杉並国際クリニック版「貧血」診療 No2

6月30日(火)

 

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<貧血診療の実際>

 

貧血がみられたときに全例に実施した方が望ましいとされる検査項目のセットがあります。

 

血算値(赤血球数、Hb、Ht、血小板数、網赤血球)

赤血球恒数(MCV、MCH、MCHC)および赤血球容積粒度分布(RDW)

白血球数およびその分画・形態

血清鉄、血清フェリチン、不飽和鉄結合能(UIBC)、総鉄結合能(TIBC)、トランスフェリン飽和度(TSAT)=血清鉄/TIBC×100%

 

鉄欠乏性貧血の診断評価のためには、鉄代謝を詳しくみる場合は、血清鉄に加え、総鉄結合能(TIBC)、不飽和鉄結合能(UIBC)、フェリチン(組織中の鉄と結合している蛋白で、これは貯蔵鉄を反映します)の検査を行います。

 

体内では一般的に鉄だけが遊離しているわけではなく、トランスフェリン(Tf)という蛋白質と結合しています。鉄はトランスフェリンと結合しているものとしていないものがあります。トランスフェリンと結合している鉄(血清鉄)とトランスフェリンと結合していない鉄(不飽和鉄結合能)の総和を総鉄結合能(TIBC)といいます。これは、血清中のトランスフェリンの全体の濃度を示すものです。

 

したがって、総鉄結合能(TIBC)=血清鉄+不飽和鉄結合能(UIBC)
で計算できるため、血清鉄と不飽和鉄結合能(UIBC)を測定すれば、総鉄結合能(TIBC)を直接測定する必要はありません。また、血清中の鉄飽和濃度を示すトランスフェリン飽和度(TSAT)も、以上の基礎データから算出できます。トランスフェリン(Tf)は血清中の鉄と結合して搬送する働きがあり、通常、Tfの約1/3が鉄と結合し、残りの2/3は未結合であるが、未結合部分は不飽和鉄結合能(UIBC)、Tf全体が鉄で飽和された場合の結合能は総鉄結合能(TIBC)と呼ばれます。

 

1分子のTfは2原子の鉄(3価鉄)と、あるいは1mgのTfは、1.3μgの鉄と結合し得るので、Tfを1.3倍にすると理論的には総鉄結合能(TIBC)になるわけです。
  

Tf(mg/dL)×1.3 = TIBC(μg/dL)

 

 

飽和鉄結合能(UIBC)の基準値

♂ 180~274 μg/dL  

♀ 221~313 μg/dL

 

高値を示す疾患:鉄欠乏状態、造血能亢進

低値を示す疾患:鉄過剰状態、悪性腫瘍、感染症、造血能低下 

 

 

これらの検査結果により、

1)小球性、正球性および大球性貧血の赤血球サイズ分類を行い、

2)RDWで赤血球の大小不同のばらつき(鉄欠乏、ビタミンB₁₂欠乏、自己免疫性溶血性貧血では開大)を評価し、

3)鉄代謝データから体内鉄貯蔵量および骨髄での造血状態を把握します。

 

このように、貧血という病態は実に奥が深く、高度な専門性を要する領域なのですが、言葉で説明することは容易ではありません。

 

しかし、きちんとした手続きを踏めば、ほとんどの貧血の診断をつけることができます。そこで、「貧血の鑑別診断」(杉並国際クリニック2020年初版)を作製しました。今後の診療の際には、皆様の貧血診療のための御手元の資料としてお渡しすることがあることでしょう。

貧血の鑑別

 

 

さらに上記の検査1)で正球性貧血が指摘された場合には、①生化学一般スクリーニング検査を、さらに黄疸を伴う場合には肝硬変、脾腫の有無、溶血の状態を把握するために以下の検査②を追加します。

 

肝機能検査、腎機能検査、LDHアイソザイム
ハプトグロビン定量、クームス試験、赤血球浸透圧(脆弱性)試験
腹部エコー検査

クレアチニン上昇など腎機能障害が疑われるとき⇒血清エリスロポイエチン(EPO)

 

以上の検査の結果、骨髄鉄利用障害あるいは造血障害を疑うべき所見(網赤血球数低下、血清鉄増加、TSAT増加)が認められた場合は、血液専門医に骨髄検査の適応について紹介することにしています。

貧血の鑑別診断」(杉並国際クリニック2020年初版)で赤色の活字で表記された領域が、血液専門医への紹介が検討される部分です。

貧血の診療は、鑑別診断さえしっかりと行えば、ほとんどの病態で通常の外来診療で対処できることがわかると思います。