7月28日(火)
産業医と医師の違い
社員が50名を超える企業に義務付けられている産業医の選任。「会社専属の医師がいるなら、社員の健康診断や治療も依頼できる」と、病院や診療所で勤める医師とを混同している方が多数を占めているように思われます。
たしかに産業医も医師ですから、一定範囲の医療行為を行うことは可能であり、したがって、一般の臨床の医師との共通する基盤は存在します。
【メンタルヘルス改善】
近年深刻な問題になっているメンタルヘルス問題ですが、メンタルヘルス問題は、精神科医や心療内科医のみならず一般内科医も対応すべき時代になりました。
メンタルヘルス問題は目に見えにくく判断が困難なため、発見が遅れるケースも珍しくありません。
産業医は労働の現場での労働者のメンタルヘルス問題に早めに気付きやすく、それだけ早期の対策をすることが求められています。
メンタルヘルス問題の発見は早ければその分治療もしやすいといわれているので、早期発見が大切です。メンタルヘルス問題に気が付き、適切な対応をすることでメンタルヘルス改善に努めることができるでしょう。
【労働環境の改善】
労働環境に問題がある場合、産業医は労働環境の改善のため、事業所側に適切な指導や助言をすることは、主治医である一般の臨床医も可能ですが、多くは職場から診断書の提出を求められたときに限られますが、産業医は直接行うことができます。
労働環境を改善することで労働者が働きやすい環境が整い、全体的な作業効率アップが期待できるでしょう。
【健康指導・衛生指導】
労働者1人1人の健康状態や嗜好を把握の上で、食事や運動、生活習慣の見直し等、適切な指導や助言をして健康状態の改善に努めることは臨床医も産業医も共通する点です。
しかし、労働者の健康状態が思わしくない場合、産業医は、より早期の健康指導や衛生指導が可能です。
職場環境に熟知していて労働衛生の専門的な立場からの健康指導があることで健康回復や健康維持に努めることが可能になります。
ただし、主治医とは違った立場から1人1人の特徴に合わせ、助言指導していくことも産業医の大切な役割となるでしょう。
そこで産業医は医師として企業内でどのような立場にあるのかを説明しながら、通常の医師との違いを解説してみます。
ポイント1:産業医は治療をしない
産業医も医師の1つであるため誤解されがちですが、産業医が労働者の治療を行うことはありません。個人の治療を行うことを目的とする通常の医師(臨床医)と違い、産業医は契約企業に勤める労働者全体の健康管理をするのが役割。そのため、個人の治療は範疇外になります。
同様に、会社内の健康診断を産業医が直接行うことは基本的にありません。
それでは、産業医と主治医を兼任してもらえば楽なのでは?と考えてしまうかもしれません。私もかつてはそのように考えていましたが、あくまでも産業医は、企業に対し「意見を述べる」立場にあり、個人の診断や治療を行うといった権限は持ち合わせていないのです。
産業医と主治医の兼任は、それぞれの立ち位置が異なるためトラブルの原因になりえます。受診者にとっても企業にとっても得策ではないと考えられているようです。ですから、契約をしている企業の労働者の主治医となることは産業医からも断られることがほとんどでしょう。
ポイント2:業務内容の違い
産業医が企業で行うのは、面談を通じて得た情報をもとに、職場での事例性や疾病性を判断し評価することです。評価した内容を「産業医意見書」として提出します。
また、休職中や就業制限中の労働者と面談し、復職や働き方について、企業に意見を述べるのも業務の一環。治療が必要と判断した場合は、医療機関への受診を勧めることもあります。
ポイント3:場所の違い
医師は、病院や診療所などの「医療機関」で患者の治療を行います。
それに対し、産業医が働く場所は、「契約企業内」や「産業医事務所」です。業務の一環として、企業や労働者との面談やアドバイスがありますが、こういった業務も事業所内や産業医事務所で実施します。
ポイント4:契約者の違い
産業医と通常の医師では、契約者が異なります。
通常の医師(主治医)は、診察に来た「患者個人」と契約を結び、病気の治療を行います。それに対し、産業医は「企業」と契約し、企業内労働者の心身の健康管理を行うことを目的としています。このように、産業医と通常の医師の間には、契約先が「企業」か「個人」かといった違いがあるのです。
ポイント5:対象者の違い
産業医が対象とする人は、契約企業で働く労働者全体です。健康状態の良い人から心身の健康に問題を抱えた人まで、事業所で働く全員が対象となります。
一方、臨床医が対象とするのは、病院や診療所に受診に来た個人です。ケガをした人や健康に問題を抱えている人、心身の健康に不安を感じている人などに適切な治療を行うため、「患者個人」が対象になります。
ポイント6:その他の違い
業務内容や目的が違うので、判断する際の視点にも違いがあります。
産業医は、現時点の健康状態だけでなく、直近の健康診断結果や就労状況を踏まえて、労働者の就労に意見を述べます。「働けるかどうか」「働くことで症状が悪化しないか」「健康を維持しながら働くにはどうしたら良いか」など、産業医の業務目的は「働くこと」と密接に関わってくるといった特徴があります。
産業医と主治医で意見が対立することも・・・
「復職」についての意見を例に挙げて説明します。
企業と労働者の間で中立的な立場を取る産業医は、より客観的な視線で就労の可否を判断し、産業医意見書を企業に提出できます。それに対し、主治医としての臨床医は患者本人の意志を優先することが多くあります。回復が十分でない場合でも、本人が強く復職を希望するのであれば、就労の許可を下すことが少なくないのです。
産業医には、中立的立場での客観的な判断が求められるのに対し、臨床医は患者の健康や立場、利益などを最優先するため、患者寄りの意見になります。そのため、意見の相違が出てくるケースもあるのです。
ARCHIVE
- 2025年1月
- 2024年12月
- 2024年11月
- 2024年10月
- 2024年9月
- 2024年8月
- 2024年7月
- 2024年6月
- 2024年5月
- 2024年4月
- 2024年3月
- 2024年2月
- 2024年1月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2023年9月
- 2023年7月
- 2023年5月
- 2023年4月
- 2023年1月
- 2022年12月
- 2022年11月
- 2022年9月
- 2022年7月
- 2022年6月
- 2022年5月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年10月
- 2021年9月
- 2021年8月
- 2021年7月
- 2021年6月
- 2021年5月
- 2021年4月
- 2021年3月
- 2021年2月
- 2021年1月
- 2020年12月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年7月
- 2020年6月
- 2020年5月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年9月
- 2019年8月
- 2019年7月
- 2019年6月
- 2019年5月
- 2019年4月
- 2019年3月
- 2019年2月
- 2019年1月
- 2018年12月
- 2018年11月
- 2018年10月
- 2018年9月
- 2018年8月
- 2018年7月
- 2018年6月
- 2018年5月
- 2018年4月
- 2018年3月
- 2018年2月
- 2018年1月
- 2017年12月
- 2017年11月
- 2017年10月
- 2017年9月
- 2017年8月
- 2017年7月
- 2017年6月
- 2017年5月
- 2017年4月
- 2017年3月
- 2017年2月
- 2017年1月
- 2016年12月
- 2016年11月
- 2016年10月
- 2016年9月
- 2016年8月
- 2016年7月
- 2016年6月
- 2016年5月
- 2016年4月
- 2016年3月
- 2016年2月
- 2016年1月
- 2015年12月