7月12日(日)
日本循環器学会オープニング・セレモニー企画
新型コロナウイルスをめぐり、国の対策の効果を検証する専門家会議メンバーの山中伸弥・京都大教授と、厚生労働省クラスター対策班の西浦博・北海道大教授がオンラインで対談しました。
山中さんは「まだまだ長い対策が必要。何もしないと10万人以上が亡くなるというのは今も変わっていない」と訴えました。
対談は日本循環器学会が学術大会のオープニング・セレモニーとして企画し、
10日、動画投稿サイト「ユーチューブ」に公開しました。
私も、先ほど専門家会議メンバーの山中伸弥・京都大教授と、
厚生労働省クラスター対策班の西浦博・北海道大教授がオンライン対談し、そのあと日本循環器病学会の重鎮との質疑応答を興味深く試聴しました。
専門家の中で、私の意見と最も近い立場におられる西浦先生が北大から京大に異動することによって、私が懸念していた両人の弱みが補完し合って、各人の強みが生かされることが期待できるものと考えています。また感染症関連学会ではない日本循環器病学会が、これまで果たしてきた役割も大きいです。
今回のような取り組みを通して、相互に補強し合って信頼度のより高い、影響力のより大きい情報発信源になりうることを期待しています。
さて、Covid-19に関するBCGワクチン仮説支持やファクターX提言問題で迷走し、世間を騒がせている世界の山中教授でしたが、
私はCovid-19に対するBCG効果について「交絡因子」による見かけ上の効果であるという見解を杉並国際クリニックの医療コラムで表明し、山中先生が支持する仮説を否定していました。この件は、今回、西浦先生は、「交絡因子」という言葉を使わずに明確な情報を提供して山中先生を納得させています。西浦先生が山中先生に説明する表現法は、素人にもわかりやすい表現を用いているのが素晴らしいです。
ただ、山中先生が御専門外の社会活動に迷走しているのではなく、iPS細胞を使った肺臓器様組織や心筋細胞を作製して、それらにSARS-V2ウイルス(Covid-19の原因ウイルス)を感染させる研究を総括されているということについてご本人の肉声で聴けたことは幸でした。
Youtubeの中で、山中先生はエスアイアールモデルという言葉を用いていて、一般の皆様には難しいと思われるので、予め私が解説しておくことにします。
SIRモデル(エスアイアールモデル)は、感染症の短期的な流行過程を決定論的に記述する古典的なモデル方程式です。名称はモデルが対象とする
• 感受性保持者(Susceptible)
• 感染者(Infected)
• 免疫保持者(Recovered、あるいは隔離者 Removed)
の頭文字SIRにちなむものです。
原型となるモデルは、W・O・カーマックとA・G・マッケンドリックの1927年の論文で提案されました。
W. O. Kermack and A. G. McKendrick (1927). “A Contribution to the Mathematical Theory of Epidemics”. Proc. Roy. Soc. of London. Series A 115 (772): 700-721. doi:10.1098/rspa.1927.0118. JFM 53.0517.01
さて、西浦・山中対談での骨子は、
「科学者(臨床医を含む)は勇気と覚悟を持たねばならない」
「ロンドンやニューヨークで起こってきたことが、今後、東京でも起こり得る」(西浦氏見解)
日本人の感染者が少ない原因となる未知の因子(ファクターX)は「保健所やクラスター対策班の努力が大きかった」(山中氏見解)
「ただし、感染者からの重症化率、死亡率に関しては、日本は欧米と同水準である」
(西浦氏見解)
そして、私が山中先生の視点で評価したいのは、以下の3点についての言及です。
台湾の抑え込み成功例、
二重の苦しみ:病気と偏見、
勇気ある発信が大切
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
以下は、私自身のための参考ノートです。詳細は直接ご視聴くださることをお勧めします。
質問者1:佐賀大学 野出孝一(循環器内科教授)
日本での発生率の低さ(ファクターX):
社会的規範、コミュニケーション(挨拶を含む)習慣の違い?
Q:循環器学会、Covid-19に伴う脳卒中対策について
マスクやグローブ供給の遅れ、行政やNPOとの協働による迅速な対応が必要
医療従事者を防御することでの感染爆発の防止
重症化する過程で心臓や脳血管などの循環器疾患の合併症を発症すること
病態の再現、iPSで作成した心筋細胞、肺のオルガノイドに新型コロナウイルスはとても感染し易い
質問者2:大阪大学大学院 坂田泰史(循環器内科教授)
Q:医師の在り方
医師の在り方を変えていかなければならない。
遠隔医療などの新しいメソッド、しかし、従来の触れ合う医療の
維持も大切
臓器別医療では対応できない病気なので、患者の全体を診る医療が必要
短期的:非専門医を含めた感染管理、救急の現場など不顕性感染患者対応技術の習得、速やかな検査ができる体制の整備
質問者3:京都大学大学院 田崎淳一(循環器内科助教)
Q通常の治療を受けるタイミング
流行爆発時には、入院患者の事前検査を拡充する
対応要員を限定する、現場自体での感染リスクを最小限にする工作
質問者4:京都大学大学院 木村剛(循環器内科教授)
Q.ワクチン開発は困難(本庶教授)という意見に対して、
多数の健康な人に接種するための効果判定や安全性を担保することは難しい。
感染終息にむけて、ワクチンを期待できない環境下で、複数年を要して流行を繰り返しながら、弱毒化していくことを期待していく他には、楽観的な予測はできない。楽観視しないことが大切。
二項対立:生命と社会経済の両立の困難
長期戦略で臨むことの必要性
・・・・・・・・・・・・・・
<SIR数理モデルに興味のある方のために>
西浦先生が活用されている解析モデルの一つだと思われます。山中先生もそれをもとにこのモデルに即した質問を西浦先生にされていました。
SIRモデルにおいては、まず全人口を感染する可能性がある者=感受性保持者(S)・感染者(I)・免疫保持者(R)の3つへ分類します。
そして、感受性保持者(S)と感染者(I)との積に比例して、感受性保持者(S)は定率で感染者(I)に移行すると仮定します。
また感染者(I)は定率で免疫保持者(R)に移行する(感染期間は指数分布に従う)と仮定します。
感受性保持者の中から感染者が発生することや、感染者の多くは免疫保持者になることは自明なので、それぞれが一定の割合で起こるとことを前提とすることがこの仮説の中核部分です。そして、それぞれ感染率(β)、回復率(隔離率)(γ)という定数を置きます。
いずれにしても、この時間(t)発展を非線形常微分方程式で記述される連続力学系として表せば、
となります。ただし、β > 0 は感染率、γ > 0 は回復率(隔離率)を表す(逆数 1/γ は平均感染期間を表す)。これをフローチャートで 表せば
S βI ⇒ I γ ⇒ R
のように簡潔にまとめることもできます。
上記の3式の和を取れば、
であり、
これは総人口 N(t) = S(t) + I(t) + R(t) が一定値をとる保存則(閉鎖人口の仮定)
に対応します。この保存則により、本質的に2変数の方程式です。
簡単のため初期値を I0 = I(0) > 0, S0 = S(0) > 0 とおくと
のとき、すなわち
のとき流行が発生(閾値現象)します。この無次元量 (R0 )は基本再生産数と呼ばれます。このような最も単純なモデルでは
が成り立ち、エンデミックな定常状態や周期的な流行といった現象は説明できません。
コメント:
このモデルは有用ですが、私はいくつかの欠点があることを踏まえた上で活用すべきだと考えています。それはこの数理モデルが成立するための仮説自体に内在しています。
その1)
このモデルは単一の病原体を対象にしていること
① Covid-19関連の重症化、死亡はSARS-V2感染単独によるものだけではなく、合併感染症や基礎疾患の影響を受けるということ
② Covid-19の原因ウイルスであるSARS-V2の遺伝子に多様性があり、遺伝子変異があるため、それぞれのウイルス種の性質が互いに近似していなければ妥当な予測がつかないこと
その2)
このモデルは、総人口をはじめ、感染率(β)や回復率(隔離率)(γ)を定数としていること
感染率や回復率は、環境や季節の変化によっても大きな影響を受けるため、定数とは成り得ない、また総人口は一定でなく、国内外への人口の移動があり、しかも、移動する人間の背景が多様であること。
ただし、このモデルは流行の拡大防止対策の原理を提供してくれます。
流行が勃発する条件は、
逆に、この基本再生産数(R0 )<1を維持することで、流行を防ぐことができます。
それは、予防措置の徹底により感染率(β)を減らし、感染者の隔離や適切な治療的ケアにより回復率(隔離率)(γ)を増やす、という当たり前の常識的結果になるわけです。それに加えて、初期値である感受性保持者 S0 = S(0)が少なければ流行は起こりにくくなります。ワクチン接種等による予防が大切になるということです。
まとめ:
杉並国際クリニックが提唱している秘策第1弾(漢方セルフメディケーション5点セット)、第2弾(生薬配合マスク)をはじめとする複数の段階的戦略は、このSIR数理モデルを基礎に置きながらも、このモデルの限界や欠点をも考慮して検討してきたものであることを付言しておきたいと思います。
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