電解質異常からみた内分泌疾患、電解質欠乏症No2

6月26日(金)

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高Ca血症と高P血症と内分泌異常(副甲状腺機能障害など)

 

高カルシウム血症

血清カルシウム(Ca)濃度は多くの電解質の中でもとりわけ厳密に調整されていて、その濃度範囲は8.5~10.4㎎/dlです。

血清Ca濃度を維持する主要なホルモンは活性型ビタミンDと副甲状腺ホルモン(PTH)です。

これらの作用過剰が高Ca血症の主な原因となります。

最も頻度の高い原因疾患は原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)ですが、最近では医原性のものが増えてきました。高Ca血症は無症候性か、症状があっても軽微かつ非特異的であるため見落とされがちです。

 

ビタミンD作用の過剰

肉芽腫性疾患(サルコイドーシス等)CYP27B1発現による活性型ビタミンD産生
② ビタミンD中毒(活性型ビタミンD₃、エディロール®)

 

PTH作用の過剰

原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)
高Ca血症、低P血症、高クロール血性代謝性アシドーシス、

活性型ビタミンD高値

大部分が副甲状腺腺腫、副甲状腺過形成ではMENの合併が多い
 

 

PTHrP産生腫瘍
PTHPとの相違は、活性型ビタミンD低下、骨形成抑制、
代謝性アルカローシス

・局所性骨融解性高Ca血症(LOH):腫瘍から産生されるIL-6、TNF、MIP-1に
よる局所性の骨吸収促進作用に基づく機序

・悪性体液性高Ca血症(HHM):腫瘍細胞からのPTHrP過剰産生
 

その他

骨吸収の亢進
・局所性骨融解性高Ca血症(LOH)
・脳卒中(不動)
・Graves病(慢性的甲状腺ホルモン過剰⇒骨代謝回転亢進)
・副腎皮質機能低下症(骨吸収亢進?)

 

腎尿細管Ca再吸収の亢進(家族性低Ca尿性高Ca血症)

薬剤性

・リチウム(副甲状腺機能亢進)
・サイアザイド系利尿薬(尿中Ca排泄低下)
・ミルク・アルカリ症候群(大量のミルクと制酸薬によるCa摂取)
・テオフィリン(PTH作用増強)
・ビタミンA中毒(機序不明、骨吸収亢進)

 

高リン血症

血中リン(P)濃度も狭い範囲に維持されています。Pは細胞内に豊富に存在する主要なアニオンであって、骨、腸管に加えて細胞内にも大きなプールがあります。そして血中P濃度は細胞内液から細胞外液へのPの流入と腎からの排泄により出納バランスが保たれています。しかしながら、慢性の高P血症は、主に腎からの排泄障害が最大の因子であり、そのほとんどが腎不全です。その他の原因としては腎からのP排泄を調整するNa・P共輸送体(NaPi-2)の作用亢進があり、PTH、FGF23、GH、IGF-IはいずれもNaPi-2の発現・活性を制御する代表的ホルモンであるため、それらの異常をきたす内分泌疾患も高P血症の原因になります。

腎の排泄能を規定する因子は、① GFR、② 腎の近位尿細管におけるP排泄閾値です。

②はNaPi-2a,-2cの発現・活性を規定する上記4種のホルモンの作用によります。

これに対して、急性高P血症の原因は細胞内Pプール由来であり、急激なP負荷が挙げられます。

また日常診療では高P血症そのものによる症状は乏しいため、副甲状腺機能亢進症では低Ca血症による症状で発見されることが多い他、甲状腺中毒症や副腎不全等は高P血症によって拾い出されることがある内分泌疾患です。

 

 

腎からのP排泄が減少する病態

GFR低下―腎不全(AKI/CKD)
・PTH分泌低下(副甲状腺機能低下症)
・PTH抵抗性(偽性副甲状腺機能低下症:PHP)

 

腎近位尿細管におけるP排泄閾値上昇(再吸収亢進)
PTH作用不足:NaPi-2活性亢進(endocytosis抑制)
FGF23作用不足:NaPi-2発現亢進と腸管からのP吸収亢進
・家族性腫瘍状石灰化症
・自己免疫性高リン血症性腫瘍状石灰化症

 

GH・IGF-I高値:NaPi-2a,2c発現亢進(先端巨大症)
副腎皮質ステロイド作用不足:NaPi-2a,2c発現亢進(副腎不全)
薬剤性(ビスホスホネートであるダイドロネル®の直接作用)

 

細胞外液へのP流入が増える病態

急激なP負荷(急性高P血症の原因)
・腫瘍崩壊症候群(リンパ腫等に対する細胞傷害性抗がん薬治療例)
・横紋筋融解症

 

細胞内Pの細胞外への急激なシフト
・乳酸アシドーシス(P消費減少による)
・糖尿病性ケトアシドーシス(DKA:浸透圧利尿
+インスリン不足による細胞内P取込み低下)

 

腎からのP排泄減少と細胞外液へのP流入増加が合併する病態
・ビタミンD作用過剰
・PTH非依存性の骨吸収亢進(副腎不全や甲状腺中毒症等)
・ACTH単独欠損症