内科医が診る代表的な泌尿器疾患、尿失禁

8月7日(金)

 

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尿失禁は、下部尿路症状の頻度の高い代表的な疾患です。わが国の2002年の疫学調査による推定有病者数は、切迫性尿失禁は、男性202万人、女性377万人;腹圧性尿失禁は、男性82万人、女性461万人と推定されている。尿失禁にはタイプがあり、いずれのタイプも命に関わるような病気ではないが、著しくQOLを生涯しかねない代表的な疾患です。

 

現在、わが国の尿失禁に関連したガイドラインは、「女性下部尿路症状診療ガイドライン〔第2版〕」(2019年)、「男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン」(2017年)、「過活動膀胱診療ガイドライン〔第2版〕」(2015年)です。

 

尿失禁の患者の多くは、泌尿器科専門医にかかると完全に尿失禁が治るという過大な期待を持って来院するそうです。高齢の患者に、いくら骨盤底筋体操を勧めても、身体能力の問題や、治療意欲の問題で、治療効果が期待できないこともあります。そうした患者さんが主治医となっている内科医に救いを求めてくることも少なくありません。大切なことは、尿失禁の病態を把握し、どこまで治せるかを示し、患者の希望を聞きつつ、実現可能なゴールを設定することです。

 

そもそも尿失禁とは、自分の意思とは関係なく尿が漏れる症状をいいます。これは社会的・衛生的にも問題となりうる病態です。尿失禁への対応は、まず尿失禁を評価することです。具体的には、尿失禁のタイプ、重症度、QOLへの影響、有病期間を把握する必要があります。

 

しかし、すべてのタイプの尿失禁の治療は、基本的には保存療法(生活指導・行動療法と薬物療法)が優先されます。それに加えてタイプ別の治療を検討します。

 

 

(1) 切迫性尿失禁:

膀胱に問題があって尿意切迫感を伴い、排尿筋収縮を伴ある尿失禁です。背景には、排尿筋の過活動(過活動膀胱)が主たる病態とされますが原因は多彩です。男女ともに、加齢とともに頻度が増加します。
治療の主要原理は膀胱過活動や尿切迫感の求心性伝達を抑えることにあります。

 

① 生活指導・行動療法、②薬物療法(β₃アドレナリン受容体作動薬は副作用が少ないため使いやすい)、③神経変調療法(電気刺激療法・磁気刺激療法・仙骨神経刺激療法)、④手術

 

 

(2) 腹圧性尿失禁:

尿道に問題があって肉体的活動(歩行、怒責、運動)や咳・くしゃみなどにより腹圧が上昇したときに発生する尿漏れをいいます。

混合性尿失禁:腹圧性と切迫性の両方のタイプを有した尿失禁です。治療に関しては尿失禁の原因が切迫性、腹圧性のいずれ関与が優位か、優位な方の治療を優先させます。

 

(3) 溢流性尿失禁:

尿閉状態で、尿が溢れ出る状態です。主要な原因としては、下部尿路閉塞と排尿筋低活動の2つがあります。前立腺肥大症による慢性尿閉などが代表的です。基本的には慢性尿閉測状態なので、原因を確認し、その原因除去に努め、尿道抵抗を少なくします。膀胱低活動が原因であれば、排尿筋収縮力の増強を目的として、膀胱へ作用するコリン作動性薬、ジスチグミン臭化物が使用されます。前立腺肥大が原因の場合は、前立腺肥大の治療を行います。

 

(4) 機能性尿失禁:

尿路系以外の問題で尿失禁を起こす状態です。