特集:シリーズ『新型コロナウイルス罹患者の体験から学ぼう』「これが差別か」新型コロナ陰性~退院のあとに待っていたもの ④

7月9日(木)

 

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症例14(その5)


第4節:“これが差別か” 

男性は11日間入院。検査で2回陰性となり退院した。
しかしその後、思いもよらない事態に直面した

 

退院した時は先生に、きょうから誰に会ってもいいかっていうことや、やってもいいこと、だめなことを教えてくださいって聞いたら「別に何もないよ」と。「陰性2回出て、あんたはたぶん日本でいちばん安全な人だよ」って言われて出てきたんで。保健所にも確認したんですよね、「やっちゃいけないことがありますか」って聞いたら保健所も「ない」と。じゃあどこにでも行けるんだなぁと思って。

 


男性は肺炎の経過観察で病院を受診しようとした

 

退院してきて5日目なんですけども、紹介状もあるんで「肺炎を見てもらいたい」(と言ったら)「来ないでくれ」と。「僕もう完治してるんですよ。肺炎の薬だけでもほしいんですけど」って言ったら「コロナにかかった人は一切受け付けてない」と。

 

「もしあなたがコロナの発生源になったらうちの病院も困るんで」(註1:医療機関も不安感を募らせた患者さんを相手にしているので、風評被害の後始末を恐れています。その後の対応が、想像を絶するくらい大変なものになるからです。医療従事者の立場からは、現在診療を担当している患者さんに対する責任がとても大きく、残念ながら已むを得ない対処だと思います。)って感じだったから。

ネットで「クリニック・肺炎・福岡」で検索して、8件くらい病院に電話して、ことごとく全部断られて、もういいやってなって。

 

今、薬も飲んでなくてそのまま放置してる状態なんですね、肺炎の治療をしていなくて。美容室も髪切りたかったんですけど(断られたんで)…。

入院していた時に(融資の相談をしている政策金融公庫と)面談の日程が決まったんですね。たぶんこのぐらいには(病院を)出られると思いますということで金曜日に決まったんですよ。

(退院後に)電話がかかってきて、「電話で面談します」と。「なんで行ったらだめなんですか?」って。「いやもう来なくていいです。○○さんはコロナにかかっていたんで」と政策金融公庫から言われて電話で面談になりました。

やべえなと思いましたよ、ほんとに。僕、こういうことされたことないから、これが差別かと思いました。僕がされてるぐらいだからいっぱいあるだろうなと思ってるんですけど。

 

(感染したほかの人も)相当嫌な思いをしてると思います。おかしな世の中だなぁと思った。差別する人っていうのは情報量が足りなくて、うちの社員も僕が説明したら「あーそうなんだ」っていうのがほとんどなんですね。

だからもっとそういう情報流せばいいのになぁって。例えばPCRを受けて陰性で出てきた人はカードがある(註2:残念ながら、この考え方には無条件では賛成できません。PCRの検査は不完全です。陰性の結果は慎重に評価すべきですPCR検査陰性であっても、今後感染するリスクは消えません。特に、この方のように自覚症状の発現が遅いタイプの方が感染源になると多くの方を危険に晒すことになるからです。)「私は治療が終わった人ですよ」(註3:「私は人生が終わった人ですよ」という状況にならなくて良かったと思います。)という証明があったりすると認識が変わる(註4:一般の方の認識を変えることは、とても難しいと思います。)のかなあと思うんですけどね。


(4月27日取材 福岡放送局 森並慶三郎)

 

コメント:

この方のような経験をすると、人間不信や社会不信に陥り兼ねないと思います。あるいは医療不信というか怒りを感じておられるとしても已むを得ないことです。


一般に人々から安心感と信頼感を得ることは、不安感や不信感を植え付けることの100倍以上難しいと思います。これは、30年以上開業医を続けてきたうえでの心からの実感です。

 

私たちの多くは艱難を経験しています。「艱難汝を玉にする」場合もありますが、くれぐれも「艱難汝をダメにした」にはならないように心がけていきたいものです。

 

<終わり>