4月16日(木)肝臓病診療のトレンドNo4


免疫抑制・化学療法によるB型肝炎の再活性化


膠原病や癌治療では、免疫抑制薬や生物学的製剤、抗がん薬等を使用する頻度が増えています。そのときに、HBs抗原陽性あるいはHBs抗原陰性例の一部において、B型肝炎ウイルス(HBV)再活性化によりB型肝炎が発症し、そのなかには、劇症肝炎となって死に至る症例があるため、注意が必要です。そこで、対象者をどのようにスクリーニングするのか、HBVキャリア及び既感染者であることが判明すればどのように扱えば良いのかについては、正しい知識が不可欠となります。

 

B型肝炎ウイルス(HBV)は全世界に蔓延しており、その感染者は約20億人、わが国でも1,000万人以上と推定されます。そのうち、HBs抗原陽性キャリアは10%程度、また既往感染例(HBs抗原陰性、HBc抗体ないしHBs抗体陽性)でも、肝細胞の核内には2本鎖閉鎖環状(ccc)DNAが残存しているので、遺伝子レベルではキャリアと差異はありません。

 

このB型既往感染例を2分類すると、急性肝炎等の一過性感染で臨床的に治癒した症例群とB型キャリアの寛解期でHBs抗原が陰性化した症例群に分けられます。いずれも血清HBV-DNAは未検出で、通常であれば肝炎を発症することはありません。

 

しかし、免疫抑制・化学療法を実施すると、HBV再活性化といってHBV-DNAが検出されるようになり、これが高値になるとde novo B型肝炎という臨床タイプの肝炎が発症します。このタイプの肝炎は重症化しやすく、予後が不良の医原病です。

 

「B型肝炎治療ガイドライン」(日本肝臓学会、2019年)では、HBs抗原陽性キャリアでは、治療前から核酸アナログを投与することを推奨しています。またB型既往感染例は免疫抑制・化学療法を実施する際に、血清HBV-DNAのモニタリングを1~3カ月の間隔で実施し、その量が20IU/mL以上になったら核酸アナログを投与することを推奨しています。

 

厚生労働省研究班の全国調査には、B型既往感染例のみならず、HBs抗原陽性キャリアで、免疫抑制・化学療法が誘因で、急性肝不全を発症した症例が登録されています。

 

従来、HBV再活性化は、リツキシマブを用いた化学療法をはじめとする血液領域でのリスクが高いとされてきました。しかし、2010年以降は、免疫抑制療法が誘因の症例が増加しています。

 

 

杉並国際クリニックからのコメント
  

杉並国際クリニックは、関節リウマチその他の膠原病の症例が多いため、化学療法や免疫抑制薬を使用する頻度が今後も微増傾向となることが予測されます。そのためHBV再活性化予防を徹底し、その際にはガイドラインに則って実施していかなくてはなりません。そこで、その手順のステップについて、より具体的に整理してみたいと思います。
  
  

Step1(スクリーニング):

全例でHBs抗原を検査する。
  

Step2(場合分けによる二次検査):

HBs抗原陽性例⇒HBV DNA定量検査

HBs抗原陰性例⇒HBc抗体、HBs抗体検査
  

Step3(予防的治療):

HBV DNA定量感度以上⇒核酸アナログ製剤投与
HBc抗体またはHBs抗体陽性例⇒HBV DNA定量感度以上⇒速やかに核酸アナログ製剤投与
  
ただし、HBc抗体またはHBs抗体陽性例⇒HBV DNA定量感度以下の場合でも、
DNA定量、肝機能検査を1~3カ月に1回程度モニタリングし、経過中にDNAが検出感度以上になった場合は、核酸アナログ投与を開始します。