2月14日 非アルコール性脂肪性肝疾患(その5)

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD/NASH)の治療の実際

 

NAFLD/NASHの治療は、内臓肥満を是正するための運動及び食事等の改善が第一であることは、多くの医師が認識しています。

 

しかし、残念なことに、こうした地道な健康管理を遂行・持続するように指導しても、そうした患者さんにはあまり感謝されることもなく、実行に至らず困難に直面するというシナリオが相場です。

 

そうした現実もあってか、我々医師は、ややともすれば、早期にお薬を処方するしかないと考えがちになるようです。

 

とても残念なことですが、生活リズムの是正をはじめ運動療法や栄養食事療法に熱心な医師は、とても少なく、自らが患者と共に運動療法に励むような医師は、特別天然記念物扱いです。

 

杉並国際クリニックは、水氣道®という運動療法の実践を20年間続けていますが、肥満者の体重を10%以上減量させることは無理なく達成可能です。

 

ガイドラインでは7%減量の達成を唱えていますから、水氣道®を始めていただけるのでしたら、有力な治療手段となります。


そうは言っても、現在NASHに対する直接的な薬物療法は確立していないことが多くの患者さんやその患者さんのサポートを担当するほとんどの医師にとっての大問題になっています。

 

そのため、NASHの背景にあるメタボリックシンドロームに合わせた治療方略が、少し古きなった診療ガイドライン「NAFLD/NASH診療ガイドライン2014」(日本消化器病学会、2014年)で推奨されています。幸い今年の4月に改訂版が公表される予定です。

 

NASHに対する薬物療法は、種々試みられていますが、長期予後等に関するエビデンスには乏しく、評価困難です。日常臨床では、NASHの背景にあるメタボリックシンドロームの基礎疾患である糖尿病、脂質異常症ならびに高血圧症等に準じた薬物療法が考慮されています。

 

杉並国際クリニックでは、これらの基礎疾患に対応する個別データに基づく、以下の治療計画シートを作成しています。糖尿病早期発見および治療管理基準(杉並国際クリニック版)、動脈硬化症予防・治療管理基準(杉並国際クリニック版)、高血圧治療管理基準(日本高血圧学会:高血圧治療ガイドライン2014、改変)は、一般にも公開することにしました。

 

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の大多数は肝生検を施行しないのでNASHという確定診断が得られませんが、その場合はNASHの可能性を検討して治療します。

 

基礎疾患の有無にかかわらずNASHは、抗酸化剤としてビタミンEが選択肢となりますが、保険適応になっていません。

 

そして高血圧症が基礎疾患の場合はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬、高コレステロール血症が基礎疾患の場合はスタチン、インスリン抵抗性の2型糖尿病にはピオグリタゾンを追加投与することがあります。

 

 

もっとも、基礎疾患のあるNASHへの治療を検討すべき基準としては、

 

(1) BMI≧37(肥満度Ⅲの基準をも超えた肥満です)

 

(2) BMI≧32(肥満度Ⅱの基準を超えた肥満です)で、

 

糖尿病を合併するもの、または他の肥満に起因する合併症を2つ以上ある場合
です。

 

ビタミンEはNASH患者の血液生化学検査のみならず、肝組織も改善することが示されています。しかし、長期の服用によって脳出血や前立腺がんの発症を増加させる可能性があります。


NASH患者の70%に高血圧が合併しています。アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬のロサルタン(ニューロタン®)、テルミサルタン(ミカルディス®)は、安全性の確立した降圧薬であり、肝臓の炎症及び線維化を抑制します。
 

スタチン系薬剤のアトルバスタチン(リピトール®)はNASH患者の血液生化学検査と肝組織を改善させます。
 

ピオグリダゾン(アクトス®)によって脂肪組織のインスリン抵抗性が改善しますが、それは肝細胞の改善とも相関します。

 

ただし、長期投与では、前立腺がん、膵臓がん、体重増加ならびに女性における骨折等の副作用に対する注意が必要です。