3月19日(木) 抗悪性腫瘍薬投与中に注意すべき相互作用No4

リウマチ科:痛風、関節リウマチ治療薬と抗癌剤

 

専門でありながら、つくづく厄介だと思う病気の代表は関節リウマチです。

 

病気そのものの説明が難しく、患者さんに理解していただくことが容易でないだけでなく、使用する薬剤の扱い方も一筋縄ではいかないからです。

 

関節リウマチをはじめとする膠原病の治療薬は、抗癌剤や、

代謝拮抗薬、核酸や蛋白合成過程の代謝物と類似構造をもつ化合物で、核酸合成を阻害するなどによって癌細胞を傷害します。

 

 

代謝拮抗薬(プリン代謝拮抗薬)

・メルカプトプリン(6-MP):急性白血病、慢性骨髄性白血病

< 尿酸生成抑制薬(アロプリノール、フェブキソスタット)との併用について >
尿酸生成抑制薬はキサンチンオキシダーゼという代謝酵素の働きを阻害します。そしてキサンチンオキシダーゼはメルカプトプリンの代謝酵素であるため、併用するとメルカプトプリンの血中濃度が上昇することによって有害反応が生じやすくなります。

 

・アロプリノール(ザイロリック®)は痛風、高尿酸血症を伴う高血圧症における高尿酸血症の是正に用いられる治療薬です。この薬を併用する場合は、6-MPの処方量を通常量の1/3~1/4に減量します。

 

・フェブキソスタット(フェブリック®)も痛風、高尿酸血症の治療薬ですが、癌化学療法に伴う高尿酸血症にも用いられるので特に注意しなめればなりません。メルカプトプリンやアザチオプリンを使用している場合には骨髄抑制を生じるため併用禁止とされています。

 

・アザチオプリン(イムラン®、アザニン®)は免疫抑制剤〔代謝拮抗薬(プリン拮抗薬)〕であり、臨床の用途は以下のように広範囲わたっています。

 

❶ 移植時拒絶反応抑制(ⓐ腎移植、ⓑ肝・心・肺移植)

 

❷ (ステロイド依存性の)クローン病の寛解導入および寛解維持、
   ならびに(ステロイド依存性の)潰瘍性大腸炎の寛解維持

 

❸ (治療抵抗性の)リウマチ性疾患:
  全身性血管炎(顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、結節性多発血管炎性肉芽腫症、高安動脈炎等)
  全身性エリテマトーデス、多発性筋炎、皮膚筋炎、強皮症、混合性結合組織病、
  難治性リウマチ性疾患

 

❹ 自己免疫性肝炎

アザチオプリンは免疫抑制剤であるため、生ワクチンを接種すると発症してしまう惧があるため、各種の生ワクチンによる予防接種は禁忌とされます。

 

 

代謝拮抗薬(葉酸代謝拮抗薬)

・メトトレキサート(MTX):急性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、絨毛性疾患、乳癌、骨髄腫、悪性リンパ腫、関節リウマチ
< NSAIDs(ロキソプロフェン、ジクロフェナク)との併用について>
NSAIDsの腎プロスタグランジン生成阻害作用により、腎血流・糸球体濾過速度が低下し、メトトレキサートの腎排泄量低下を起こします。メトトレキサートを大量投与する場合は併用を避けますが、単独でも様々な副作用がみられます。

 

まず、ロキソプロフェン(ロキソニン®)は、以下の疾病に用いられます。

 

❶ 関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、肩関節周囲炎、頚肩腕症候群、歯痛、手術後・外傷後、抜歯後の消炎・鎮痛

 

❷ 急性上気道炎の解熱・鎮痛
消化性潰瘍、重篤な血液・肝・腎障害、アスピリン喘息、妊婦への投与は禁忌とされます。

 

次いで、ジクロフェナク(ボルタレン®)は、以下の疾病に用いられます。

❶ 関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、頚肩腕症候群、歯痛、手術後・外傷後、抜歯後の消炎・鎮痛以外に、変形性脊椎症、腱鞘炎、骨盤内炎症、前眼部炎症、神経痛、後陣痛、月経困難症、膀胱炎

 

❷ 急性上気道炎の解熱・鎮痛
消化性潰瘍、重篤な血液異常、肝・腎障害、高血圧症、心機能不全、アスピリン喘息、妊婦、インフルエンザ臨床経過中の脳炎・脳症
降圧薬として用いられるK保持性利尿薬のトリアムテレン(トリテレン®)との併用で急性腎不全の報告があり、併用禁忌です。トリアムテレン(トリテレン®)は、高血圧症(本態性、腎性など)の他、心性浮腫(うっ血性心不全)、腎性・肝性浮腫の治療に用いられます。無尿、急性腎障害、高カリウム血症、腎結石では服用禁忌とされます。

 

 

杉並国際クリニックの視点から

杉並国際クリニックでは、専門診療科の一つにリウマチ科を標榜し、関節リウマチに対して日常的に免疫抑制薬〔代謝拮抗薬(葉酸代謝拮抗薬)〕である抗リウマチ薬メトトレキサートを処方しています。

 

この薬が関節リウマチの主薬が抗癌剤の一つとしても分類されていることを知りショックを覚える方は少なくありません。そして、関節リウマチの治療のために高頻度に使用される薬剤相互の有害作用の出現の可能性については、患者さん自身も常に注意を払っていただいておく必要があります。

 

また、関節リウマチよりも高頻度で診療している痛風の治療薬も抗癌剤との相互作用に配慮しなければならない薬剤があります。

痛風やその基礎疾患である高尿酸血症の治療薬として、原因のメカニズムにかかわらず尿酸生成抑制薬を第一選択として用いている医師が多いようです。

 

杉並国際クリニックの方針としては、日本人に圧倒的に多い尿酸排泄低下型の病態に対しては、尿酸排泄低下薬を処方しています。

関節リウマチは女性に多く、痛風は男性に多いため、従来であれば、両方の治療を並行して行うことは少なかったのですが、最近では少しずつ増えつつあります。そして、何よりも代表的な消炎鎮痛剤の2剤は単独でも様々な副反応を招くことも心にとめておかなければなりません。

 

急性上気道炎の治療目的で、解熱鎮痛のため目的で処方するときも、安易にサリチル酸系であるNSAIDsを処方せず、アセトアミノフェンを処方するようにしています。

ただし、アセトアミノフェン(カロナール®)だからといって決して安全ではありません。

 

市販の感冒薬を、自己判断で過量に内服した後に受診した患者に、事情を知らずにこの薬剤を処方すると重篤な肝障害を来す可能性があります。

また、NSAIDs薬と同様に、消化性潰瘍、重篤な血液・肝・腎障害、重篤な心機能不全、アスピリン喘息には投与禁止です。

ですから、データや情報不足の初診の急性上気道炎その他の急性熱性疾患の患者に消炎解熱剤を処方するのはとてもリスクが大きいとさえいえるでしょう。

 

<明日に続く>