5月11日(月)特集:シリーズ『新型コロナウイルス罹患者の体験から学ぼう』症例3:結婚記念日のクルーズ船旅行が… 夫を失った妻が語る1か月半 ⑥

取材報道<NHK特設サイト 新型コロナウイルス>から学ぶ4症例の研究

 

新型コロナウイルスに感染したとき、どんな事態に直面するのか。感染した人や家族の話を通して、その一端を知るため、NHKが行ったインタビューの内容をできるかぎり詳細にお伝えします。

 

以下は、取材記事を下敷きとし、加筆や編集部分は赤い文字として区別しました。

症例3:結婚記念日のクルーズ船旅行が… 夫を失った妻が語る1か月半

4月4日取材 社会部 山屋智香子
集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に乗船して夫婦ともに感染。夫は発症から1か月半で亡くなりました。妻は「夫の死を無駄にしたくない」と感染症特有の怖さと無念さを明かしました。初めて語ったという経験をできるだけ詳細にお伝えするため、インタビューを一部整理した上で紹介します。

症例3(その6)

 

第6節:夫に届いた妻の言葉

3月5日、血圧が急速に下がっていると病院から連絡が入る。近づくことさえできない夫に、妻は看護師を介して言葉をかけた。夫婦の間だけで通じるニックネームで
看護師さんが「何か奥さんが彼に声をかける、何か言葉ってないですか」って言われたから、「ジョン。ジョンって呼んで。ジョンって呼びかけて」って言ったのね。

 

「ジョン愛しているよ。来ているよってそういうふうに言って」って言ったのね。そしたら、看護師がそれを伝えてくれたの。そしたら看護師が、ふっと立ち上がってティッシュペーパー取って、それで彼の目元を拭いてくれたんですよ。

 

ジョンっていうのは、数年前にメガネを買い替えたいっていうんで、行きつけの眼鏡屋さんに行ったのね。そしたら丸い眼鏡がすごく似合ったんですよ。それがジョンレノンが掛けてる丸い眼鏡だったの。彼気に入って買ったのね。で、「これからジョンて呼ぶわね」って言ってね。だからジョンっていうのは私たちだけの呼びかけ。誰も知らない。

 

ああ、その言葉が届いたのかしらって。やっとそばに来てくれたという、多分、彼はそういう安堵感もあったかもしれないし。まさか涙流すなんて想像もしてなかったから。
 

それはもう本当に切なかった。あんな状態でも分かってくれたのかしらっていうか。ジョンなんていうのは私だけしか呼びかけない言葉だから。

 

そしたら彼がそこまで耐えてきた、いろんな機械をつけられる怖さだとか、それから何だろう、痛みもあっただろうし、それから寂しさだとか孤独だとか。そんなものをものすごく、ものすごく感じてしまって。もう本当に涙が止まらなかった。それで何回も何回も看護師がそういうふうに呼んでくださってたら、そのうちに血圧が戻り始めてね。それで一応安定はしたんですけれどね。

 

<明日へ続く>