保険診療の検査実施上の落とし穴(その2)
昨日に、引き続き、医療機関の診療報酬の削減政策の具体例についてご報告します。
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1月分減増点連絡書(社会保険診療報酬支払基金東京支部)より
減点事由A:
療養担当規則等に照らし、医学的に保険診療上適応とならないもの
減点事由B:
療養担当規則等に照らし、医学的に保険診療上過剰・重複となるもの
減点事由C:
療養担当規則等に照らし、A・B以外で医学的に保険診療上適切でないもの
減点事由D:
告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの
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減点対象<請求内容>IRIとCRP(2件)
審査結果の理由等:
『同日にIRIとCRPが算定されています。(審査情報提供事例031、032)により、IRIとCRPの併施は、インスリン異常症等の場合を除き原則として算定できません。』
当クリニックの原因分析:
糖尿病IRI(インスリン)とC反応性タンパクを同日に算定した背景は、糖尿病と関節リウマチを主病とする複数の疾患をもつ患者さんの検査を実施したためです。当局(社会保険診療報酬支払基金東京支部)の審査担当者は、糖尿病、関節リウマチ、いずれの病名の記載があるにもかかわらず、規則を機械的に適応したものと思われます。
当クリニックの問題分析:
糖尿病IRI(インスリン)とC反応性タンパクを同日に算定する
ことは、保険診療上の適応があり、過剰・重複でもないにもかかわらず、医学的に保険診療上適切でない、という当局の決定は理解不能です。
『医学的に保険診療上適切でない』という指摘には問題があります。
なぜならば、「保険診療上の適応があり、過剰・重複でもない」のであるとしたら、医学的に適切な検査であるはずです。
その場合には、『医学的に保険診療上適切でない』のではなく、単に『保険診療上適切ではない』とすべきです。
この意味不明な制限の趣旨は、明らかに糖尿病単科の専門診療を前提としています。
ここでは関節リウマチの診療のための最も基本的なCRP検査の重要性は完全に無視あるいは見落とされています。
もっとも、当局はそのような事情はお構いなしであって、単に、『IRIとCRPの併施は、インスリン異常症等の場合を除き原則として算定できません。』の一点張りのようです。これでは糖尿病と関節リウマチを併せもつ患者さんの血液検査は、同月内では、どちらか一方のための検査しか実施できないということになります。
このケースは治療反応成績が良く糖尿病も関節リウマチも安定期に入ったため、3カ月に1回の血液検査で済む状態であるため、1回の血液検査で両方の検査を済ませてしまうことは本来合理的な判断であったはずです。
それぞれの病気のための検査を別の月に検査しなければならないとしたら、3カ月のうちに2回検査しなくてはならなくなります。
患者さんの自己負担の軽減のみならず国の医療費の削減に大きく貢献しているはずです。すでに医療機関としての報酬を犠牲にして奉仕しているにもかかわらず、更なる減点によって追い打ちを掛けようとするのは極めて不合理な決定ではないでしょうか。
当クリニックでの対策:制度が姑息的であるため、当方も以下のように対処をします。
高円寺南診療所の30年間、診療所は敢えて負担をして参りましたが、医療制度の改革のためには、そのシステムの不備について、多くの皆様と共有すべきことを怠ってきたことを反省したいと思います。
具体的には、糖尿病と関節リウマチの診療を同時に行っている場合、糖尿病専用の検査と関節リウマチ専用の検査に区分し、別の月に検査を実施します。さらに、糖尿病専用の検査項目からはCRPを削除しました。これで、再発防止は可能ということになります。
当クリニックの提言:今回は、糖尿病と関節リウマチが合併するケースですが、これはほんの氷山の一角に過ぎません。
私が研修医であった30年以上も前から、プライマリケアといって総合診療や総合医の必要性が厚生省(当時)からも推奨されてきました。私も及ばずながら、国策に従って努めてきました。
しかし、実際のところ、多くの誠実な保険医は、次々と国家の裏切りに見舞われ、総合診療や救急医療は大きな自己犠牲を強いられています。今回の診療報酬の改定で、救急医療は幾分再評価されたようですが、総合診療の実践はますます困難な現実に直面することになるでしょう。
超高齢社会を迎え、複数の疾患をもつ患者さんは、これまで以上に増えていきます。
その結果、当然の如く保険医療の手続きは加速度的に煩雑になり、しかも些末な規則に雁字搦めという状況に陥りやすくならざるを得ません。
このような状況下において、最もリスクが少ないと考えられるのは単科の、しかも専門性の高くない軽症者専用クリニックですが、その対極として、総合的で、しかも専門性の高い医療を提供しようと継続的で発展的な努力を惜しまないクリニックほど、保険診療においては様々なリスクを抱えているといえるでしょう。
百年河清を俟つ (ひゃくねんかせいをまつ)という言葉があります。出典は『春秋左氏伝』襄公八年です。黄土で濁っている黄河の濁流が、いつの日にか清流となるのを待っていようとすることから、どんなに待っても無駄なことのたとえです。私は平成元年に高円寺南診療所を開設して30年間は、あえて「河清を俟つ」ことにしました。しかし、世の中の濁流はひどくなるばかりで目も当てられません。そこで、令和元年から「杉並国際クリニック」として再スタートすることにしました。
自らが働きかけ、有益な情報を発信し、新しい時代に必要な医療のモデルを構築していきたいと考えています。
<保険診療の検査実施上の落とし穴・完>
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