特集:シリーズ『新型コロナウイルス罹患者の体験から学ぼう』症例7:母の死 親戚にさえ言えず ③

取材報道<NHK特設サイト 新型コロナウイルス>から学ぶ5症例の研究

 

症例が増え7症例目に入ります。

 

新型コロナウイルスに感染したとき、どんな事態に直面するのか。感染した人や家族の話を通して、その一端を知るため、NHKが行ったインタビューの内容をできるかぎり詳細にお伝えします。

 

以下は、取材記事を下敷きとし、加筆や編集部分は緑文字として区別しました。



症例7:母の死 親戚にさえ言えず


5月9日、13日取材 社会部 山屋智香子

 

関東地方に住む女性は4月、80代の母親を新型コロナウイルスによる肺炎で亡くしました。救急車に乗ったあと一度も会えないまま遺骨となって帰ってきた母。女性は今も母親の死を、親戚にさえ伝えられずにいると言います。

 

症例7(その3)

 

第3節:今も泣けない

みとることもできなかった母親の死を、女性は淡々と語っているように見えた

こないだ一晩だけ、ちょっと5分ぐらい、お風呂場で泣きましたけど。それは「私たちがかかんなかったら、いられたよね、ここに」っていう思いで。

「ああ、やっと泣けたなぁ」って思ったんですけど。何も見てないじゃないですか。(病院に)行ったことしか見てないでしょ?家から救急車に乗ったことしか見てないじゃないですか。苦しんでるとこも見てないし、弱っていった姿も見てないし、何もないじゃないですか。

 

だから、たぶん、わかんないんだと思う。お通夜やって、お葬式をやって、ああいうのを全部やって初めて、亡くなったっていうのを受け入れられるん(お通夜や御葬式という手続きは、遺族の魂のケアに大きく役立っているということを感じます。)だって。


まだなんとなく泣けないところがあるのはやっぱりどっかで違うって思ってるのかな?心の整理がつかない。死ぬならコロナじゃない方がよかったよねっていう後悔。

歳だから、ある程度、覚悟は私も姉もあるんです。死ぬことに関しては覚悟はできている(お年は存じ上げませんが、死ぬことに対して覚悟ができていると思われる方に、私は今まで滅多にお会いしたことはありません。もっとも、覚悟と言うのは年齢とは無関係かもしれません。90歳の半ばに達した方で、「老後が心配」と相談を受けて絶句してしまった経験があるくらいです。)んですけど、コロナで死ぬことはなかったかなっていうのは…。うまく答えられないです。ごめんなさい。


「今も泣けない」と話す女性。夫は、妻の様子をどう見ているのか。

 

私も母親を亡くしてるんですね。がんで亡くなったんで、死に目に会えて、悲しんで、お葬式もあげられて、お墓も作ってあげられて、供養もできたんですね。

今回の場合ですけれども、自分もね、支えてあげられないというか、どうしてあげられたらいいのかっていうのも分かんないまま。

やっぱり現実を受け入れたくないんですよね。

母親がね、お骨で帰ってくることが。だから、(妻が)どういう気持ちでっていうのが、自分自身も分からない状態で、どんだけ苦しんでんのかっていうのを、まだ聞くに聞けないような状況です。

 

<明日へ続く>