最新の臨床医学 6月19日(水)内科Ⅲ(糖尿病・内分泌・血液・神経)

経口血糖降下薬の使い方(1)

 

2型糖尿病では、インスリン分泌不全とインスリン抵抗性の両者があいまって、様々な程度のインスリン作用不足をもたらします。

 

インスリン分泌不全とインスリン抵抗性のいずれが主たる役割を果たしているかは症例毎に異なります。

 

欧米白人ではインスリン抵抗性が顕著であるのに対して、日本人ではインスリン分泌不全が主たる病態であることが多いことがわかっています。

 

いずれにも、食事療法・運動療法をしっかり行い、なお、血糖コントロールが不十分な場合に薬物療法を開始するのが原則です。

 

なお、日本糖尿病学会は、第一選択薬は特定せずに主治医の判断に任せる立場をとっているが、わが国においてはインスリン抵抗性を改善するビグアナイド(BG)類やインスリン分泌を促進するインクレチン関連薬のうちDPP-4阻害薬が頻用されています。

 

経口血糖降下薬は、主にインスリン非依存状態であり、急性代謝失調を認めない2型糖尿病の治療に用いられます。尿ケトン体陰性で、随時血糖値250~300㎎/dl程度か、それ以下であることが目安となります。

 

インスリン抵抗性改善薬:ビグアナイド(BG)類

メトホルミンがインスリン抵抗性改善作用を目的として使用されています。この薬剤は、インスリン分泌促進作用はなく、肝臓からの糖放出抑制、末梢での糖取り込みの促進、消化管からの糖吸収抑制により血糖を降下させます。GLP-1分泌促進作用もあります。

 

もっとも注目すべき副作用は乳酸アシドーシスです。発生頻度は9.6~16.2人/10万人です。

 

肝・腎機能、心肺機能に障害のある患者、アルコール多飲者では禁忌です。とくに腎機能障害では推定糸球体濾過量(eGFR)30mL/分/1.73m²未満(GFR区分G4:高度低下、G5:末期腎不全)には禁忌です。ヨード造影剤を用いる場合は一時的に中止します。継続服用中であっても、下痢や嘔吐などで脱水を来す危険があるときは服用を中止します。

 

欧米(米国および欧州糖尿病学会)では、肥満のある場合の第一選択薬ですが、食事内容、肥満度、使用できる用量などが異なるなる日本人での合併症予防効果は確立していません。

 

そこで、今後、わが国においてもメトホルミンはさらに頻用されることが見込まれています。

 

しかし、腎障害、過度のアルコール摂取、シックデイ、脱水、心血管・肺機能障害、手術前後、肝機能障害、高齢者などには投与を控えるなど適切な対応が必要です。

 

 

インスリン分泌促進薬:DPP-4阻害薬

インクレチンの分解に関わるDPP-4の活性を阻害する経口血糖降下薬です。その主たる作用は活性型GLP-1濃度の上昇によるインスリン分泌促進とグルカゴン分泌抑制です。

 

特徴は

①単独治療での低血糖のリスクが低い

 

②確実な食後血糖改善効果があり、血糖変動幅が狭くなる

 

③他の経口血糖降下薬やインスリン製剤の併用薬として有用性が高い

 

④服薬アドヒアランスが良好に保たれる

 

⑤治療に伴う体重増加がみられない、

 

⑥欧米の2型糖尿病患者に比し、日本人を含めたアジアの患者において効果が高い

 

などが挙げられます。

 

ただし、SUと併用する場合には低血糖に注意し、SUを減量します。

 

高齢者や中等度以上の腎障害を認める患者では、特に注意を要します。

 

膵癌・膵炎のリスク、心血管系への影響、免疫系(感染症、膠原病、癌を含む)への影響に関してのエビデンスの集積が不十分です。

 

DPP-4阻害薬を用いても十分な血糖コントロールが得られない場合は、長時間作用性で、空腹時血糖も食後血糖も下げるGLP-1受容体作動薬であるリラグルチドやデュラグルチドへの切り替えを検討するのが良いとされます。ただし、これらのGLP-1受容体作動薬は経口薬ではなく、皮下注製剤です。

 

 

杉並国際クリニックからのコメント

日本糖尿病学会は、第一選択薬は特定せずに主治医の判断に任せるとしていますが、実臨床の現場では、さまざまな使い分けがなされるべきであると考えます。わが国において頻用されているビグアナイド(BG)類やDPP-4阻害薬にも様々な未解決の問題点が残されています。

 

そこで杉並国際クリニックでは、まず2型糖尿病患者の重症度に着目しています。

 

耐糖能異常の段階から軽症の2型糖尿病で、空腹時血糖はさほど高くなく、食後に高血糖になるタイプでは、まずα-グルコシダーゼ阻害薬(α‐GI)を試みます。この薬剤は、消化管の二糖類分解酵素を阻害するため、耐糖能異常(IGT)から糖尿病への進展を抑制する効果があります。

 

また、即効型インスリン分泌促進薬の血糖改善効果はスルホニル尿素(SU)類ほど大きくはありませんが、SU類のようにインスリン分泌を促進します。

 

軽症から中等症の2型糖尿病であれば、肥満者か非肥満者かに着目します。

 

非肥満2型糖尿病であれば、スルホニル尿素(SU)類を試みます。しかし、この薬剤は、インスリンの基礎分泌・追加分泌をともに高めるためるため、β細胞の疲弊を早めてしまう可能性があると考えています。低血糖を引き起こしやすいので注意を要します。

 

肥満2型糖尿病であれば、まずSGLT2阻害薬を用います。この薬剤は、腎のブドウ糖再吸収を阻害するため、血糖改善に加えて体重減少も期待できます。