杉並国際クリニック版「貧血」診療 No1

6月29日(月)
       

<貧血についての一般的概要>

 

最近のことですが、治療に難渋する貧血性疾患が急速に増えていることが問題になっています。健常人対象の健康調査項目の中の貧血の指標となるヘモグロビン(Hb)値が女性で12g/dL未満、男性で13g/dL未満を呈する比率が無視できないほど多く認められています。

 

特に、女性のプレ更年期から更年期のピークに相当する40~49歳では、約30%が貧血を呈し、その大部分は形態分類上、小球性貧血といって、赤血球の大きさが小さくなる貧血の状態であって、その主な原因が鉄欠乏によるものとされます。これは貧血の代表である鉄欠乏性貧血が主体であると推定されます。ただし、小球性貧血の中には膠原病や感染症などの基礎疾患を持っている場合には慢性疾患に伴う貧血を考慮します。

 

50~60代での貧血の頻度は、男性で9.1%、女性で17.3%程度まで低下しますが、70歳以上では男女ともに再び貧血の割合が増えて、男性で14.6%、女性で19.5%まで増加します。

80歳以上では男女ともに11 g/dL未満を貧血としていますが、それでも高齢者の貧血の特徴は小球性のみならず正球性から大球性までの貧血が認められることです。したがって、その原因も鉄欠乏性貧血に限らず、腎性貧血、再生不良性貧血および骨髄形成症候群など多様になります。しかも、貧血性疾患の診断および治療は、その原因別に高度な専門性が要求されます。

 

なかでも鉄欠乏性貧血は最も頻度の高い貧血性疾患であり、2015年に日本鉄バイオサイエンス学会から「鉄剤の適正使用による貧血治療指針改定第3版」が出版されています。

 

貧血ではヘモグロビン(Hb)濃度が低下することによって、末梢組織への酸素運搬が減少することによって、貧血の症状を呈します。一般的な貧血の自覚症状は、組織への酸素供給の低下によって直接的にもたらされる症状(めまい、頭痛、易疲労感、全身倦怠感および失神など)の他に、代償性機構により心拍数・呼吸数増加に基づく症状(動悸、息切れなど)があります。

 

これらの一般的な自覚症状だけでは、貧血の重症度についてはある程度参考にはなるものの、貧血の原因を鑑別することはできません。そこで、とくに黄疸および脾腫の有無、出血傾向および易感染性などといった他の血球減少を疑わせる所見の有無を確認することが必要になってきます。

 

もっとも鉄欠乏性貧血を疑うのであれば、貧血症状としての自覚症状の他に、組織鉄欠乏による症状の有無の確認をします。自覚症状(舌のしみり感、咽頭違和感、嚥下困難、下肢の不快感、不眠など)や他覚所見(爪の変形、さじ状爪など)の他に行動異常(異食症、レストレスレッグズ症候群など)があります。いわゆるむずむず脚症候群とも呼ばれるレストレスレッグズ症候群(RLS)の主要な誘因の一つが鉄欠乏性貧血であることが見出されました。