5月10日(日)特集:シリーズ『新型コロナウイルス罹患者の体験から学ぼう』症例3:結婚記念日のクルーズ船旅行が… 夫を失った妻が語る1か月半⑤

取材報道<NHK特設サイト 新型コロナウイルス>から学ぶ4症例の研究

 

新型コロナウイルスに感染したとき、どんな事態に直面するのか。感染した人や家族の話を通して、その一端を知るため、NHKが行ったインタビューの内容をできるかぎり詳細にお伝えします。

以下は、取材記事を下敷きとし、加筆や編集部分は赤い文字として区別しました。

症例3:結婚記念日のクルーズ船旅行が… 夫を失った妻が語る1か月半


4月4日取材 社会部 山屋智香子

集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に乗船して夫婦ともに感染。夫は発症から1か月半で亡くなりました。妻は「夫の死を無駄にしたくない」と感染症特有の怖さと無念さを明かしました。初めて語ったという経験をできるだけ詳細にお伝えするため、インタビューを一部整理した上で紹介します。

 

症例3(その5)

第5節:近づくことさえできない 感染症の現実

妻の症状は軽く、3週間ほどで退院。すぐに夫の元に駆けつけたが、ICUのガラスの向こうに夫はいた

行ったらICUのガラス越しに見る彼は本当に全て管につながれちゃっていて。目の前におっきなECMOがあって。血を取って、それを循環しながら酸素を入れて、それでまた体に戻すというそういう機械だから、かなり大きな機械で。それで酸素がどんどんどんどん入って出てるのも分かるし。それで管も赤い血が流れているというか。顔もよく見えない、顎ぐらいしか見えない。
 

ガラス越し。全然向こうの音も聞こえないから。
ぼう然としてる時に、先生が時系列で彼の肺の写真、見せてくれたのね。

そしたらもう、入院した時から相当に白くて、その白さがどんどんどんどん日を追って増すばっかり。

それで途中で肺にたまった水を抜いた時に、少しだけその曇りがとれてるんだけど、また翌日からは白くなっていくという。「確実に悪い方に向いています」というふうに言われて。

それで「検体を送ってもいいですか?」と言われて。彼のこういう状態が無駄にならないように、そうしてくださいっていう同意書にサインしましたね。

 

もうこれは助からないなと思った。

うん。これはほんとに彼がどのぐらい頑張るかの問題で、回復して帰れるとかっていうことは、もうあれ見たら考えられもしなかった。

 

でもお医者さんと話しする時にめそめそ泣いてはいられなくて、きちんとした説明を聞かなきゃなんないと思って、必死に頑張っていたし、それでとにかく彼の死が無駄にならないように。無駄死にはさせたくないから、検体、どこの検体でも、とにかく役に立つものだったら、それによって救われる人がいるんだったら研究に回していただきたいということは言いました。

 

<明日に続く>