最新の臨床医学 5月30日(木)リウマチ・膠原病・運動器疾患

今年の日本リウマチ学会総会・学術集会は、これまでの中で、もっとも大きな収穫がありました。それは、学術集会に先立つアニュアルレクチャーコースで最新の専門知識がアップデートできたこと、関節エコーライブ&ハンズオンセミナーといって、超音波検査の専門実習(参加者限定)で実践的なスキルアップができたこと、それに加えてMeet the Expertといって、特殊領域のエクスパートのレクチャーに続き、その講師を囲んで臨床に即した質疑応答(参加者限定)に参加でき、日常診療における専門的な課題の克服に大いに役立つ経験ができたからです。

 

そこで今月の木曜日のシリーズは4月14日(日)に開催された日本リウマチ学会総会2019アニュアルコースレクチャーの内容を、講義録のメモ〔講義録メモ〕をもとに要点を少しでもわかりやすく<まとめ>皆様にご紹介することにいたします。

 

アニュアルコースレクチャーは、2006年より、日本リウマチ学会の学術集会に併せて開催されています。リウマチ学会の中央教育研修会の中心となる7つの講演で、丸一日をかけて1年分のリウマチ医学の最新情報を得ようとするものです。

 

昔から難病とされてきた関節リウマチではありましたが、日進月歩の医学の発展により、関節リウマチの疾患活動性のコントロールも充分に可能な状況となりつつあります。そして、寛解状態を目指すことが現実的な治療ゴールになってきました。
とりわけ、関節リウマチの薬物療法の進歩は大学病院のみならずリウマチ専門医が勤務する地域のクリニックで高度な対応ができる時代になってきました。しかし、そこで重要なことは、やはり、早期に診断し、速やかに治療を行うことです。

 

医師免許や博士号などの学位とは異なり、専門医のタイトルは、常にアップデートな情報に触れ、新しい知識を取得しておくことが必須の条件になっています。また、社会環境の変化も重要です。なぜなら、社会が医療に求める内容は、日々めまぐるしく変わって、より高度で有益で安全なものが求められていくからです。それについても、絶えずアップデートされた知識や技術が求められていることを実感しています。

 

 

〔講義録メモ〕

<日本リウマチ学会総会2019アニュアルコースレクチャーのリポート⑤>

 

4月14日(日)


15:20~16:20

 

ACL7:高齢者関節リウマチの治療のコツ

 

演者:杉原毅彦(東京医科歯科大学生涯免疫難病学)

 

高齢者の定義:

75歳以上(歩行速度、握力)

フレイリティ(身体的虚弱)
1.体重減少
2.歩行速度低下
3.易疲労感
4.筋力(握力)低下
5.低活動

フレイリティ(身体虚弱症)3つ以上
プレ・フレイリティ(身体虚弱前症)1または2
ノン・フレイリティ(身体機能正常:非身体虚弱)該当なし

 

フレイルは可逆性のステージがあるので、不可逆性のステージに移行しないうちに発見し、支援する

 

 

関節リウマチ
1) 高齢者の有病率増加
2) 発症年齢のピーク60歳
3) 高齢者では急性発症例、関節破壊急速進行例、大関節型が多い

 

関節リウマチの治療目標
1) 疾患活動性のコントロール
2) 関節破壊振興抑制
3) 身体機能改善(仕事や趣味の継続)
4) 長期的予後の改善
5) 高齢者では身体的な虚弱(フレイル)の進行防止
6) 健康寿命の延長

 

高齢者関節リウマチの特徴と留意点:
病態の複雑化
合併症の増加
加齢に伴う変化
動脈硬化、心疾患、脳卒中、肺疾患、骨密度低下、変形性関節症、
認知機能低下、抑うつ、
サルコペニア、生理機能低下、免疫機能低下

 

高齢者関節リウマチ患者の薬物療法の注意点:
メトトレキサートを中心とした治療を実践しないと、副腎皮質ステロイド併用による関節破壊進行抑制効果は期待できない

 


TNF阻害薬、トシリズマブ、アバタセプトにおいて、高齢者関節リウマチと非高齢関節リウマチの治療反応性は同等である。
リウマチ性多発筋痛症との鑑別が難しい例がある。
末梢関節症状のある症例の50%が一年後に滑膜炎を伴ってくる。

 

予後不良因子
ACPA、疾患活動性

 

 

 

<まとめ>
このレクチャーは、関節リウマチに関するものではありますが、「高齢者」診療全般にとって有意義な内容でした。

 

75歳以上を高齢者と定義する流れができつつありまが、加齢に伴い個人差は拡大していきます。ですから、75歳以上を一括りに高齢者と定義するならば、75歳未満であれば、どれほど老化が進んでいても非高齢者ということになってしまいます。

 

個人差というバラツキを無視した平均値的な定義は、実臨床上は有害でさえあります。なぜなら、老化対策は75歳になってからでは遅きに失することがほとんどだからです。

 

他方においては、今月16日、政府の大綱で、政府は70代に占める認知症の人の割合を、2025年までの6年間で6%減らすとの数値目標を公表しました。現役世代の減少や介護人材の不足、社会保障費の抑制に対応するために認知症の予防促進を掲げており、その一環として初めて数値目標を設定したものです。しかし、これには確かな医学的裏付けがありません。これとて70歳になってからの認知症予防では、とうてい数値目標を達成することは不可能でしょう。

 

それでは、私たちはどのような心構えと対策を持ったらよいでしょうか。
それは、まずフレイル(身体的虚弱)対策です。基本は、歩行速度と握力です。歩行速度は、意識さえしていれば、他者と比べることができるでしょう。若い人たちと比べたり、同年配の人たちと比べたりしてみることも有意義です。また、定期的に握力を測定し、数値データとして記録を残しておくとよいでしょう。

 

杉並国際クリニックでは3カ月に1回のフィットネス・チェックを推進しています。それによって四季ごとの体調の変化を観察することができます。握力は全身の筋肉のパワーを反映することが知られています。

 

また知らず知らずのうちに身体的虚弱に陥っていないかどうかのチェックを定期的に行うことによって、有効な対策を講じることができます。体重の測定も重要な項目の一つです。

「最近、疲れやすくなった」といった主観的な症状もフレイルを評価するための重要項目です。

 

なお、関節リウマチは、若い女性でも発症しますが、60歳にもピークがあります。関節リウマチと診断されることによって、早い時期からフ適切なフレイル対策を始めることによって、長期的にて、一般の方より良い予後を得ることも不可能ではありません。
水氣道に参加している関節リウマチの方のお話を聞いていただければ、それが確かであることがわかるでしょう。