今週は、昨年(2019年)暮れから流行している中国発の新型コロナウイルスについての話題を採りあげます。
2002~03年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因ウイルス同定は早かったので、医学の進歩に驚きましたが、今回はさらに早い時期に同定されたことは幸いです。
病原体の同定、疫学調査、数理予測モデル、ワクチンや治療薬の開発、現場では専門病院の建設と、公衆衛生対策面、学術・臨床面での急ピッチの進展がみられます。
2020年の年明けとともに、一般向けにも中国の武漢市で原因不明の肺炎が多発しているとのニュースが飛び込んできました。1月9日の中国国内の報道では、今回の肺炎の原因は新型コロナウイルスであり、15人の患者からこのウイルスが分離されたとしていました。
その後、59人の患者が報告され、その数日後に死亡者が発生しました。
そして世界保健機構(WHO)は15日の記者会見で、ようやく新型コロナウイルスを確認したことを明らかにしました。
当初、感染の広がりと重症度などの詳細は不明でした。感染症の拡大が懸念されましたがヒト‐ヒト感染の可能性は低く見積もられたため、その後の発表ではその可能性は低いものと、一時的には考えられていました。
しかし、その後、中国の周辺諸国でも患者の発生が次々と報告され、危険性が低いとする推定が誤りであったことが判明しました。
Lancet /Chan論文:
ヒト・ヒト感染の成立がほぼ明確にされました
Chan JF-W, Yuan S, Kok K-H, To KK-W, Chu H, Yang J, et al. A familial cluster of pneumonia associated with the 2019 novel coronavirus indicating person-to-person transmission: a study of a family cluster. Lancet [Internet]. 2020 Jan 24 [cited 2020 Jan 26];0(0).
これは武漢旅行から帰ってきた広東、深圳の5人の患者と旅行に行かなかったその家族の詳細で、ヒト・ヒト感染の存在を明示するものです。
2019年12月29日から翌年1月4日まで旅行していた6人のうち、5人から2019-nCoV(コロナウイルス)が検出されました。
5人とも武漢の海鮮市場との接触はありませんでした。残る1人がウイルスとの接触が疑われ、同様の臨床像があったため、同様の感染があったものと推測されています。
旅行者たちは武漢では親戚と頻繁にコンタクトがあったが、その親戚も発症し入院していました。
発熱、気道症状、下痢などが見られ、発症6〜10日で病院を受診しました。患者の多くが発熱+しました。白血球はほとんど正常で、炎症の程度の指標となる反応性蛋白(CRP)は多くが軽度上昇でした。
CTでは、すりガラス様陰影の多発する所見が認められました。下痢便からはウイルスは検出されませんでした。家族には無症状の10歳小児がいたが、レントゲンではすりガラス様陰影が認められました。
飯嶋註:
すりガラス様陰影の所見は、間質性肺炎などでみられる所見です。間質性肺炎は見落とされやすい肺炎であり、重症な割には症状が軽い場合が多いのが特徴です。
ヒト・ヒト感染がほぼ明確に示された本報告は、PCRの偽陰性の可能性や不顕性感染の可能性、そして5日前後の潜伏期間、下痢はあっても下痢便ではPCR陽性にはならないといった、日常臨床上にも有用な情報が掲載されていて優れた情報源でありました。
<明日に続く>