アレルギー専門医として<喘息>を語る ② 「見落とせない喘息患者のCOPD(慢性閉塞性肺疾患)」

7月2日(木)

前回はこちら

 

 杉並国際クリニックの前身である高円寺南診療所を開設した平成元年の外来は、とても悲惨な状況でした。現在とは違って、ほとんどすべてが新患の患者さんで、喫煙率は75%に及び、「待合室に灰皿くらい置いておけ」と言って、勝手に灰皿を持ち込む患者さんがいるくらいでした。現在の杉並国際クリニックとはまったく別の光景でした。

 

疾病の種類に関わらず、責任と良識のある医師が行うべき最も重要で基本的な健康指導としては、喫煙者に対する禁煙指導です。

これを徹底してきたためか、「喫煙者には敵視ではなく、本物の愛といたわりを!」をモットーにひるまず頑張ってきましたが、一部の愛煙家からの強烈で信じがたい非常識な反撃を受けることもしばしば、でした。

 

現在、初診患者の完全予約制を導入して1年を経ましたが、問診での喫煙率は20%以下になり、隔世の感です。

この30年間に、継続通院の患者さんの喫煙率は75%から2%にまで顕著に減少しました。

喫煙者の方の中には水氣道®を始められて、タバコを吸わなくても、否、タバコを吸っていたときよりも爽快で生産的な時間を持てるようになった方は、概算で少なめに見積っても2,000人以上に上ります。

ニコチンパッチ®を用いた禁煙療法を行なっていた時期もありましたが、現在ではその必要もなくなりました。

 

さて、本日の話題であるCOPDと喘息は、本来、病態の異なる疾患です。実際にガイドライン(COPD診断と治療のためのガイドライン第5版2018年)の記載においても「典型的な場合にはCOPDと喘息の鑑別は容易である」とされています。

しかし、それにもかかわらず両疾患の鑑別は容易ではありません。ガイドライン上にもそれが明記されていて「喫煙者や高齢者では、両者を鑑別することが問題になる。

特に、COPD患者のなかには喘息の特徴をもつものも多く、日常臨床では区別が困難な場合も少なくない」というのが実臨床上のコンセンサスだと思います。

 

またガイドラインでは「慢性の気流閉塞を示し、喘息とCOPDのオーバーラップ(ACO)が紹介されています。

しかし、30年以上の臨床で経験する限り、初診喘息患者での喫煙者の頻度は25%にも及び、決して低いものではないこと、またガイドラインに記載されている文献を検討した限りでは、受動喫煙についての臨床治験が不十分であること、ACOは喘息にもかかわらず喫煙を継続した喘息患者の病態、つまり喘息の併発症であって、独立した症候群ではないということです。

 

それでは、COPDと喘息の大きな差異は何か、ということになります。それは、まず「氣道可逆性」であるとされます。

これはCTスキャンなどの高度な装置でも鑑別困難です。短時間作動性の気管支拡張剤を使用して検査することができます。

次に役立つのが肺機能検査(スパイロメトリー)です。長期の喫煙歴、中年以降の発症、徐々に進行する慢性の咳・痰、労作時の呼吸困難があり、気管支拡張薬吸入後の1秒率が70%未満であれば、COPD合併を疑います。

そして、3つ目は胸部エックス線(肺のレントゲン)です。喘息の診断には胸部レントゲン検査は必須ではありませんが、COPDの可能性がある場合はむしろ必要です。

この写真を2枚用意します。2枚の撮影をする場合は、ふつうは別の角度から撮影しますが、杉並国際クリニック方式胸部機能撮影法では、撮影方向を変えないで、患者さんの呼吸相を変えた状態で撮影します。

最初の1枚は、標準的な肺撮影法と同様に吸気相(肺が膨らんで、横隔膜が降下した状態)、次の1枚は、そのまま、息をできるだけ吐ききっていただいた呼気相(肺が縮んで、横隔膜が挙上した状態)で撮影します。

現像したそれぞれの写真の横隔膜や胸壁のラインを色鉛筆でマーキングして重ね合わせると横隔膜の動きの大きさや胸郭の拡がりを計測し、評価することが簡単にできます。

 

これはCOPDの中でも肺気腫という病態(喫煙にて発症し増悪します)。COPDでは、はじめから肺が膨張していて横隔膜が降下している傾向があり、吸気しても胸郭は広がりにくい特徴があります。これに対して、喘息には、このような特徴はみられません。

 

最後に、喘息とCOPDが合併するACOにおいて大切なことを紹介します。

それは、本人が喫煙者でなくても、飲食業その他で喫煙者が多い環境で長らく仕事を続けてきた喘息患者のほとんどは受動喫煙者であり、単なる喘息の治療では効果が期待できないことがあるということです。

そのようなケースではCOPDが合併したACOであるという見立てをしたうえで、適切な治療を行うことで寛解する例が多数にのぼっています。

 

<明日へ続く>