炎症の視点から診る各種の呼吸器疾患No5

非結核性抗酸菌症

非結核性抗酸菌症(NTM)とは、結核菌以外の培養可能な抗酸菌の総称です。

 

NTMの種類は多数に及びますが、ヒトに病原性が報告されているものだけで40種類を越えます。これらの菌による感染症がNTM症です。そして、それらの大部分が肺の慢性疾患である肺NTM症です。

 

近年、肺NTM症は世界的に増加しているようですが、結核のような正確な統計がありません。わが国では、2014年の疫学調査によると、肺NTM症の罹患率は10万対14.7と、結核を凌駕する勢いで増加しています。この疾患は難治で長期管理が必要なため、外来患者数は増加の一途を辿っています。

 

 日本結核病学会と日本呼吸器学会が合同で2008年に診断指針(合同診断指針)を、2012年に化学療法の見解改訂版(合同化学療法見解)を発表しています。また、2015年には日本結核病学会の編集で内外のガイドラインのまとめを中心として、標準的診療を網羅した非結核性抗酸菌診療マニュアル(診療マニュアル)が刊行されました。

 

非結核性好酸菌症とは、NTMによる慢性の肉芽腫性感染症です。

 

我が国の肺NTM症の約88%がMAC、約4.3%がM.kansasii、約3.3%M.abscessusが占めています。臨床経過、画像、組織像などは、いずれも基本的に結核と同じで、原因菌を同定しない限り鑑別できません。MACによる非結核性好酸菌症を肺MAC症と呼びます。

 

肺MAC症の確定診断後は、以下の判断材料より総合的に判断します。

・年齢:比較的若年者は早期治療が望ましい

・自覚症状:気になる自覚症状があれば治療する

・画像所見:空洞や広範囲な病変および悪化傾向、手術の可能性があれば治療する

・基礎疾患、予後:癌などの終末期に無理な治療はしない

・患者の希望・理解度:治療のためには理解が必要

 

診断後すぐに治療すべき症例(可能であれば手術も検討)

・線維空洞型の症例

・結節・気管支拡張型(NB型)でも早期治療開始すべき症例
 血痰・喀血がある症例、塗抹排菌量が多く気管支拡張病変が高度な症例、
 病変の範囲が一側肺の1/3を超える症例

 

肺MAC症は、特に基礎疾患のない50代以降の女性に多いです。主訴は慢性的な咳や痰です。肺結核との鑑別が最重要ですが、肺結核が否定されれば、特に急ぐ必要はありません。

しかし、肺MAC症の多くを占めるのがNB型で、この型の経過・予後は症例ごとに大きく異なります。多くの場合は化学療法がある程度奏功しますが、治療をやめると再び悪化するエピソードを繰り返しながら5~10年のスケールでゆっくりと進行する比較的良好な経過をとります。なかには無治療でもほとんど進行せずに10~20年を経過する例もある一方で、最大限の治療をしても4~5年のうちに病変が進行し不幸な転帰をとる例もあります。

 

治療の有無にかかわらず生活指導が大切です。十分な食事と睡眠をとり、痩せすぎないようにします。それが再感染防止策にも繋がります。引っ越し、看病、孫の世話、旅行などの際に悪化しやすいことを知っておくことが必要です。風呂場を清潔に保ち十分に乾燥させることと、土埃からの感染が推定されているので、どうしても土埃を吸う場合はマスクを着用することも必要です。