12月27日 厄介な頭痛No5

結核性髄膜炎

50代女性。1カ月前より微熱と頭痛がありました。かかりつけ医で感冒の診断を受け、感冒の治療を続けていたが一向に改善しないため当クリニックをはじめて受診されました。

 

初診時、意識は清明でしたが、体温37.7℃の発熱(平熱36.2℃)、右の顔面神経麻痺も明らかであったため、神経学的検査を行ったところ、項部硬直とケルニッヒ徴候を認めましたが、他には異常を認めませんでした。

 

ケルニッヒ徴候とは、項部硬直と同様に髄膜刺激症状の1つであり、髄膜炎を疑う手掛かりとなります。患者を仰臥位にさせ、一側股関節および同側の膝関節を直角に曲げた状態で膝を押さえながら下肢を他動的に伸展すると伸展制限が出る場合、あるいは下肢を伸展させたまま挙上すると膝関節が屈曲してしまう徴候で、大腿屈筋が攣縮するために起こる現象です。痛みは伴いません。

 

この時点で、亜急性の経過をとる髄膜炎を疑いました。クリプトコッカス髄膜炎や結核性髄膜炎の可能性がありました。とくに、結核性髄膜炎では治療の遅れが死亡に直結するので、疑い次第、早急に結核治療剤を投与することになっています。

 

念のためβ-D-グルカンを含む血液検査を実施し、頭部のMRI検査や脳脊髄液の検査も必要であることを伝えてはじめて午前中に別の病院で頭部のMRI検査を済ませてきたという報告を受けました。結核性髄膜炎の診断は、CTやMRIなどの脳画像検査ではなく、脳脊髄液検査によってなされるため、その病院の担当医宛に脳脊髄液検査の追加を依頼するための紹介状を書きました。

 

後日の報告でβ-D-グルカンの異常は認めませんでした。また細胞性免疫が低下する病態ではHIV(エイズ)感染を疑わなければなりませんが、すでに受診している基幹病院の医師の判断に任せることにしました。幸いHIV(エイズ)感染はなく、結核の治療とともに、脳浮腫の軽減や血管炎の抑制、髄膜の癒着・線維化に伴う脳神経障害や閉塞性水頭症の予防のため副腎皮質ステロイド薬の併用を行なったとのことでした。

 

微熱を伴う頭痛は、ありきたりの症状ですが、本人が気付いていない症状が生命にかかわる重大な病気の手がかりになることがあることがあります。この症例は、その一つの例にすぎません。俗に、『風邪は万病の本』といわれますが、単なる風邪として扱ってはならない重要な病気がたくさんある、ということの戒めでもあるような気がいたします。