号外:北京での新型コロナウイルス感染患者の臨床的特徴

新型コロナウイルス(2019-nCoV)感染患者の臨床症状について、健康人集団や武漢以外の患者について、はじめて、まとまった報告が北京からなされました。

 

中国・北京の中国人民解放軍総医院のDe Chang氏らは、北京市内の病院に入院し2019-nCoV感染が確認された13例の初期の臨床的特徴を、JAMA誌オンライン版2020年2月7日号のリサーチレターに報告しました。
 

 

対象:

著者らは、中国の首都北京にある3つの病院に2020年1月16~29日に入院した患者(北京清華長庚医院8例、首都医科大学附属北京安貞医院4例、中国人民解放軍総医院1例)を、2月4日まで調査しました。

 

調査方法:

2019-nCoV感染の可能性がある患者は入院・隔離し、咽頭スワブのサンプルを収集して中国疾病管理予防センターで2019-nCoVについて定量的PCRアッセイを用いて調べました。また、胸部レントゲンもしくは胸部CT検査を実施しました。

 

調査結果:
診断された患者は専門病院に移送されました。
 

主な疫学的・臨床的特徴は以下のとおりです。

 

・患者の年齢中央値は34歳(25〜75パーセンタイル:34〜48歳)

 

1)2例が小児(2歳および15歳)で、10例(77%)が男性

 

2)12例は武漢を訪れた家族(両親と息子)や、2019-nCoVの流行発生後に武漢を訪問3)小児(2歳)の祖父母などで、1例は武漢との関連が不明であった。

最年少患者(2歳)は発熱が1週間断続的に続き、2019-nCoV診断前の13日間、咳が持続していた。

C反応性タンパク質などの炎症マーカーが上昇し、リンパ球数がわずかに上昇した。

 

4)12例は入院前から発熱(平均1.6日)がみられた。

・症状は、咳嗽(46.2%)、上気道うっ血(61.5%)、筋肉痛(23.1%)、頭痛(23.1%)などがみられた。

 

・専門病院に移送されるまで(平均2日)に呼吸補助を必要とする患者はいなかった。

 

・4例が胸部レントゲン、9例が胸部CT検査を実施した。5枚の画像で浸潤影も瘢痕像も認められなかった。胸部レントゲン写真の1枚で、左下肺に陰影が散在していた。6例で、右肺または両肺にスリガラス状陰影がみられた。

 

・2月4日時点ですべての患者が回復したが、12例はまだ病院で隔離されていた。

 

 

考察:
今回調査した患者のほとんどは、武漢を訪問もしくは武漢から来た人と濃厚接触していたが、1例は当てはまらないことから、著者らは「北京でのウイルス感染が活発である可能性を示唆している」という。


また、患者のほとんどが健康成人で、50歳以上と5歳未満の患者は1例ずつのみであったが、著者らは「小児や高齢者のウイルス感受性が低いからではなく、これらの人々は旅行することが限られているためではないか」と推測している。

 

 

杉並国際クリニックの見解

北京からのリポートは、北京市内の複数の国際水準の医療機関からの具体的報告であり信頼性があるものと思われました。

北京での新型コロナウイルス感染は、すでに活発であり、今後も当面の間は、感染者が増え続けるであろうと推定されます。

 

感染者の症状は、インフルエンザ様であるが、通常のインフルエンザより症状が重く、しかも発熱や咳などの症状が長引き回復までの日数が長い傾向にあることがうかがわれます。
 

日本の一般の医療機関では2019-nCoV感染の可能性がある患者は入院・隔離せず、咽頭スワブのサンプルを収集するところまでは可能です。

しかし、これは感染のリスクを増やすだけであり、しかも、そのリスクを冒して得た検体を直ちに受け取って2019-nCoVについて定量的PCRアッセイを用いて調べてくれる専門の検査センターがありません。

また、日本では保険医療制度が完備していますが、この検査は、保険収載されていないため、患者さんから実費を徴収せざるを得ませんが、どのくらいの検査コストがかかるかも明らかにされていない状況です。

 

つまり、外来診療での検査実施は事実上困難であるということを承知しておくべきでしょう。

もはや「保険証一枚で、いつでも、どこでも、国内での必要な医療が受けられる」というのは、もはや国民の勝手な幻想に過ぎないということになります。

 

画像検査としては、まずは胸部レントゲンでしょう。報告された所見から想定されるのは、急性間質性肺炎類似の所見のようです。

 

北京で2019-nCoV感染の可能性がある患者は入院・隔離していることは、とても重要なことです。

これに対して「軽症の場合は、すべての医療機関で対応」という日本での国策に基づく指針は無責任極まりない勧告である、ということは、この報告から考えても明らかではないでしょうか。

私たちは、独自の対策を講じていかなければならないと考えます。

 

 

原著論文: Chang, et al. JAMA. 2020 Feb 7.[Epub ahead of print]