3月18日(水) 抗悪性腫瘍薬投与中に注意すべき相互作用No.3

消化器内科:消化性潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍)治療薬と抗癌剤

 

胃潰瘍や十二指腸潰瘍という病気を知らない方はいないでしょう。それどころか経験者の方も少なくないはずです。消化性潰瘍であると思っていたら癌になっていたという方、消化管以外の癌が見つかって、抗癌治療を始めたといった話題は、もはや日常茶飯事です。

 

小分子・分子標的治療薬

分子標的治療薬の副作用の特徴として下痢が挙げられます。そして、心毒性、間質性肺炎、腸管穿孔、動静脈血栓症、出血などが生じ、致命的になることもあるため、初期症状を捉えて適切に対応する態勢をとる必要があります。

 

最近の分子標的治療薬では、上記の諸症状に加え、皮膚症状、創傷治癒遅延など、従来とは異なる種類の有害作用(副作用)が出現するので、抗悪性腫瘍薬による有害作用の特徴を把握して対応することが重要とされます。

 

 

EGFR阻害薬 

事前の遺伝子検査によりEGFR遺伝子変異をもつ肺癌で効果が高いです。

また、食事の影響を受けやすいので、服用時間の指示を守ることが必要となります。

いずれのEGFR阻害薬についても、単独の使用でも急性肺障害・間質性肺炎の併発に注意を要します。

そして、発熱、呼吸苦などの症状が観察された際には、常に間質性肺炎の存在を疑って検査を行うことが望ましいとされます。しかし、早期発見は難しいのが現実です。

 

 

ゲフィニチブ:(EGFR遺伝子変異陽性の手術不能または再発)小細胞癌
 

食後投与が望ましいです。pH6以上では薬剤がほとんど溶けないため効果が低下します。
そのため、pHが低下する(胃内が酸性環境となる)食後に内服することが勧められます。とくに日本人の高齢者は無酸症が多いため、空腹時の服用では薬効が低下すると考えられます。

 

エルロチニブ:(切除不能な再発・進行性で癌化学療法施行後に増悪した)非小細胞肺癌、(EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な再発・進行性で、癌化学療法未治療の)非小細胞癌、(治癒切除不能な)膵癌
 

高脂肪食、高カロリー食後は空腹時に比べて、AUC(生体内に取り込まれた薬物量の指標の一つ)がほぼ2倍増加するため、副作用が増強しやすいとされます。そのため、食事の一時間以上前か、食後2時間以降の空腹時に服用します。

 

 

BCR/ABL阻害薬

ダサニチブ:慢性骨髄性白血病、(再発性または難治性のフィラデルフィア染色体陽性の)急性リンパ性白血病

 

マルチキナーゼ抑制薬

パゾパニブ:悪性軟部腫瘍、(根治切除不能または転移性の)腎細胞癌
制酸薬(ランソプラゾール、オメプラゾール、エソメプラゾール)
この併用により臨床効果への明確な影響については報告されていないので、リスクベネフィットを考慮して併用を検討することになります。
胃内のpHが上昇した条件下(胃の酸性度が低下した状態)では、分子標的治療薬の吸収が低下し、効果が減弱する可能性が考えられます。

 

 

杉並国際クリニックの視点から

杉並国際クリニックでは、上記の抗癌薬を処方することはありませんが、上記の制酸剤を日常的に処方しています。

ですから日常的に頻用している制酸剤との相互作用に注意しています。これらの薬剤、すなわちオメプラゾール(オメプラゾン®)、ランソプラゾール(タケプロン®)、エソメプラゾール(ネキシウム®)はプロトンポンプ阻害薬(PPI)と呼ばれる一群で攻撃因子抑制薬に分類されます。

その特徴は、強い酸分泌抑制薬であり、ピロリ菌除菌の補助や逆流性食道炎の第一選択薬です。疾患によって保険処方機関に制限があります。

 

適応は広範にわたり応用範囲が広いです。具体的には、ピロリ菌除菌の補助や逆流性食道炎の他に、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、非びらん性胃食道逆流症、ゾリンジャー・エリソン症候群、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃癌に対する胃内視鏡的治療後胃などで処方します。

 

特に後2者は、非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)投与時や低用量アスピリン投与時の胃潰瘍または十二指腸潰瘍の再発抑制の目的でも処方可能です。

 

杉並国際クリニックは、専門診療科の一つにリウマチ科を標榜していますので、関節リウマチ、変形性関節症、痛風などの治療のため非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)の処方の需要が高いです。

 

また、低用量アスピリンの使用の目的は、解熱・鎮痛ではなく、血栓形成を予防する目的で使用しています。

それは狭心症(慢性安定狭心症、不安定狭心症)、心筋梗塞、虚血性脳血管障害(一過性脳虚血発作、脳梗塞)における血栓・塞栓形成抑制、また最近では冠動脈バイパス手術(CABG)あるいは経皮冠動脈形成術(PTCA)を施行する人も増え、それらの術後における血栓・塞栓形成抑制にも必要な薬剤として処方しています。

 

プロトンポンプ阻害薬(PPI)は安全な薬剤ですが、単独投与でも副作用として頭痛、めまい、検査値の異常としては肝機能(AST,ALT)やガストリンを上昇させることがあります。

長期投与では大腿骨頸部骨折、市中肺炎、クロストリジウム・ディフィシル感染症なども報告されています。またPPIを処方するにあたっては、抗癌剤との相互作用だけでなく、抗ウイルス剤との併用禁忌もあり、注意を要します。

エイズ(HIV-1)感染症治療薬のリルピビリン(エジュラント®)、アタザナビル(レイアタッツ®)が併用禁忌となります。

 

日常診療で多い消化性潰瘍(胃潰瘍、十二指腸潰瘍)では、生活習慣改善が重要であり、過度のストレスや暴飲暴食を避けることからはじめたいものです。

逆流性食道炎・胃食道逆流症でも、単に薬物療法に委ねるだけではなく、運動や食事療法など生活習慣を改善することを見直すべきでしょう。水氣道®は杉並国際クリニックが全世界に向けて発信している理想的な運動療法です。

 

水氣道®を日常生活の習慣に取り入れることで、上記の様々な病気の治療や予防、再発に役立つだけでなく、薬の削減や副作用の減少、早期発見・早期対処などさまざまなメリットがあることが確認されています。

 

<明日に続く>