統合医療(東洋医学・心身医学)印象操作されてきた漢方薬

8月8日


今日のテーマを何にしたら読者の皆様の役に立てるか、と野口将成氏に問いかけてみたところ、先週の記事についての注目度が高いので、話題を掘り下げて解説することによって、今後のCovid-19との共生時代をどのように過ごしていったらよいかの道標になるのではないか、との意見でした。

 

ご尤もであります。

 

それでは、早速、皆様からの想定リクエストにお答えすることに致しましょう。

 

 

「一般的に漢方薬と言えば、長期的に、体にじっくり働きかけて、体質を改善するというイメージです。知識のある人でさえ、漢方薬は感染症のような“急性疾患”のために開発されたもの、程度が関の山でしょう。」

 

実は、漢方薬は健康の維持増進や疾病の予防のためにも役立つようにできています。

 

漢方では、中医学最古の学術専門書である『神農本草経(シンノウホンゾウキョウ)』には、生薬を上中下の三つに分類して紹介してあります。

 

この中で「上薬」に分類される生薬は、次のように定義されています。

 

「生命を養う目的のものである。無害で長期間服用しても副作用はない。これらには身を軽くし、元気を益し、老化を防ぎ、寿命を延ばす薬効がある」と。


つまり、自然治癒力を高めて健康でいるために、長く続けて飲んでもよいものである、ということが書かれています。

 

このように、漢方では西洋薬的なタイプの生薬=「下薬」を“格が低い薬”とし、「上薬」や「中薬」のようなタイプを上位にランクしています。

 

それは、作用の強さよりも“副作用の危険性が少ない”ことを重視する価値観に基づいているためです。

 

たとえば、急性疾患で用いられる漢方薬の構成生薬の主薬(=主役)は、下薬に分類されているものによって占められています。

 

下薬の薬効は速効性があるので派手な効き方をしますが、その分、副作用も懸念されます。

 

「下薬」は病気を治す作用は強いものの、摂取量や期間に十分配慮する必要があり、西洋薬によく似たタイプの生薬といえるのです。

 

実際に、「下薬」の中には西洋医学的な実験で作用を確認できるものがかなりあり、例えば、大黄(だいおう)に含まれるレインという物質には特殊な抗菌作用(殺菌的作用)があり、附子(ぶし)に含まれるアコニチンには鎮痛・抗炎症作用があります。
 

 

これに対して「上薬」というのは、西洋薬のような特効薬的な効果はないものの、毎日摂取して体質を強化するなどの効果があり、他の薬による副作用を軽減するのです。

 

この「上薬」を上手に用いて、健康の維持増進や疾病の予防のためにも役立てようという発想は素直に湧き上がってきてもよさそうなのですが、残念ながら現実の壁、というものがその前に立ちはだかっています。

 

それの最大の要因は漢方薬に対する皆さんのイメージが「印象操作」を受けているからです。主なタイプを列挙してみます。

 

① 薬というものは、すべからく病気になって初めて持ちうるべき毒物なので、なるべくがまんして飲まない方が良い、という思い込み。

 

② 本当に信頼できる薬であれば、健康保険が効いて当り前である、という誤解。

 

③ そもそも漢方薬なんか時代遅れで非科学的である、と誤信(=誤診)している医師からの洗脳。

 

④漢方薬には副作用がないという、ナイーブで危険な信仰。

 

以上は、ある程度已むを得ないことかもしれません。

医師であり、しかも1997年からずっと漢方専門医である私自身も、漢方を処方するようになるまでは半信半疑だったからです。

 

ところが、今となっての実感は、日本の医師は、ひとたび漢方薬を駆使できるようになれば、対応できる様々な症例のキャパシティーは、一挙に数倍の拡がるといっても過言ではないということです。

 

 

「治療に用いる漢方薬は、個々の患者さんの体調や気分などの特性(『証』といいます)に応じて処方するため、個々の病気に対する万能薬はありません。」

 

しかし、ひとたび健康の維持増進や疾病の予防のために用いる場合には、『証』にこだわらずに利用しやすい漢方薬があります。

 

それは、健康の維持増進や疾病の予防のために用いるのは主として「上薬」であるために、誰のどのような状態に使っても“副作用の危険性が少ない”薬だからです。

 

体質を強化するなどの効果は、毎日摂取してはじめて発現するのが「上薬」であるということは、「上薬」は食事の延長線上にあるサプリメントにも通じる性質を帯びていて、しかも他の薬による副作用を軽減することができるという特徴が優れています。

 

急性の病気の治療を目的とした「下薬」は個々の『証』を見極めたうえで処方しないと効果が期待できないばかりか、副作用を伴いやすいのに対して、「上薬」はおおらかに家族ぐるみで利用することも可能です。

 

それでは、上薬の中で最上の薬は何でしょうか?

 

コロナ騒動で不安が蔓延する中、治療薬や予防薬も確立されていない現状で、私達が今すぐにでも出来ることは感染しないように予防することがまず一番です。

 

この他に、どんな不調でも自身の体力や自然治癒力が低下していると、病気に罹りやすかったり、重篤化してしまったりする可能性が高まるので、普段から自身の自然治癒力を向上させていくことは予防の他に出来る重要な対策だと思います。

 

免疫力や自然治癒力を高めるのに速効性のある「特効薬」は残念ながらありません。

 

しかし、不安な気持ちのままストレスを溜めておくことこそ、自然治癒力を低下させる大きな要因のひとつです。そこで自然治癒力の向上の手助けになる生薬の上薬を活用しない手はないと考えたわけです。

 

 

たとえば、杉並国際クリニックのコロナ対策推奨漢方薬の中で、もっとも基本としている「玉弊風散(ぎょくへいふうさん)」の構成生薬は、

黄耆(おうぎ)、

白朮(びゃくじゅつ)、

防風(ぼうふう)

の3味ですが、

この3味ともに『上薬』です。保健もしくは予防的な薬物が『上薬』なのです。

 

黄耆はフラボノイド、サポニンを含有し、止汗、利尿、強壮に効果、さらに血圧降下作用、疼痛効果をあらわします。

 

白朮は、主要な氣の強壮薬の一つで、脾や胃の虚証に特に用いられます。

この生薬は中国では唐王朝の時代(650年ごろ)から広く利用されています。最近では、ダイエット中に食欲を抑える漢方薬としても奨励されています。

 

防風は「治風通用の薬」と呼ばれ薬力が緩和であるところから、「風薬中の潤薬」とよばれ、様々なタイプの風邪に適し、関節痛や皮膚痒疹、口臭にも使用します。

 

「漢方は本人の免疫力を高めることにより、ウイルスがいる部分の“局所炎症”を促進し、ウイルスが体内に増殖するのを防ぐといいます。」

 

もしその理論の通りだとすれば、免疫力を高めるのは感染してしまってからが妥当なのでしょうか、それとも、感染する前に可能な限り免疫力を高めておくことが望ましいのでしょうか。

 

難しい質問ではないと思います。ここで少し、考えてみてください。

 

ウイルスに感染して、しかも発症したとするならば、その時点で本人の認識とは無関係に免疫力が相当程度低下していると考えるべきでしょう。免疫力が低下した人に、いきなり『下薬』を投与しようとしているのが、いわゆる先進国の医療です。

 

『下薬』投与することによって、患者の免疫力を大いに混乱させてしまうことについて考えが及んでいません。

 

まずは、『上薬』を投与して、免疫力を回復させ、今後投薬される薬物による副作用が顕現されるような環境を準備してから『中薬』で病勢を食い止め、最後に、必要とあれば『下薬』で決定的な勝利を収める、というのが私の考案した「三段階」治療セオリーなのです。

 

幸にも私の治療仮説は、次々と実証され続けています。

 

 

まとめ:

三品分類『神農本草経』

 

上薬:生命を養うことを主とする。無毒。長期服用しても人を害しない。身を軽くし、体を益す。不老長寿の薬。

 

中薬:人によっては毒にも薬にもなるので、適宜配合して病を防ぎ、体力を補うことを目的うとするもの。

 

下薬:病を治すことを主とするが毒性も強いので長期の連用は慎むべきとされるもの