3月27日(金) 脳卒中の慢性期治療についてNo5

抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)治療による薬剤起因性障害

 

内科診療においては、一般外来においても、専門外来においても、さまざまな薬剤を使用します。

一人の主治医が患者の全身管理を担当している場合は、まだ把握しやすいのですが、他の医療機関からも様々な薬剤を投与されている患者が初診の予約を希望されています。

そのときに、薬剤起因性障害発生予防のために事前にそれらの薬剤を把握しておくべき時代になりつつあると感じています。

 

医師や薬剤師ばかりに委ねることには限界があり、患者自身も、処方の追加や変更のたびごとに、それらの薬剤の副作用や、相互作用を理解しておかなければならなくなってきたのではないかと考えます。

 

超高齢化社会を迎え、投与される機会が増えている薬剤の一つに抗血栓薬があります。

近年、抗血小板薬、抗凝固薬の種類も増え、それらには種々の異なる特徴があり、使い分けや注意点が複雑です。

それらの薬剤が様々な臓器に与える影響や合併症も一様ではありません。こうした薬剤起因性障害についてリスクの少なくない

 

経口抗凝固薬は、心房細動患者の心原性脳塞栓症の予防に高い有効性がありますが、その反面、出血性の合併症を来すことがありまあす。

出血自体が致死的でなくとも、さまざまな有害事象を惹起し、予後不良に繋がります。そのため出血をできるだけ予防することと、出血時に迅速かつ的確に対処できなければなりません。

 

経口抗凝固薬は、従来から用いられてきたビタミンK拮抗薬(ワルファリン)に対して、2011年以降から、特に頭蓋内出血の頻度が少ない直接経口凝固薬(DOAC)が使用されるようになり、日常診療にも普及してきました。

しかし、DOACを処方されることが多い高齢者では概して多疾患併存例が多いため、必然的にポリファーマシー(多剤投与)となるケースの頻度が高くなります。

このポリファーマシーでDOACによる出血合併症が飛躍的に増加することが報告されています。

たとえば、抗血栓療法中に消化管出血を来すことにより、心血管疾患のみならず、死亡のリスクが増加することや、逆に、抗血栓薬の中止により、血栓症のリスクが有意に増加することが報告されています。

 

また、抗血栓薬起因性小腸粘膜傷害については、貧血や低アルブミン血症を来し、抗凝固薬併用による出血やDAPTによる粘膜傷害の増悪に注意が必要です。

そのため、可能な限りポリファーマシーを軽減・回避することが重要になってきます。

とりわけ、抗血栓薬による消化管出血は、単剤より抗血栓薬2剤併用療法、非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)の併用等によりリスクが増加します。

 

そこでDOAC使用中に生命を脅かす出血、緊急を要する手術や侵襲的処置時に使用できる特異的な拮抗薬(DOACの中和剤)の開発が進んでいます。

 

またトロンビン阻害薬については、特異的モノクローナル抗体製剤が使用可能となっています。

 

以下が、脳卒中治療薬の有害作用の一覧です。

・血栓溶解剤t-PA(アルテプラーゼ®)は4~5%に症候性脳出血、2~5%に口唇・舌の血管浮腫が報告されています。

 

・サリチル酸系NSAIDs(アスピリン®)、抗凝固薬ヘパリン(ヘパリンナトリウム®):
出血性合併症(消化管出血、脳出血)

⇒抗血栓薬起因性消化管傷害

 

・浸透圧利尿薬・濃グリセリン溶液(グリセオール®):腎不全、高ナトリウム血症

 

・脳梗塞治療薬(脳保護薬)エダラボン(ラジカット®):腎障害

 

・抗血小板薬(P2Y₁₂阻害薬)チクロピジン(パナルジン®):好中球減少、肝障害、
血栓性血小板減少性紫斑病

 

・抗血小板薬(P2Y₁₂阻害薬)クロピドグレル(プラビックス®)では、副作用が半減

 

・抗血小板薬シロスタゾール(プレタール®):頭痛、頻脈

 

 

杉並国際クリニックでの臨床応用
直接経口凝固薬(DOAC)は、血中薬物濃度のモニタリングの必要がないため使いやすい、という触れ込みが専門家からも流されていますが無責任なメッセージであり大いに疑問です。

 

利便性を追求する現代社会のトレンドが想定外のリスクの原因となることを肝に銘じておくべきだと考えます。

 

モニタリングの必要がないのではなく、モニタリングの指標がないことの危険性を明確に示すべきです。

 

P糖蛋白阻害薬やCYP3A4阻害薬との薬剤阻害作用や腎機能障害により作用が増強し過ぎて出血のリスクを高めるために注意が必要です。

 

消化性潰瘍合併症の頻度が少ないために整形外科やリウマチ科で頻用されている消炎鎮痛剤として使用される頻度の高い薬剤にNSAIDAs製剤があります。

NSAIDsの中でも消化管障害が少ないとされてきたCOX-2阻害薬のセレコキシブ(セレコックス®)でさえ、非選択的NASAIDsと同様に低用量アスピリン(LDA)の併用により、出血リスクが増強します。

ですから、NSAIDs併用のリスクについて、抗血栓薬内服患者に対して指導する必要があると考えています。

 

抗血栓薬起因性小腸粘膜傷害の診断にはカプセル内視鏡検査が有用のようですが、その結果、粘膜防禦製剤や乳酸菌製剤が有用なようです。

また、最近、ミソプロストール(サイトテック®)が有効であることが確認されました。

この薬は、プロスタグランジン製剤であるため、禁忌とされるプロスタグランジン過敏症や妊婦でなければ、NSAIDsの長期投与にみられる薬剤起因性消化性潰瘍(胃潰瘍および十二指腸潰瘍)ですでに用いられています。