最新の臨床医学 5月16日(木)リウマチ・膠原病・運動器疾患

今年の日本リウマチ学会総会・学術集会は、これまでの中で、もっとも大きな収穫がありました。それは、学術集会に先立つアニュアルレクチャーコースで最新の専門知識がアップデートできたこと、関節エコーライブ&ハンズオンセミナーといって、超音波検査の専門実習(参加者限定)で実践的なスキルアップができたこと、それに加えてMeet the Expertといって、特殊領域のエクスパートのレクチャーに続き、その講師を囲んで臨床に即した質疑応答(参加者限定)に参加でき、日常診療における専門的な課題の克服に大いに役立つ経験ができたからです。

 

そこで今月の木曜日のシリーズは4月14日(日)に開催された日本リウマチ学会総会2019アニュアルコースレクチャーの内容を、講義録のメモ〔講義録メモ〕をもとに要点を少しでもわかりやすく<まとめ>皆様にご紹介することにいたします。

 

 

アニュアルコースレクチャーは、2006年より、日本リウマチ学会の学術集会に併せて開催されています。リウマチ学会の中央教育研修会の中心となる7つの講演で、丸一日をかけて1年分のリウマチ医学の最新情報を得ようとするものです。

 

昔から難病とされてきた関節リウマチではありましたが、日進月歩の医学の発展により、関節リウマチの疾患活動性のコントロールも充分に可能な状況となりつつあります。そして、寛解状態を目指すことが現実的な治療ゴールになってきました。

 

とりわけ、関節リウマチの薬物療法の進歩は大学病院のみならずリウマチ専門医が勤務する地域のクリニックで高度な対応ができる時代になってきました。

 

しかし、そこで重要なことは、やはり、早期に診断し、速やかに治療を行うことです。

 

医師免許や博士号などの学位とは異なり、専門医のタイトルは、常にアップデートな情報に触れ、新しい知識を取得しておくことが必須の条件になっています。また、社会環境の変化も重要です。なぜなら、社会が医療に求める内容は、日々めまぐるしく変わって、より高度で有益で安全なものが求められていくからです。それについても、絶えずアップデートされた知識や技術が求められていることを実感しています。

 

 

〔講義録メモ〕

 <日本リウマチ学会総会2019アニュアルコースレクチャーのリポート③>

4月14日(日)

11:55~12:45am

 

ACL4:最近の副作用発現状況を踏まえたMTXの適正使用

演者:鈴木康夫(東海大学リウマチ内科学)

 

最近の関節リウマチ治療では、メトトレキサートをアンカードラッグとして高容量まで使用し、効果不十分であれば積極的に分子標的薬を併用することで、治療成績は画期的に向上した。しかし、最近の副作用に動向やリウマチ患者の高齢化などの背景から、今後は長期寛解維持後の免疫抑制の緩和が必要です。

 

メトトレキサートは単剤あるいは従来型合成抗リウマチ薬、生物学的製剤やJAK阻害薬との併用で、80%以上の関節リウマチ患者に投与されています。

 

メトトレキサートを週8㎎から週8㎎を超えて増量した場合、寛解症例の比率は約3倍増加し、特にメトトレキサート開始1年未満の症例では、その傾向が顕著でした。なお、2016年に改訂されたメトトレキサート診療ガイドラインでは増量の目標は週10~12㎎とする一方、増量のタイミングも迅速増量について言及し、より積極的な使用法を推奨されています。

 

 

メトトレキサートとの関連が否定できない死亡例の内訳:

感染症25.1%、骨髄障害24.0%、新生物(リンパ増殖性疾患:LPD)21.7%、間質性肺障害17.7%など

 

70歳以上が75%を占め、2年以上の服用例が約半数、メトトレキサート週10㎎以上の症例が35%でした。

 

感染症関連死に関して、死亡例を含む重篤な感染症の60%以上が生物学的製剤やJAK阻害薬の併用例、メトトレキサート週10㎎以上内服が36.7%でした。

 

重症感染症では、肺炎やニューモシスティス肺炎など急性感染症をはじめ、結核、真菌感染症、帯状疱疹・ヘルペス感染症、非結核性抗酸菌症などの慢性の日和見感染症も増加傾向にあります。

 

新生物(LPD)関連死では、70歳以上が53.8%、メトトレキサート週10㎎以上の症例は15.3%と少ないのに対して、2年以上服用例は54.4%(LPDとしての集計例中ではの88.0%)と多数に上りました。DLBCLが最多、次いでホジキンリンパ腫。

 

免疫不全との関連があるものでは100%

 

DLBCLでは自然退縮例もあり比較的良好であるが、ホジキンリンパ腫は退縮率が低く予後は不良。

 

イクティマブが未承認であるのが我が国の問題。

 

 

 

<まとめ>

当クリニックのリウマチ診療の特徴は、これまで、ほとんど生物学的製剤を行っていないということです。

 

その第一の理由は、関節リウマチを比較的早期に診断できていることです。メトトレキサート(リューマトレックス®)を単剤で使用しているか、あるいは従来型合成抗リウマチ薬を併用することによって良好なコントロールが得られているのは、何よりも早期発見と早期治療に負うところが大きいです。

 

第二の理由は、大学病院等のリウマチ専門外来で適切な治療を経験されて安定期を見換えてから当科を紹介されて来院され方の比率が多いからです。そうした患者さんの中で気になるのは、合併しやすい骨粗鬆症の治療や予防が放置されていることが多いことです。そのままでは将来、要介護状態に至ってしまうので、当科では、長期的展望に立って丁寧に、計画的なケアにて対応しています。

 

メトトレキサート(リューマトレックス®)を単剤で使用といっても、骨髄抑制の予防のため、当然ながら葉酸(ビタミンB群の一種)を用いる他、カルシウムなどのミネラル、ビタミンCやDなどのビタミン類、漢方薬を組み合わせることが有用であると考えています。その理由は最少量のメトトレキサート(リューマトレックス®)で、最大限の治療効果を挙げるための工夫をしているからだと思います。

 

第三の理由は、関節リウマチは先天的遺伝的な生まれつきの体質による要因よりも、後天的な生活習慣や環境因子に大きな影響を受ける病気であることを、患者さんにしっかりと伝えているからです。身体的ばかりでなく精神的なストレッサーも自律神経やホルモンや免疫の働きを損なうことはよく知られています。ですから、薬ばかりで直そうというのではなく、生活リズムをはじめとする習慣の改善の他、水氣道®など関節リウマチの患者さんに過剰な負担のかからないエクササイズ、聖楽院でのボイストレーニングなど、楽しく継続できる方法を導入していることも少なからず貢献できているものと自負しております。