5月7日(木)特集:シリーズ『新型コロナウイルス罹患者の体験から学ぼう』症例3:結婚記念日のクルーズ船旅行が… 夫を失った妻が語る1か月半②

特集:シリーズ『新型コロナウイルス罹患者の体験から学ぼう』

 

取材報道<NHK特設サイト 新型コロナウイルス>から学ぶ4症例の研究

 

新型コロナウイルスに感染したとき、どんな事態に直面するのか。感染した人や家族の話を通して、その一端を知るため、NHKが行ったインタビューの内容をできるかぎり詳細にお伝えします。

 

以下は、取材記事を下敷きとし、加筆や編集部分は赤い文字として区別しました。

症例3:結婚記念日のクルーズ船旅行が… 夫を失った妻が語る1か月半

 

4月4日取材 社会部 山屋智香子

集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に乗船して夫婦ともに感染。夫は発症から1か月半で亡くなりました。妻は「夫の死を無駄にしたくない」と感染症特有の怖さと無念さを明かしました。初めて語ったという経験をできるだけ詳細にお伝えするため、インタビューを一部整理した上で紹介します。

 

症例3(その2)

第2節:風邪のような症状 手帳に記されていた異変

 

旅の終盤、夫に風邪のような症状が現れ始める。しかし当初は、新型コロナウイルスへの感染を疑うことはなかった。その様子が夫婦の手帳に記されている

 

2月1日の時点で、彼が何日か前から「鼻グズグズ、咳をしてた」って、これは私が手帳に書いてたんですけど、<「マスクして」って言ったら「いらない」って言われた>とも書いてます。
 

2月2日が最後の<フォーマルパーティ>(3密の可能性大:密集、密接、密閉)。この時は彼はご機嫌で。だから調子が悪いなんてことは、私は気にもしていなかった。それで3日ですよ。コロナウイルスという言葉が出てきたのは。


「プリンセスパター」といって、船で配られる新聞のようなもの。そこに「横浜から香港までの5日間に、ダイヤモンドプリンセスに乗船されていた香港からのお客さまが、2月1日に新型コロナウイルス陽性と診断されたと香港の公衆衛生局から通知がありました。

現在この香港からのお客さまの容体は安定しており、このお客様と一緒に本船で旅行されていた方からは感染が確認されませんでした」というふうに書いてあるんですけどね。

 

彼の手帳では「コロナウイルスで横浜に20時入港。医務室にて受診。その時36.7度、様子見」(っていうふうに書いてあって。ただ、「咳と胸苦しさ」(発熱しない症例があります。それどころが、一切の症状があらわれない感染者もいます。これを「不顕性感染」といいます。やっかいなことに、不顕性感染でも他人に感染させてしまうことがあります。無症状の人から感染した人が発症することもあります。ですから、少しでも苦しくなった段階で、ただちに肺炎の発症を疑わなくてはなりません!)っていうふうに書いてあるんですよ。


「胸苦しいなんていうことを普通の生活の中で彼が言ったことなかった」し。だから、こういうふうに書くからには『相当に苦しかったんだ』と思うんだけれども、『何で言ってくれなかったんだろう』(人格高潔で妻想いで優しい男性は我慢強く辛抱してしまうことがあります。残念ながら、それが仇になってしまって、お気の毒で胸が痛みます。)って。


5日になって朝8時ごろ、「14日間客室留置」というアナウンスが流れて、それで客室から出ちゃいけない。この頃彼は、もう何か「寝てばっかりいましたね。横になって」(嗜眠傾向といいます。肺炎による低酸素血症に陥っているため、身心は酸素の消費を節約するような反応を示します。身体(筋肉)の省エネ:運動・立位⇒休息・臥位、精神(脳)の省エネ:思考・覚醒⇒思考停止:睡眠)


7日に体温計が配られて、37度5分以上の時は医務室に電話しろということで、私は36度5分だったけども彼は「38度2分」あった。医務室に電話したけれど、【「ああそうですか」っていう感じ】(医務室の担当者もパニック状態であったことが想像されます。そのような場合に、冷静を装っていないと家族が不穏になり収集がつかなくなることを懸念した上での対応だったのではないかと思います。)でした。


翌日になって朝10時ごろですね。自衛隊の医務官と看護師が部屋に来て、私たちの検体を取って帰った。喉の奥。それで「陽性だったら1日から2日後に連絡します」ということで。

夫はもう、「はあはあふうふう言ってたし、苦しそうだった」(急性肺炎に伴う低酸素状態が進行している様子です)し。それでも「全然どうしてくれるとかって、なかった」(医療者側のマンパワーが絶対的に不足しているだけでなく、新型の感染症については、医療従事者の知識も素人同然であると考えてください。ましてや治療法は確立していないので、医療従事者も無力感の中で戦い続けていかなければなりません。)のね。

 

<明日に続く>