臓器連関による肝臓での代謝調節
わたしたちの体内の緒臓器・組織の代謝は、バラバラに行なわれているわけではありません。
個体レベルでの恒常性を保つために諸臓器が連携して調節されています。
特に『肝』はその中心ともいうべき臓器とされるようになってきました。しかし、実はこうした理解は古来からあり、特に中国伝統医学(中医学)あるいは漢方の理論では五臓六腑といって、とくに五行説などの理論は身体の生理学・病理学に対して深い洞察力と臨床的妥当性を発揮してきました。
肝臓は、門脈からの血流を直接受けるとともに、グリコーゲンや脂質を蓄積することができる臓器です。
そこで、肝臓は短期的および長期的な栄養状態の情報の発信源として重要な位置にあります。
実際に、肝臓からの神経シグナルによって、エネルギー消費や熱代謝、脂質代謝、膵β細胞量が調節されていることが明らかになっています。しかし、飽食の現代にあっては、環境の変化に応じて恒常性を守るはずのせっかくのシステムが往々にして破綻し、臓器関連システムの機能不全のみならず、その慢性的な過活動が肥満関連の病態に繋がることが想定されています。
そして、それが血圧上昇・高中性脂肪血症・高インスリン血症といったメタボリックシンドロームの緒病態の発症・進展に関わるとも考えられます。
肝臓は1200gにも達する消化器系最大の臓器である割には、その支配神経線維は少なく、現代西洋医学では、むしろ脇役的存在と思われがちでした。
ところが最近になって肝臓の神経支配は単に肝臓代謝を調節するのみならず、視床下部へフィードバックされ、さらにそこから内分泌系と神経系を介して広く他の植物性器官へ信号を送る一大サ−キットを作り上げて全身のホメオスターシス(恒常性)を維持していることが知られるようになりました。
肝臓は自律神経(植物神経)系によって制御されています。肝臓支配の自律神経系は自律神経の中枢である視床下部を介して内分泌系によるのみならず、求心性・遠心性の神経ネットワークによって肝臓—他臓器相関に重要な役割を演じていることが明らかにされてきました。
実は中医学では、すでに紀元前から『肝』は五臓六腑(ごぞうろっぷ)のなかでも精神的なストレスの悪影響を受けやすい臓であるという認識をもっていました。そして、陰陽論と共に中医学理論の基礎をなす五行論では肝臓—他臓器相関についての理論を確立していました。これによって肝にトラブルが起きると他の臓腑にも悪影響が及ぶ病態をわかりやすく説明することもできます。
特に肝が『調に陥ることで気の巡りが悪くなると、その影響を最も受けてしまうのが脾と胃です。脾と胃は消化器全般のはたらきを担っている臓腑です。たとえば、木(『肝』肝臓に相当)は土(『脾』膵臓に相当)をコントロールするような作用を及ぼすとされます。
中医学理論の五行説の相生・相剋図
他方、現代医学においても中枢神経系は、末梢臓器からの代謝情報を逐一把握し、個体としての恒常性を維持するために各臓器の代謝を制御しているものと考えるようになってきました。
特に迷走神経に関しては、膵島近傍に副交感神経節の多くが存在し、同節からの膵島内に二次ニューロンが投射されています。このように、自律神経系が組織に対してピンポイントにシグナルを伝える解剖学的機序も解明されつつあります。
この臓器間の連携機構として、ホルモン等の液性因子を介するものに加え、神経系による情報のやり取りの解明が進み、2型糖尿病は肥満関連疾患等の発症機序としても注目を集めているところです。また神経シグナルは、肥満時の膵β細胞増殖や傷害後の肝再生にも関わることが明かとなりました。
杉並国際クリニックからのコメント
中国では、中国伝統医学(中医学)と現代医学(西洋医学)とが強調して医学と医療を展開しています。それは「中西医結合」として知られています。そして中国でも韓国でも、医師はいずれか一方に属するものとして一人で両者を兼ねることはできません。
日本の医師免許は、すべて現代医学(西洋医学)の医師資格ですが、同時に漢方(中医学)による診療を行うことができます。漢方処方だけでなく鍼灸治療もすることができます。ですから、私が日本の医師となって良かったと思える数少ないポイントの一つは、東西の医学、あるいは伝統医療と現代医療を統合して、一人一人の患者さんのために、フットワーク軽くきめの細かい医療を安価で効率よく提供できることにあります。
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