5月13日(水)特集:シリーズ『新型コロナウイルス罹患者の体験から学ぼう』症例3:結婚記念日のクルーズ船旅行が… 夫を失った妻が語る1か月半➇

取材報道<NHK特設サイト 新型コロナウイルス>から学ぶ4症例の研究

 

新型コロナウイルスに感染したとき、どんな事態に直面するのか。感染した人や家族の話を通して、その一端を知るため、NHKが行ったインタビューの内容をできるかぎり詳細にお伝えします。


4月4日取材 社会部 山屋智香子

集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に乗船して夫婦ともに感染。夫は発症から1か月半で亡くなりました。妻は「夫の死を無駄にしたくない」と感染症特有の怖さと無念さを明かしました。初めて語ったという経験をできるだけ詳細にお伝えするため、インタビューを一部整理した上で紹介します。

 

症例3(その8)

第8節:ガラス越しの最期

その後も何度か容体が急変することがあったが、妻が駆けつけるたびに安定した(この記述はとても大きな教訓を与えてくれます。人は今まで経験したことのない急激な危険、とりわけ生命の危機に直面するような極限状態において、突然わけもわからず孤立を強いられ、先行きの見通しが立たれた場合、どのようになるのでしょうか。心理的負荷が極限に達し、免疫力が急激に低下し、肺炎などの感染症は急激に悪化します。精神腫瘍学という学問がすでに確立されていますが、精神感染症学といった心身医学のジャンルを早急に打ち立てて、隔離された患者を放置するだけの現状の体制がもたらした悲惨な結果を繰り返さないための教訓にすべきではないでしょうか)。しかし3月22日未明、再び病院から「すぐ来て下さい」と電話
ICUに行った時にはもう、心拍数がゼロになっちゃってて、平らになっちゃっていて。2時12分という時間が彼の死亡時刻になりました。


管類を外して、全部綺麗にして、それから彼のお気に入りの浴衣っていうのを前もって持って行ってたんです。前から、看護師さんに言われてたから。旅行中の写真だとか看護師さんたちに見せてたのね。

「それに合わせたように、あまりやつれたようにしないように、含み綿や何かをして再現しようとしたんですけどね」(東大には精神看護学という講座がありますが、この分野は、今後ますます大切になって来るのではないかと思います。看護の業務には患者だけでなく患者の家族のケアも含んでいるのではないかと思います。この病院の看護師も、多忙な中で自分の命を張って患者を支える一方で、家族の精神的ケアに対しての心配りがなされていたことに感銘を覚えます。今後は、精神感染症看護学というジャンルも必要だと思います。)って言って下さって。


あの、ガラスがあるでしょ?ICUの。そのガラスの前にベッドを持ってきてくれて、それで顔も見せてくれたの。船を下りて顔を見たのは、それが初めて。それで、それが最後。穏やかな顔になってましたよ。

 

看護師さんが彼の手をね、持ち上げてガラスに当ててくれて、私も手を当てて、最期の別れ。そう、それが最期の別れ。ガラス越しで体温も何も分からないけども。それが最期でした。

 

<明日へ続く>