リウマチ専門医として<リウマチ>を語る、関節リウマチ診断における画像診断(特に関節エコー検査)の威力

7月9日(木)


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関節リウマチ(RA)の画像診断は、近年の治療戦略の進歩とともに大きく変化しました。

RAの主な病態である滑膜炎とその結果である骨病変が筋骨格超音波検査(関節エコー)により評価可能であることが明らかとなり、RA診療における関節エコーの活用が精力的に検討されています。

特に治療の直接のターゲットである滑膜炎の活動性を画像で評価することは、 単純X線を中心とした従来のRAの画像診断にはなかった概念であり、RA画像診断におけるパラダイムシフトと言えます。

 

RA診断における関節エコーの必要性 RAの主要病態は滑膜の炎症であり、早期に適切な治療が行われない場合の身体機能予後ならびに生命予後は不良になります。

近年、メトトレキサート(MTX)および生物学的製剤 を中心とする抗リウマチ薬による治療介入が、特に関節破壊が進行する以前に行われた場合に診療アウトカムが大きく向上することが示されました。

 

そのため米国リウマチ学会(ACR) および欧州リウマチ学会(EULAR)は共同ワーキンググルー プを結成し、RA治療の中心であるMTXを必要とするRAを 早期に分類できる新規分類基準を作成しました。

完成された 2010年ACR/EULAR RA分類基準は結果として「RAらしさ」、すなわち小関節に好発する多関節炎、自己抗体陽性、炎症反応上昇、そして持続性病態を良く反映したものとなりました。

しかしながらその有用性の検証では、MTX必要性予測の精度が検証コホートにより必ずしも高くないことが示され(ROC解析のAUC;0.66-0.82)、臨床評価によるRA分 類精度の限界が示唆されました。

2010年ACR/EULAR RA分類基準の精度のばらつきの主要な原因としては、診察による関節腫脹および圧痛の再現性の低さが挙げられます。

 

RA患者全体としての腫脹関節数ならびに圧痛関節数の有用性は良く検証されているが、より軽度の関節所見を示す早期RA患者においては、検者により 腫脹あるいは圧痛の有無に差が出る可能性が高いです。

これに対して関節エコーでは明瞭に滑膜病変が描出されます。

従来の診察よりも正確に滑膜炎を検出可能であり、またその再現性は診察よりも高いため、RA分類の精度を向上することが期待されます。

実際、新分類基準では「滑膜炎有無の確認に画像診断が用いられてもよい」と述べられているが、具体的な方法の記載はありません。

 

関節リウマチ診断の大前提は1か所以上の関節腫脹です。

そしてRAとして分類するための基準は合計6点以上とされています。

2010年ACR/EULAR RA分類基準の別の問題点として、 鑑別診断が各自に委ねられていることが挙げられ、個人差による診断制度のバラつきが避けられません。

そこで客観性の高い情報を得ることが可能な関節エコーはRA以外の関節疾患(変形性関節症、乾癬性関節炎、痛風性関節炎、偽痛風など)の鑑別診断に有用です。

 

特に変形性関節症に代表される変性性/退行性/加齢性変化はRA診療において重要な鑑別病態ですが、関節エコーでは骨表面の形態、滑膜肥厚の有無および分布、滑膜血流シグナルの有無 により、炎症性/非炎症性病態の区別を診察よりも正確に行うことができます。

つまり関節エコーは他疾患、他病態の鑑別により、2010年ACR/EULAR RA分類基準の特異性を高めることが期待されます。

 

以上で説明しましたが、関節エコーが滑膜炎および骨びらんの正確な評価、また鑑別診断の補助によりRA診断の精度を向上させることができます。

関節エコーで得られる画像情報はデータとして得られる診断精度の向上だけではなく、診察技術や単純X線の読影技術の向上、RAの病態のより詳細な理解に寄与すると考えられ、本画像診断の今後の普及が期待されていて、すでに杉並国際クリニックにおいても大変重宝しています。

<明日へ続く>