7月18日
土曜日:
心療内科とアレルギー科の密接な関係:
前向きな気持ちがアレルギーを改善するメカニズムの解明
ドパミン報酬系活性化で症状が緩和――マウス実験
• Activation of the reward system ameliorates passive cutaneous anaphylactic reaction in mice
「Allergy」6月13日オンライン版
中尾篤人氏(山梨大学医学部免疫学講座)らの研究
<背景>
花粉症や気管支喘息、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患は、精神的なストレスにより症状が悪化することが知られている。アレルギーの症状は精神的な影響を受けることは、経験的、疫学的に分かっていた。
しかし、なぜ精神的状態によって症状が変わるのかは明らかにされていなかった。
その一方で、アレルギー疾患に対する新薬の臨床試験では、プラセボ効果(有効成分のない薬剤であってもそうと知らずに飲んだ際に、暗示などで生じる効果)が強く現れて、新薬の評価が困難になることも少なくない。そこで、さまざまな精神的状態の中でもプラセボ効果との関係が深い「前向きな感情(やる気)」を司る脳内の特定部位が、アレルギーに与える影響について検討した。
<方法>
1) マウスのドパミン報酬系を人為的に直接活性化する実験。
DREADD(designer receptor exclusively activated by designer drugs)と呼ばれる脳の一部分のみを変化させる新しい技術を用いた。
マウスを2群に分け、一方の群にはドパミン報酬系の中心的な部位である中脳腹側被蓋野という部分を、DREADDによって活性化させた。もう一方の群はこの処置を加えない対照群とした。
5週間後、アレルギー反応を引き起こす免疫グロブリンE(IgE)を注射し、蕁麻疹様の皮膚症状が現れた面積を比較した。
2) マウスの脳内報酬系を自然なかたちで活性化させる実験。
人工甘味料のサッカリンを用いた。2群に分けたマウスの一方の飲水ボトルにサッカリンを混ぜておき、飼育中のマウスが自発的に水を飲むたびに、その「甘味」によって中脳腹側被蓋野が活性化するようにした。もう一方の群には水を与えた。その後、1番目の実験と同様の方法でアレルギー反応を引き起こし、蕁麻疹様症状の範囲を比較した。
3)薬によってマウスの脳内報酬系を活性化させる実験:
ドパミンの前駆体のL-ドパを用いた。L-ドパはパーキンソン病の治療にも使われており、脳内でドパミンに変換される。2群に分けたマウスの一方のみにL-ドパを注射し、前述と同様の手法で蕁麻疹様症状の範囲を比較した。
<結果>
実験1)
中脳腹側被蓋野を活性化させたマウスでは、対照群に比べて有意にその面積が小さかった。
実験2)
サッカリンを混ぜた水で飼育したマウスは、対照群に比べて有意にその面積が小さかった。
実験3)
L-ドパを注射したマウスは、対照群と比べて有意にその面積が小さかった。
<考察>
前向きな感情は、脳内のドパミン報酬系という神経ネットワークが司っている。
そこで、マウスを用い、このドパミン報酬系を以下の三つの方法で活性化し、アレルギー反応への影響を検討した。
この結果について研究グループは、「前向きな精神状態を生み出す特定の脳内ネットワークが、アレルギーを生じる免疫のしくみと密接にリンクしていることを直接的に証明した世界で初めての知見」としている。
そして「脳内ドパミン報酬系の活性化にアレルギー反応を抑える効果のあることが示された」と結論づけるとともに、「現在のアレルギー疾患の治療は投薬が中心だが、患者に前向きな気持ちを保ち続けてもらうよう、コミュニケーションを図ることも大切であることが示唆された」と付け加えている。
<結論>
アレルギー疾患の症状は、気持ちが前向きなときは軽快する。
脳内の「ドパミン報酬系」が活性化すると、アレルギー反応が抑制される。
コメント:
心療内科専門医でありアレルギー専門医・リウマチ専門医として活動してきた私の臨床的意味を学術的に説明してくれた研究であると思い紹介いたしました。
水氣道®や聖楽療法(聖楽院)での活動は、さまざまな疾患に対して心身医学的効果をはかるために開発してきたものです。これらの活動が脳内の「ドパミン報酬系」を活性化させることによって、アレルギー反応が抑制され、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、喘息、花粉症などのアレルギー疾患の治療効果を高めることに貢献できたことの理論的根拠の一端を与えてくれたのではないかと考えています。
なお、脳内の「ドパミン報酬系」を活性化は、アレルギー疾患のみならず、リウマチ性疾患、線維筋痛症や慢性疼痛症、うつ病等にも好ましい効果を及ぼすことが知られています。
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