5月14日(木)特集:シリーズ『新型コロナウイルス罹患者の体験から学ぼう』症例3:結婚記念日のクルーズ船旅行が… 夫を失った妻が語る1か月半 ⑨

取材報道<NHK特設サイト 新型コロナウイルス>から学ぶ4症例の研究

 

新型コロナウイルスに感染したとき、どんな事態に直面するのか。感染した人や家族の話を通して、その一端を知るため、NHKが行ったインタビューの内容をできるかぎり詳細にお伝えします。

 

以下は、取材記事を下敷きとし、加筆や編集部分は緑文字として区別しました。


症例3:結婚記念日のクルーズ船旅行が… 夫を失った妻が語る1か月半


4月4日取材 社会部 山屋智香子

集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に乗船して夫婦ともに感染。夫は発症から1か月半で亡くなりました。妻は「夫の死を無駄にしたくない」と感染症特有の怖さと無念さを明かしました。初めて語ったという経験をできるだけ詳細にお伝えするため、インタビューを一部整理した上で紹介します。

 

症例3(その9)

第9節:死後も続くウイルスの残酷さ

夫のなきがらはすぐに特殊な袋に納められた

<新型コロナウイルス感染症の被害者は、生前からすでに
人間としての尊厳を著しく傷付けられているというお話です。>

長い間そこに置いとくわけにはいかないっていうことで、葬儀屋さんが、防護服に身をかためて、透明の袋に入れて霊安室に運んでくれたのね。

霊安室で祭壇みたいなのを作ってくださって。そこでは手を合わせるだけでしたけど。すぐにお棺に入れて蓋をしてしまう。

 

「あす23日に火葬にします」ということで。それも普通だったら霊柩車に一緒に乗るでしょう?家族は。でも、それもできない。

私と夫の兄がタクシーで先に行っていて、それからお棺を乗せた霊柩車が後から来て、それで火葬に付す。火葬屋さんも、ものものしいいでたちで。(このような対応ができる専門業者がなければ、日本全体の感染症蔓延はさらに激化していたのではないでしょうか。今後は、平時から葬儀業者に対する感染症対策指導を徹すると同時に、プロフェッショナルとしての意識を高めていただく必要があるでしょう。)

 

私たちが火葬場に着いたときには、他の全てのお葬式が終わって、本当にがらーんとしたところで。そこにお棺が運ばれてきて、お焼香。お焼香と言っても、お棺の窓が開くわけではないから、単純に私と夫の兄と2人でお焼香をして。終わった途端に、

「では火葬場に行きます」ということで窯の前に行って、彼のお棺が入っていく。私たち2人しか見送り人がいなくて。

何か、本当にかわいそうで、悲しくって、こんなふうにして焼かれてしまう。

何かもう、気が遠くなりそうでしたね。かわいそうだった。

本当にかわいそうだった。

こんな経験って初めてだし、こんな悲しいこと、こんな寂しいことあるんだろうかと思って。

 

それで無情に窯の蓋が閉められて。

「あちらで1時間半ぐらい待ってて下さい」って言われて。

誰もいないところで、2人で待ってましたけどね。

できるだけ人数少なくしてくださいというふうに言われていたから。

葬儀屋さん、それから、病院からも言われてた。

とにかく「人数をしぼって下さい、5人以下にしてくれ」というふうに言われて。

 

お骨になるのを待っていたら、ご近所の方が「お骨だけは拾いたいから」(このご夫婦の日頃のお人柄が偲ばれます。それにつけても、献身的に新型コロナ診療に従事している医療従事者が近隣から締め出しを食らっているばかりでなく、攻撃を受けているという、実に寂しく悲しい現実が毎日報道されている現実があることも冷静に受け止めなければならないと思います。)てって言って来てくださって。

たった1人なんだけれども、それがどのぐらいありがたいと思ったかね。

2人っきりじゃなくて、もう1人増えたのは本当にうれしかったです(患者や家族、そして医療従事者を孤立させないこと!これが教訓です。日本においいては地域共同体が崩壊して久しいといわれますが、たとえ形が変わっても互助の精神文化は貴重な財産として受け継いでいきたいものです)

 

<明日に続く>