電解質異常からみた内分泌疾患、電解質欠乏症No1

6月22日(月) 

低Na血症と内分泌異常(副腎不全、SIADH、甲状腺機能低下症)

 

血液検査(血清生化学検査)の項目では、お馴染みのNaですが、習慣的にNa⁺濃度とCl⁻は、日常的にセットで測定されます。

血液を舐めてみて塩辛いのはNaClが存在するためです。代表的な血中電解質であるNaの生理的濃度は比較的幅が広いので見落とされがちですが、これが異常低値を示す場合は、重大な代謝異常やホルモン異常が背景に隠れている可能性があります。

内容は難しいので読み流していただくだけでも良いかと思われます。

 

 

❶ 低ナトリウム(Na)血症は、電解質異常の中で最も頻度の高いものです。

血清Na値が135mEq/l未満と定義されます。これは血液中のNa量よりも相対的に水分量が多くなっている病態です。低張性低Na血症を呈することが多いです。

 

血液データで発見される低張性低ナトリウム血症の原因を追究するための最初の手続きは体液量の増減による分類です。

 

体液量が減少している場合、増加している場合、ほぼ正常の場合の3つに分類することができます。

 

・体液量が減少した低Na血症では、原発性副腎不全(腎性Na喪失)が代表的です。

 

・体液量がほぼ正常な低Na血症は、バゾプレシン分泌過剰症(SIADH)、続発性副腎不全(下垂体機能低下症による)があります。

 

・体液量が増加した低Na血症は、

尿中Na排泄低下がみられるもの:

心不全、非代償性肝硬変、ネフローゼ症候群

 

尿中Na排泄増加がみられるもの:

腎不全

 

 

薬剤による低Na血症としてのSIADH、免疫チェックポイント阻害薬(ICIs)による
免疫関連有害事象(irAEs)としての下垂体機能低下症または副腎機能低下症による低Na血症が注目されている。

 

高張性低Na血症:

高血糖、グリセロール等の輸液

 

等張性低Na血症:

高蛋白血症(多発性骨髄腫etc)、高度脂質異常症

 

 

 

❷ 低Na血症をもたらす内分泌異常

 

原発性副腎不全

副腎原発の病変により副腎皮質ホルモンが低下した状態です。

副腎皮質ホルモンには、アルドステロン(鉱質コルチコイド)、コルチゾールならびに副腎アンドロゲンがあります。鉱質コルチコイド作用の低下により腎臓からのNa喪失が生じ、体液量の減少した低Na血症を呈する。治療としてはグルココルチコイドの補充を行います。

 

SIADH

血清Na濃度が低下しているにもかかわらず、バゾプレシン(AVP)の抑制が不十分であるため抗利尿作用が持続している状態です。
その結果、尿への自由水排泄が低下し、低浸透圧血症と低Na血症が持続します。
Na利尿ペプチド分泌亢進によるNa利尿の他、過剰なAVPにより腎集合尿細管におけるV2受容体およびアクアポリン2のダウンレギュレーションが起こり、水利尿はある程度回復し循環血液量がほぼ正常の低Na血症になります。

SIADHの原因として、中枢神経疾患、胸腔内疾患、異所性AVP産生腫瘍等がありますが、薬剤性のものをしばしば見かけます。抗癌剤ビンクリスティンの他、抗うつ剤(三環系抗うつ薬、SSRIsとして頻用される選択的セロトニン再取込み阻害薬など)は注意を要します。

 

続発性腎不全

視床下部または下垂体の障害により、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が低下し、副腎皮質からのコルチゾール分泌が低下して発症します。
コルチゾールは視床下部のAVP神経に作用し、AVP合成および分泌を抑制する作用を有するので、続発性副腎不全ではAVPの分泌が亢進し、SIADH類似の病態を示します。すなわち、体液量がほぼ正常の低Na血症を呈します。治療はグルココルチコイドの補充で、原発性副腎不全と同様です。

 

<明日へ続く>