電解質異常からみた内分泌疾患、電解質欠乏症No2

6月23日(火)

 

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低K血症と内分泌異常(ミネラルコルチコイド過剰、Cushing症候群など)

 

低カリウム血症を来す疾患として、経口摂取による影響で発症するバセドウ病による周期性四肢麻痺や低マグネシウム血症の他に、原発性アルドステロン症、腎血管性高血圧ならびにクッシング症候群・サブクリニカルクッシング症候群といった内分泌疾患があります。低K血症は、内分泌疾患に随伴することが多いです。

 

低カリウム血症の臨床症状は、筋力低下、尿濃縮障害による多尿および脱水ならびに耐糖能異常といった多臓器への影響があります。

 

重篤で生命の危機に陥る可能性がある場合としては、呼吸筋障害による呼吸不全、横紋筋融解症による腎不全、QT延長症候群による心室細動などがあります。

 

低K血症の診断アルゴリズムの最初のステップは尿中K濃度の測定です。
尿中K排泄<20mEq/L⇒K摂取不足、下痢;甲状腺機能亢進症、家族性周期性四肢麻痺
尿中K排泄≧20mEq/L⇒血圧上昇があればレニン・アルドステロン系異常
正常であれば酸・塩基平衡(アルカローシスかアシドーシスか?)

 

高血圧を伴うレニン・アルドステロン異常の病態分類:
レニン・アルドステロンが共に上昇

⇒腎血管性高血圧、レニン産生腫瘍

 

レニン・アルドステロンが共に低下

⇒先天性副腎過形成、クッシング症候群、
Liddle症候群、AME症候群、DOC産生腫瘍
レニン低下・アルドステロン上昇⇒原発性アルドステロン症

 

 

低Kを来すアシドーシス⇒アルコール過剰、糖尿病ケトアシドーシス;
遠位尿細管アシドーシスⅠ・Ⅱ型

低Kを来すアルカローシス

⇒嘔吐、利尿薬使用;Bartter症候群、Gitelman症候群

 

 

❶ 食事・飲酒と低K血症

一般に、食事・飲酒は内分泌と密接な関係があります。特に炭水化物やアルコールの過剰摂取は、低K血症を増悪させる可能性があります。

 

・慢性アルコール摂取に伴う低K血症
アルコールの過剰摂取は、電解質の摂取不足と尿細管障害に伴う電解質排泄亢進により低K血症と低Mg血症をもたらします。また、アルコール過剰摂取による代謝性アシドーシスの補正のために、アドレナリン作用の亢進と呼吸性アルカローシスによるKの細胞内シフトによって、ますます低K血症が進むことになります。

なお低Mg血症はK排泄を亢進させます。低K血症の治療のためには、KのみならずMgの評価に基づき、必要に応じて補正する必要があります。

 

 

・低K血性周期性四肢麻痺 ATPase
これはバセドウ病に伴う低K血症です。甲状腺ホルモン作用により、交感神経β刺激に対する組織の反応性が亢進し、骨格筋膜におけるNa⁺ K⁺ATPaseが活性化すると考えられています。炭水化物摂取量が多い場合、多量に分泌されたインスリンによってNa⁺ K⁺ATPaseが更に活性化し、低K性ミオパチーを呈することがあります。

 

 

 

❷ 低K血症をもたらす内分泌異常

1) 原発性アルドステロン症(PA)

① PAを疑うべき症例:低K血症合併高血圧、若年発症高血圧、Ⅱ度以上の高血圧、治療抵抗性高血圧、副腎偶発腫瘍を伴う高血圧、若年の脳血管障害合併高血圧、ならびに睡眠時無呼吸を伴う高血圧

② スクリーニング:アルドステロン/レニン比(ARR)算出
ARR(PRA)>200、ARR(ARC)>40~50;PAC>120pg/ml⇒PA⊕
PRA:血漿レニン活性、ARC:活性型レニン濃度、PAC:血漿アルドステロン濃度

 

③ 診断:機能確認検査; a)生理食塩水負荷試験、b)カプトリル試験、
c)経口食塩負荷試験、d)フロセミド負荷試験(転倒注意)

局在診断;

副腎静脈サンプリング(AVS)
片側性⇒アルドステロン産生腫瘍(APA)
両側性⇒特発性アルドステロン症(IHA)
  

④ 治療:MR拮抗薬(スピロノラクトン、エプレレノン、エサキセレノン)

 

 

2) 腎血管性高血圧(RVHT)

① 原因:若年者では線維筋性異形成、中・高年者では粥状動脈硬化
RVHTを疑うべき症例:低K性高血圧、若年発症高血圧、治療抵抗性高血圧、RA系阻害薬開始後の腎機能増悪、説明のつかない突然発症型肺水腫、脳心血管病合併例、腹部血管雑音、夜間多尿

 

② 機序:アルドステロン増加による低K血症

 

③ スクリーニング:PAC↑かつPRAorARC↑⇒RVHT⊕

 

④ 診断:腎動脈エコー(ドプラ―法)、MRアンジオグラフィー

 

⑤ 治療:粥状動脈硬化性⇒薬物療法(ACE阻害薬orARB少量開始、Ca拮抗薬補助)、両側性では禁忌

線維筋性異形成性⇒腎動脈血行再建法

 

 

3)クッシング症候群(CS)・サブクリニカルCS
① 症状:高血圧、低K血症、高血糖や脂質・骨代謝異常等はサブクリニカルCSでも見られます。CSの身体的変化(クッシング徴候)は、中心性肥満、満月様顔貌、野牛肩、赤色皮膚線状、皮下出血、皮膚菲薄化
  

② 分類:ACTH非依存性CS⇒副腎皮質腺腫・副腎癌、

ACTH依存性CS

⇒クッシング病(下垂体からACTH過剰分泌)、異所性ACTH産生細胞(肺小細胞癌など)
  

③ 機序:CSでは、コルチゾール過剰状態によって肝におけるアンジオテンシノーゲンの合成が亢進し、血中アンギオテンシンⅡが増加します。
  

④ スクリーニング:

クッシング徴候の検出と問診で医原性CSを除外
CS/SCSを疑う場合には、コルチゾール、ACTHは日内変動が大きいため基礎値を測定します。

 

⑤ 診断:

CSについて、まず以下の検査でクッシング症候群の診断を確定します。

a ) 尿中遊離コルチゾール(UFC)高値

b)デキサメサゾン1㎎抑制試験(8:00am血清コルチゾール濃度>5μg/dL)

c)夜間血清コルチゾール濃度>5μg/dL

次いで血漿ACTH濃度を測定し、

<5pg/mL⇒抑制⊕

⇒副腎CT(副腎腺腫、副腎癌、両側副腎過形成)

 

≧5pg/mL⇒抑制⊖

⇒下垂体MRI:腫瘍径≧6㎜
オーバーナイト・デキサメサゾン8㎎抑制試験
(8:00am血清コルチゾール濃度<前値の50%)
CRH試験:ピークの血漿ACTH濃度>前値の1.5倍

以上のすべてが⊕⇒クッシング病

 

両側下錐体静脈洞サンプリングにて

c/p<2(基礎値)、c/p<3(CRH)

 

⑥ 治療:

腫瘍核出術等、術後はヒドロコルチゾン(ミネラルコルチコイド作用も有するため)補充後漸減

 

<明日へ続く>