最新の臨床医学2019 6月1日(土)

連載: 竹田貴雄の「からだとこころと人間関係に効く漢方講座」  

 

竹田貴雄の「からだとこころと人間関係に効く漢方講座」

 

杉並国際クリニックで行っている漢方診療に共通する考え方を簡単に説明している記事を発見したので紹介いたします。

 

連載の紹介

 

「気管挿管より漢方講演の方が得意な麻酔科医」という竹田氏が、「からだとこころと人間関係に効く漢方」をテーマに、人間関係に悩む人を心理療法と漢方治療で支えるノウハウを紹介します。

 

著者プロフィール

竹田 貴雄(北九州総合病院麻酔科部長)1994年産業医科大学医学部卒。新日鐡広畑病院(現:製鉄記念広畑病院)でのペインクリニック外来業務を通じて、漢方薬と鍼治療に出会う。2015年から現職。日本麻酔科学会麻酔科指導医・専門医。日本医師会認定産業医。著書に『「とりあえずロキムコ」から脱却! 痛みの漢方治療“効く”First Step』(メディカ出版)。

 

日経BPより

 

 

第1回 西洋医学と漢方の二刀流、

 

始めてみませんか?

竹田 貴雄(北九州総合病院麻酔科部長)

 

皆さん、こんにちは。北九州総合病院の竹田貴雄と申します。気管挿管より漢方講演の方が得意な麻酔科医です。

 

漢方好きが高じて、「からだとこころと人間関係に効く漢方」をテーマにした講演会で全国を回っています。このたび日経メディカルの編集者の目に止まり、連載を始めることになりました。どうぞよろしくお願いいたします。

 

西洋医学と東洋医学を1枚の医師免許証で行えるのは日本だけ

高血圧や糖尿病といった「病気」を扱う西洋医学とは違い、漢方医学は「頭が重い」だとか「疲れがとれない」など、様々な「愁訴」を治療対象としています。

 

漢方を勉強すると、医師・看護師・薬剤師といった職種や内科・外科など診療科の垣根を越えて、医療スタッフみんなで1人の患者さんの治療を考えることができます。例えば、月経困難症に悩む患者さんに対して、産婦人科医ではない私でも、血液循環を改善する駆瘀血剤(くおけつざい)で治療することができるのです。

 

ちなみに、中国や韓国にも西洋医学と東洋医学はありますが、西洋医学と東洋医学それぞれの医師免許証が必要です。1枚の医師免許証で西洋医学と東洋医学両方の診療を行うことができて、さらに漢方薬を投薬したり鍼灸まで行うことができるのは日本だけです。日本の医師は、西洋医学と東洋医学の二刀流になることができる非常に恵まれた環境にあるといえます。

 

 

病名と証(しょう)

患者さんを診察する際に、西洋医学と東洋医学は異なる観点からアプローチします。診断名は、西洋医学では病名、東洋医学では証(しょう)といい、証が原因となって「病氣」が生じると考えます。東洋医学では、四診(望診[ぼうしん]・聞診[ぶんしん]・問診[もんしん]・切診[せっしん])という診察法を用いて患者さんの状態を把握し、

 

・寒熱(かんねつ):熱くなって痛んでいるのか、冷えて痛んでいるのか

・患者の体を流れるエネルギー(氣血水[きけつすい])の過不足:よく見られる異常は水滞(すいたい)、瘀血(おけつ)、氣(き)の異常

など、証(しょう)を診断することで、証に合わせた治療を行います。

 

 

痛みの原因と治療薬

日々の診療や漢方講演の際、「痛みに効く漢方薬はありませんか?」と質問されることがあります。しかし、このような西洋医学的な考え方では本当の意味において漢方の使い手にはなれません。いわゆる「漢方鎮痛薬」というものは存在しないのです。

 

西洋医学では、

・侵害受容性疼痛に非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェン

・神経障害性疼痛にプレガバリンやオピオイド、デュロキセチンなどの抗うつ薬

と病名に応じた治療薬があります。

 

また、心理社会的要因が強いケースでは、認知行動療法などの心理療法を併用します。

 

例えば、ペインクリニック外来を受診する患者さん、特に慢性痛の患者さんでは、既にNSAIDs、プレガバリン、デュロキセチンなどの鎮痛薬を処方されてから外来に紹介されてきます。ですので、硬膜外ブロックや末梢神経ブロックが効かないとなると、もうお手上げですね。

 

どうしよう……。医師も患者も途方にくれたとき、さあ漢方の出番です。

 

 

東洋医学では、

・筋緊張が原因となっている痛みに芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)

・水滞(すいたい)が原因となっている痛みに利水剤(りすいざい)

・瘀血(おけつ)が原因となっている痛みに駆瘀血剤(くおけつざい)

・血虚(けっきょ)が原因となっている痛みに補血剤(ほけつざい)

・陰虚(いんきょ)が原因となっている痛みに滋陰剤(じいんざい)

・腎虚(じんきょ)が原因となっている痛みに補腎剤(ほじんざい)

・氣(き)の異常が原因となっている痛みに氣剤(きざい)

と証に応じた漢方薬があります。

 

単に「痛みに効く漢方」ではなくて、「水滞(すいたい)が原因となっている痛みに効く利水剤(りすいざい)」や「瘀血(おけつ)が原因となっている痛みに効く駆瘀血剤(くおけつざい)」を処方する必要があるのです。

 

 

さあ漢方の勉強を始めましょう

本コラムでは、日常診療に漢方治療を取り入れてみたいという先生方に、漢方治療を行う際に必要とされる東洋医学的な概念(寒熱[かんねつ]・氣血水[きけつすい]の異常)に対する理解を深めていただき、漢方治療の第一歩を踏み出していただけるように、微力ながらお手伝いをさせていただきます。

 

漢方治療に関して、痛みの治療を入り口にした入門書、『「とりあえずロキムコ」から脱却! 痛みの漢方治療“効く”First Step』(メディカ出版 2016年)という本を出しています。本コラムとともに参考にしていただけますと幸いです。