応はIgEの誘導に繋がります。

 

この様な環境では、表皮からも産生されるTh2ケモカインであるTARC(CCL17)が産生されます。これは、現在、アトピー性皮膚炎の活動性(病勢の重症度)の指標として利用されています。

 

掻痒については、アトピー性皮膚炎患者の皮膚では、掻痒を伝達するC線維の分布が表皮や角層まで伸長しており、痒み過敏につながっていると考えられています。

 

近年、Th2細胞が産生するサイトカインの1つであるIL-31が掻痒を誘導することが報告されています。

 

 

初診時に必要な検査:

① 血清総IgE値(アトピー性皮膚炎患者の約80%で高値を示すため診断の助けになる)

 

② 特異的IgE抗体検査(ダニ、ハウスダスト、花粉、真菌、食物など)

 

③ 皮膚プリックテスト

 

④ 末梢血好酸球数(アトピー性皮膚炎の短期的な病勢と重症度の指標)

 

⑤ 血清LDH値(アトピー性皮膚炎の短期的な病勢と重症度の指標)

 

⑥ 血清TARC価(アトピー性皮膚炎の病勢をより敏感に反映する指標)

 

 

鑑別診断(除外すべき診断):

接触皮膚炎、乾癬、手湿疹、脂漏性皮膚炎、皮脂欠乏性皮膚炎、単純性痒疹、疥癬、魚鱗癬、

皮膚リンパ腫、膠原病(全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎)、

免疫不全による疾患(高IgE症候群、ウィスコット・アルドリッチ症候群など)、ネザートン症候群
 

 

このように、アトピー性皮膚炎の鑑別のためには、アレルギ―性疾患だけでなくリウマチ関連疾患である膠原病や免疫不全との鑑別が不可欠です。

 

アレルギー専門医・リウマチ専門医としては無関心ではいられない領域であることがご理解いただけることと思います。

 

 

治療方法:

アトピー性皮膚炎の治療方法は、その病態に基づいて、

①薬物療法、

②皮膚の生理学的以上に対する外用療法・スキンケア、

③悪化因子の検索と対策、

の3点が基本となります。

 

そして、アトピー性皮膚炎は遺伝的素因も含んだ多因子性疾患であり、現在、疾患そのものを完治させ得る治療法はなく、心身医学的配慮が必要な場合も少なくない、いというのが皮膚科専門医の代表的な見解です。

 

しかし、逆に言えば、皮膚科専門医が心身医学的アプローチを駆使できれば治癒率は顕著に増加することが期待できるのですが、「心療皮膚科」という部門を立ち上げて実践しているごく少数のグループを除いて適切に対応できる皮膚科専門医は少ないのが現状です。

 

 

アトピー性皮膚炎治療の第一のコツは、患者さんが皮膚を激しく掻破しないようにサポートすることが基本です。

 

私は「皮膚を全く掻破さえしなければ、重症例でも3カ月で治る」と保証しています。

 

しかし、全く皮膚を掻かないことは非現実的であるので、「皮膚を掻いて掻破しても、翌日までに回復する程度の侵襲であれば問題がない」ということも保証しています。

 

アトピー性皮膚炎治療の第二のコツは、「汗」との付き合い方を学んでもらうことです。

 

「発汗」すると痒みが増強する人には、「汗」の有難さを説明します。

まず、汗には皮膚の温度調節、感染防御、保湿といった大切な生理的役割があります。

次いで、「発汗」が症状を悪化させるという科学的根拠はなく、発汗を避ける必要はないことを説明します。

 

しかし、そうはいっても、「かいた後の汗」は痒みを誘発させることがあるのは事実です。

 

そこで、「かいた後の汗」はそのまま放置せず、洗い流すなどの対策を行うことが推奨されます。

つまり、「発汗(汗をかくこと)」と「かいたあとの汗」を明確に区別して混同しないようにして意識を整理していただくようにしています。

 

私は、むしろ「発汗」を促進することがアトピー性皮膚炎の治療に有効であるばかりか、根治療法にも繋がると考えています。

 

発汗に伴い分泌される皮脂は皮膚の防禦素材でもあるからです。

 

ですから、「発汗」した後は、シャワーもしくは入浴を勧めますが、可能であれば入浴とします。

そして、入浴に際しては、タオル等(スチールタオル等は最悪!)で擦らず、石鹸等も用いないで、素手で全身の皮膚を撫でるようにして汚れを取り除くだけにとどめていただきます。

ただし、頭皮のみは適切なシャンプーおよびリンスの使用は許可しています。

 

 

アトピー性皮膚炎治療の第三のコツは、アトピー性皮膚炎は皮膚に症状があらわれる全身の病気であるという疾患理解をもつことです。

 

単に皮膚に原因があって、その結果が皮膚に現れるだけであれば、真の専門的皮膚疾患ですが、アトピー性皮膚炎の原因としての皮膚の異常は比較的限定的であると、私は見ています。

 

アトピー性皮膚炎は遺伝的素因も含んだ多因子性疾患であることは、皮膚科専門医の間でも正しく認識されています。アトピー素因というものが確かに存在して、アトピー性皮膚炎の患者さんは、喘息や花粉症を併発していることが多いです。

 

そのような場合、総合アレルギー診療を行わない限り、アトピー性皮膚炎の完治は望めません。また、アトピー性皮膚炎には生活習慣病的要素も濃厚であることには、皮膚科専門医の間ではあまり触れられていません。

 

なぜならば、それは内科の領域になってしまうからです。さらにいえば、皮膚科専門医が難治性アトピー性皮膚炎としている症例の多くが、心身症傾向をもつ患者さんです。

そのような患者さんに対しては、心身医学的アプローチが必要となってきます。

 

これは、誤解が多いようですが、精神療法や心理療法とは異なります。

 

私が実践しているオリジナルの心身医学療法は水氣道®や聖楽療法ですが、いずれも身体鍛錬と精神修養を一体的に行なうものです。

 

「プールでの水中運動はアトピー性皮膚炎を増悪させるので禁止する」という皮膚科医は極めて残念です。

アトピー性皮膚炎の経過を観察するうえでも、短期的な指標と長期的な指標とに分けて判断しているはずであるにもかかわらず、短期的な観察のみで判断を下してしまうのは専門家としては甚だ情けない態度だと思います。

 

水氣道®に参加されている皆様であれば、かつて皮膚科専門医の指導下で軟膏療法を行なっても紅斑などの炎症が抑えられず、浸出液などが出ている状態や、紅皮症が生じていた患者さんが、それを見事に克服してリーダーとして立派に活躍している姿を確認することができるはずです。