COVID-19に対する鍼灸治療介入に関するガイドライン(第2版)速報No4.新型コロナ対策:世界最強の鍼灸マニュアル(発症患者用)

現論文タイトル:中国针灸学会 新型冠状病毒肺炎针灸干预的指导意见 (第二版)

 

The China Association of Acupuncture and Moxibustion issued Acupuncture Treatment Guidelines for COVID-19

 

 

日本語翻訳・解説:杉並国際クリニック 飯嶋正広

 

二、针灸干预的方法

 

二.鍼灸治療介入の方法
ガイドラインでは治療法を予防期(診断が未確定な疑い症例)、治療期(診断が確定し症状出現した症例)、回復期の三つに分けています。

 

中国の研究ではコロナウイルスの悪化予防、治療に対して漢方や鍼治療が有効であるとしています。そして、本文中には脈の状態や、舌の状態によって使用するツボを選択する方法が掲載されていますが、鍼灸師が新型コロナウイルス患者の舌診を行うことは感染のリスクを高め極めて危険であるため省略しました。杉並国際クリニックでは、<予防期>と<回復期>のみを治療の対象とします。<治療期>は、入院の上、厳格な感染防御対策を講じることが可能な場合に限って実施すべきであると考えます。

 

 

(二) 临床治疗期(确诊病例)的针灸干预

 

(二)<臨床治療期>(確定診断例)の鍼灸ケア

目标:

鼓动肺脾正气,保护脏器减少损伤,驱除疫邪,培
土生金,截断病势,舒缓情绪,增强战胜病邪信心。
 

目標:

肺・脾の生気を鼓舞し、臓器を保護し傷害を減じて、病原体による悪影響を除去し、脾土を補強して肺金を生かし、疾病の勢いをくい止め、気分を落ち着かせて病を克服できるという自信を高める治療を施します。

 

主穴:

(1)合谷、太冲、天突、尺泽、孔最、足三里、三阴交;

 

(2)大杼、风门、肺俞、心俞、膈俞;

 

(3)中府、膻中;气海、关元、中脘;

 

主穴

(1)合谷(LI4)、太衝(LR3)、天突(CV22)、尺沢(LU5)、孔最(LU6)、足三里(ST36)、三陰交(SP6)

 

(2)大杼(BL11)、風門(BL12)、肺兪(BL13)、心兪 (BL15)、膈兪(BL17)

 

(3)中府(LU1)、膻中(CV17)、気海(CV6)、関元(CV4)、中脘( CV12)

 

 

轻型、普通型每次在(1)、(2)组主穴中各选2-3穴;
重型患者在(3)组主穴中选2-3穴。

 

軽〜中程度の症例であれば(1)群、(2)群から2〜3個のツボを組み合わせます。

 

重症の場合は(3)群から、さらに2〜3か所のツボを加えます。

 

 

配穴:

发热不退加大椎、曲池;或十宣、耳尖放血;

胸闷气短加内关、列缺;或巨阙、期门、照海;

咳嗽咯痰加列缺、丰隆、定喘;

腹泻便溏加天枢、上巨虚;

兼咳吐黄痰、粘痰、便秘,加天突、支沟、天枢、丰隆;

兼低热或身热不扬,或未热,呕恶,便溏,舌质淡或淡红,苔白或白腻,加肺俞、天枢、腹结、内关。

 

以下のツボは付帯的症状によって追加します。

・熱が続いている場合:

大椎(GV14)、曲池(LI11);

10指尖や耳尖の刺絡

 

・胸の圧迫感、息切れ:

内関(PC6)、列欠(LU7);

巨闕(LU7)、期門(LR14)、照海(KI6);

 

 

・湿性咳嗽・喀痰排出:

列欠(LU7)、豊隆(ST40)、定喘(EX-B1)

 

・下痢・軟便: 天枢、上巨虚

 

・黄色/粘稠性喀痰、便秘:

天突(CV22)、支沟(TE6)、天枢(ST25)、豊隆(ST40)

 

・微熱、体熱感、嘔吐、軟便:舌質白/淡紅、舌苔厚;
肺兪(BL13)、天枢(ST25)、腹結(SP14)、内関(PC6)

 

 

 

杉並国際クリニックでの鍼灸活用法

中国针灸学会の鍼灸治療マニュアルは確かに良くできていますが、しかし、残念なのはウイルス感染症の活動期にまで、二次感染防御のための特別な注意を喚起せぬままに積極的に鍼灸療法を推進しようとする方針です。

 

百歩譲って、これが許されるのは、西洋現代医学的な治療が実施できない環境もしくは、有効な手立てがない場合などに限られると思います。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、現在までのところ確実な治療体系は確立されていないため、鍼灸療法を最大限に有効に活用していくことは許されてよい例外の一つかもしれません。

 

そこで、原文を再掲し、治療目標について、少し解説を加えてみたいと思います。

 

説明のために、対応する番号と下線を施しました。

 

目标:

① 鼓动肺脾正气,保护脏器减少损伤,驱除疫邪,② 培土生金,
截断病势、③ 舒缓情绪, 增强战胜病邪信心。

 

私は、以下のように訳出しました。

目標:

① 肺・脾の生気を鼓舞し、臓器を保護し傷害を減じて、病原体による悪影響を除去し、② 脾土を補強して肺金を生かし、疾病の勢いをくい止め、③ 気分を落ち着かせて病を克服できるという自信を高める治療を施します。

 

① 肺・脾というのは中医学での五蔵(註:臓でなく蔵と表記します)のうちの肺蔵・脾蔵です。肺蔵は肺に限らず呼吸器系統全般(鼻や皮膚も含まれます)、脾蔵はど膵臓をはじめとする消化器系統全般を指すものと理解すればよいでしょう。

 

② 中文テキストで「培土生金」とありますが、これはたとえ中国人であっても、中医学の素養が無ければ理解できないと思います。これは、中医学の「五行説」という理論に基づく森羅万象の事象の分類リストを理解していると内容を理解することができます。その一つが、内蔵の五分類(肝・心・脾・肺・腎)ですが、これらは、より基本的な自然の五要素(木・火・土・金・水)に対応しているのです。      

 

ここで脾蔵は土であり、肺蔵は金に相当します。そこで、「培土生金」とは「培土」が原因となって「生金」という結果を生じることを意味します。とくに「土生金」とは土を掘ることによって、土の中にある金属を得ることができる、という意味です。ここで「培土」とは脾臓の働きを培うことであり、「生金」とは肺蔵の働きを生き返らせるということになります。つまり、新型コロナウイルスによって痛めつけられた肺を生き返らせるためには、脾臓の働き、すなわち、消化管の活動性を高めるという治療方法をシンプルに説明していることになります。

 

現代医学でも、消化器系が免疫の首座にあり、消化器系等が健全な働きを維持することで私たちの免疫抵抗力が維持され、感染防御から、感染後の抗体産生あるいは炎症の鎮静などに密接に関与していることが明らかになっています。中医学の新型コロナ感染症治療理論は、ウイルス性肺炎という症状改善のために、直接的に肺に働きかけるのではなく、肺のための最も重要な助っ人である脾、すなわち消化器系等の働きを強化することによって本来の自然な治癒のメカニズムの強化を目指す戦略であるということになります。

 

③ 中文テキストで「舒缓情绪, 增强战胜病邪信心」にも深い意味があります。

「舒缓情绪」とは気分を落ち着かせることですが、「舒缓」とは不安や緊張から解放することを意味します。つまり、ストレス状態から解放することになります。未曽有の致死的な感染症に罹患してしまうと誰でも不安・恐怖・緊張・不信など負の情緒や感情に支配されがちになります。そうなると、食欲が低下したり、消化吸収が損なわれたりして、短期間のうちに免疫力が低下してしまいます。幸いなことに、漢方生薬は、免疫力を高め、体調だけでなく気分も整えることができます。

 

心と体の健康管理を同時に一体的に行なう心療内科医には、好んで漢方や鍼灸を処方する医師が少なくないのも道理なのです。そして「增强战胜病邪信心」とは、まさに経文のような文言ですが、「战胜病邪」とは「病気を克服すること」であり、それができるという「信心」を「増強する」ことなのです。日本の優秀な鍼灸師も、自分たちの治療の技をもっぱら痛み止めのみに用いているに過ぎないとしたら、いかにも勿体ない話です。鍼灸療法は心身医学療法としてもすぐれた治療理論と技術をもっているのです。