特集:シリーズ『新型コロナウイルス罹患者の体験から学ぼう』症例7:母の死 親戚にさえ言えず ④


取材報道<NHK特設サイト 新型コロナウイルス>から学ぶ5症例の研究


症例が増え7症例目に入ります。

 

新型コロナウイルスに感染したとき、どんな事態に直面するのか。感染した人や家族の話を通して、その一端を知るため、NHKが行ったインタビューの内容をできるかぎり詳細にお伝えします。

 

以下は、取材記事を下敷きとし、加筆や編集部分は緑文字として区別しました。

症例7:母の死 親戚にさえ言えず

 

症例7(その4)

第4節:親戚にすら話せずにいる

母親の死から1か月。女性はまだ親戚にさえ、亡くなったことを知らせていないという
まだ主人の家族は誰も知らないですよね。私と姉のところの家族。でも姉の子どもたちはまだ知らないですよね。私のすごくすごく仲の良い友人たちだけですね、知ってるのは。親戚にもまだ言ってないです。


お葬式もまだできないですよね。結局まあ、田舎の古い人たちなので、亡くなったらやっぱりちゃんとしなきゃいけないじゃないですか。でもいざ来るとなっても、来られないですよね、今、コロナで。来てもらっても、その人たちのリスクはこちらは負えないので、それ(葬式)はなしにしようっていうのが姉との話なので。

 

コロナが落ち着いてから「実は亡くなりました」という報告だけでいいんじゃないと話はしています。親戚も、お歳をとった方ばかりなので、それで承諾してもらうしかない。

近所の人にも伝えていない

ご近所で町会費を集めなきゃならないっていう話になって、「(母親を)見ないね」って言われたので、「ちょっと具合が悪いので入院しています」って言ったら何も聞かないんですね、その後は。「どうしてる?」って言ってた人もいましたけど「うん、入院してる」で、その後スーっていなくなっちゃうので。

 

だから、うすうす分かってるんじゃないかなって思います。だって、お線香のにおいはするじゃないですか。今までしなかったにおいがするから、何かあるなっていうふうには思われてるだろうなって思うけど、それ以上、皆さんお聞きにならないので、そのままにしています。

 

(高齢の両親と)同居しているの(近所では)うちだけだったりするし、会うたんびに「お父さん、どう?お母さん、どう?」っていう会話をしてたところはあるので、ちゃんと言わないといけないなって自分の中では思いますけど。まだ、ちょっと…。

 

コメント:

今週に入って、私の所にも訃報が2件程入ってきました。

御一人は89歳男性、医師で生化学研究者の方でした。お酒が大すきな方で長く糖尿病を患っている方でした。

顧問をしていらした研究所に勤務されていた頃は、通勤途上の「高円寺南診療所」に定期的に受診されていましたが、勇退後は近医に移られていました。

長いお付き合いでしたので、季節ごとのやりとりはしておりましたが、今年の3月に肺炎のため急逝されたとのことでした。


もう一方も男性で、かつてヘビースモーカーで狭心症から心筋梗塞となり、紹介先の病院の精密検査によって食道がんが見つかり、手術を経験された方で88歳でした。

この方は、その後、心臓専門の病院に転医していただき長期のアフターケアを続けておられたようですが、やはり最近、急逝されたとのことでした。

たまたまご自宅から外出される奥さまからうかがったのですが、原因疾患については触れてほしくない素ぶりでした。憶測にすぎませんが、新型コロナ肺炎であった可能性は否定できません。

 

基礎疾患のコントロールは大切です。

お二人とも、複数の生活習慣病を患っていました。それにもかかわらず、その後の継続的な健康管理によって、男性の平均寿命を越えて90歳近くまで元気で過ごせたことの意義は少なくなかったのではないか、と考えます。

 

 

第5節:“罪悪感たっぷりの病気”

母親が感染して亡くなったことを、なぜ話せないのか。女性が語ったのは、感染した人に対する周囲の視線についてだった

今、ネット社会なので、そういうのですよね。報道見てるとすごいですもんね。

医療従事者のお子さんが保育園に入れないとか、医療従事者の方が帰れないとか、帰ってくるなとか、そういうことを見ていくと、世の中ってそんなに差別がある(差別というより、偏見でしょうか。しかし、全く根拠のない理由による偏見ではないところが難しい所です)んだと思ったら言えなくなっちゃう。


陰で一生懸命やってる人たちがあんなに苦しんでるのを見聞きしちゃうと、そんなに大変な病気なんだっていうか、そんなことで言われるんだったら、じゃあ亡くなった本人や私たちだったら、もっとされちゃうんだろうな。じゃあ、言えないなっていう。やっぱり後ろめたい病気なんでしょうね。


何かすごく、かかっちゃいけない病気にかかっちゃったっていうのかな。世間的にコロナの病気が罪悪感たっぷりの病気だから言えないかな。


インフルエンザにかかっただけでも世間って嫌がるじゃないですか。インフルエンザでも嫌なんだから、コロナってもっと嫌だから言えないですよね。

 

何もしていないのにかかっちゃったけど、これだけコロナが悪者にされてると、なった方は悪者になっちゃうじゃないですか。何か世間が悪者にしているっていうか、うん、敗者にさせられてる。勝者と敗者じゃないですけど、勝ち組、負け組じゃないけど、負け組にさせられてる。

 

一方で、女性はその気持ちを否定しきれないという

どういうふうに説明したらいいか、よく分からないんですけど、差別する気持ちってたぶん誰にでもあるって…。

なんだろうなあ。人間の上下をつけるじゃないけど、かかってない人は偉い、かかっちゃった人は偉くないじゃないけど、下に見てるみたいな。人間、どうしても順位をつけたがるような気がするんですね、私はね。

 

でもそう考えると、(誰かが)コロナにかかっちゃったって聞いたら、たぶん、距離感を保ってたと思います、自分も。「えー何やっちゃってんの」とか、「ぷらぷら歩いてるからだよ」ってすごく思うと思うんですよ。

 

コメント:

一人称としての振り返りだけでなく、二人称あるいは三人称の時限に身を置いて振り返っていらっしゃることに敬意を表します。

三人称複数形で、一般論として話しをすることができない日本人も少なくありません。

皆で何か大切な概説的な話し合いをしようという時に、「私は・・・」といって客観的、一般的な議論から外れてしまいがちな方も少なくありません。

 

<明日へ続く>