東京歯科大学市川総合病院循環器科の大木先生は、新型コロナウイルスに関して、とてもわかりやすい解説を掲載されています。御経歴からすると私より大分若手であるようですが、見習いたいと思いました。
私は、同市内にある昭和学院短期大学の客員教授として10年ほど勤務していたことがあり、この病院の前は数えきれないくらい通過していたのを懐かしく思い出します。
『知っておきたい新型コロナウイルス感染症COVID-19』
大木 貴博(おおき たかひろ)先生 所属 循環器内科
職名 教授
最終学歴 慶應義塾大学大学院医学研究科
学位 博士(医学)
資格 医師、日本循環器学会専門医、日本内科学会認定内科医
職歴 平成 6 年 5 月 慶應義塾大学病院救急部専修医
平成 7 年 6 月 栃木県済生会宇都宮病院循環器科医員
(中略)
平成 31 年 2 月 東京歯科大学市川総合病院循環器内科教授
学会活動 日本内科学会 日本循環器学会 日本心血管インターベーション学会
2020.4.20
循環器内科 大木貴博
新型コロナウイルス感染症は大きく社会を揺るがせています。その重大性から毎日のように報告、報道がなされ、膨大な情報が発せられています。ここに今わかっていることから私見をまとめてみました。
【新型コロナウイルス感染症とは】
感染症は人から人にうつる可能性のある病気です。伝染病や疫病という言い方もあります。高血圧や糖尿病、心臓病や腎臓病など、薬を飲み続けて良い状態を保つという病気と違い、感染した病原体が身体からいなくなれば原則として治ります。
一度身体に住み着いた病原菌が身体にいなくなるには、身体が免疫という機構によって病原菌を完全に死滅させなければなりません。まれにひどい感染症によって後遺症を残す場合もありますし、なかなか病原体が完全には消え去らず、軽快と再燃ということを繰り返す場合もあります。
旧型のコロナウイルスはこれまでいわゆる風邪を起こすウイルスとして知られていましたが、今回従来のコロナウイルスが突然変異を生じて新しいタイプの感染症を引き起こす様になっています。いつ、どのような変異を、どこで起こしたのかは今のところわかっていません。
新型コロナウイルスについては未だ詳しい性質がわかっておらず、どのようなタイプの感染を生じるか不明です。免疫が働きにくく、完全に治癒することはできないといった、非常に悪質なタイプの可能性もあります。
一度陰性となった方が再び陽性となることがあり、一部の方には持続感染という現象が起きている可能性さえ考えられます。たとえば肝炎ウイルスのように、抗体ができていても体内にウイルスが残る場合もありますし、帯状疱疹のようにほぼ一生ウイルスが体内の奥に潜み、体力が低下したときに繰り返し出てくるというようなものもあります。新型コロナウイルスがどのような感染をするのか明らかになっていない以上、感染しても風邪のように症状が軽く済んでしまうのならば、かかってしまっても良いなどと考えるのは危険です。
コメント:
感染症(伝染病、疫病)をセットでまとめてくれています。
基礎疾患のある人が罹患しやすく重症化しやすいことが分かってきましたが、代表的な基礎疾患として具体的に「高血圧や糖尿病、心臓病や腎臓病」を挙げてくださいました。肺炎を発症させるととても危険なのですが、慢性の呼吸器疾患も重要な基礎疾患です。
免疫、突然変異、軽快と再燃、持続感染など、キーワードではありますが難しい医学用語を平易な文脈の中で相互の繋がりを明らかにしてくれています。
さてヒトに疾患を引き起こすことが知られているコロナウイルスは新型コロナウイルスを含めて7種類です。
コロナウイルスは,感冒から致死的な肺炎に至るまでの様々な重症度の呼吸器疾患を引き起こす,エンベロープを有するRNAウイルスです。
1930年代に家禽で初めて発見された多くのコロナウイルスは,動物で呼吸器,消化管,肝臓,および神経系の疾患を引き起こします。
7種類のうち4種類は感冒の症状を引き起こすことが非常に多いです。コロナウイルス229EおよびOC43は感冒を引き起こし,血清型NL63およびHUK1にも感冒との関連が認められています。まれに,肺炎を含む重度の下気道感染症が発生することもありますが,これは主に乳児,高齢者,易感染性患者にみられます。
7種類のコロナウイルスのうち3種類は,他のコロナウイルスよりもはるかに重度で,ときに死に至る呼吸器感染症を引き起こし,21世紀になってから致死的な肺炎の大規模なアウトブレイクを引き起こしています。
• SARS-CoV2は,COVID-19(coronavirus disease 2019)の原因として同定された新型コロナウイルスであり,2019年末に中国の武漢で始まり,世界中に拡大しています。
• MERS-CoVは,中東呼吸器症候群(MERS)の原因として2012年に同定されました。
• SARS-CoVは,重症急性呼吸器症候群(SARS)のアウトブレイクの原因として2002年に同定されました。
重度の呼吸器感染症を引き起こすこれらのコロナウイルスは人獣共通感染の病原体であり,感染動物から始まり,動物からヒトに伝播します。ですから、今年の初期において、何人かの感染症の専門家が、「新型コロナウイルスは動物からヒトに感染しない」、「ヒト-ヒト感染はない」、「新型コロナウイルス感染症はインフルエンザ感染症より軽い」という根拠の乏しい発言を聴いてとても失望したことを想い出します。
<明日へ続く>
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