考察:
肺MAC症では、1年以上排菌がなくなった後の再排菌は、再発ではなく"再感染"であることが多いという報告(Chest 2014;146:276-282)があるためか、専門医の間では「2回目のMACは再感染」という見解が浸透しつつある。
肺MAC症の治療を受けた患者466例のアウトカムを調べた報告(J Infect Chemother 2017;23:293-300)によれば、微生物学的再発率は排菌陰性化から15カ月未満の治療を受けた患者に高かったことが示されている。
そして、線維空洞型や気管支拡張を有する肺MAC症は一般的に予後不良である(Am J Respir Crit Care Med 2012; 185: 575-583、Eur Respir J 2020;055:1900798)。これは肺の構造改変が進むほど、正常に換気できる肺胞が減り、続発性の感染症が起こりやすいためである。
これまで標準治療とされていた「喀痰培養陰性化後12カ月」という通説に疑問を投げかける結果が得られた。治療期間は「喀痰培養陰性化後15カ月以上」という基準が推奨されることになるでしょう。
主治医が気を付けなければならないのは、
① エタンブトールの視神経症のリスク
② クラリスロマイシン単独治療の回避
③ 再発例においては、初発のときの遺伝子型と異なることがあり、抗菌剤の薬剤感受性も異なる可能性を念頭に置く
―の3点だと思います。
エタンブトールは内服が長期になると、視神経症のリスクが増えます。
発症時期は、中央値で278日とかなり先にあるため(Int J Tuberc Lung Dis 2018;22:1505-1510)、この副作用を処方医は常に念頭におき、定期的な眼科受診が必須であることを患者に伝えるべきでしょう。
日本のあるデータでは、肺MAC症に対するクラリスロマイシン単独治療の頻度は9.2%とされています(Pharmacoepidemiol Drug Saf 2019年12月25日オンライン版)。少量マクロライド療法などを長期投与する場合は、初回治療の時点ですでにMACがクラリスロマイシン耐性になっていることもあるので、MACの感受性は治療開始時に必ず確認しておく必要があります。
なお、非空洞結節気管支拡張型の肺MAC症患者の再発例のうち、75%が再感染とされています。初回に検出したMACと再発時に検出したMACが異なる遺伝子型であることが示されています。
<完>
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