最新の臨床医学 4月21日(日)心療内科

心療内科は絶滅危惧種か?その3

<その1>

<その2>

今月は、内部からでさえ、もはや絶滅危惧種と叫ばれつつある心療内科が如何に誤解されているか、混乱させられているか、という深刻問題点について考えてみたいと思います。すでに世間に広く広報されている具体的な声を題材にしました。

 

第3回:正しい心療内科を知っていますか?

 

出典:中部労災病院の記事から

 

 

2016年(平成28年)10月21日         

フィリア・レター           第45号

 

心療内科部長 芦原 睦

 

当院では、1990年から心療内科の外来を開始していますが、当時珍しかった「心療内科」という看板を最近、街でよく見かけるようになったとは思われませんか?

 

それは1996年に厚生労働省により院外標榜科として「心療内科」が認められ、自由標榜(医師なら誰でも標榜可能)が可能な制度に改められたことで、一般内科医や精神科医が自由に看板を挙げているからです。 当院では、心療内科以外に「神経内科」や「精神科」も存在するため、ことさら「正しい心療内科」にこだわって診療をしてきました。  

 

それでは、日本心療内科学会が認める「日本心療内科学会専門医」とはどんな資格でしょうか?(この資格を有している医師は、現在日本に120人しかおりませんので、新潟県のトキやパンダのような絶滅危惧種として心配されています。)心療内科専門医とは、日本内科学会認定内科医又は総合内科専門医を有し、かつ、一定の研修と試験を受け合格した者にだけ与えられる資格です。よって、心療内科専門医は普通に聴診器を使う内科医なのです。みなさん の周りの方で「心療内科」に通院しているけど、一度も聴診器をあてられたことがないというお話を聞いたことがありませんか?

 

その場合、診察を省略している場合を除いて、原則的に身体的診察をしない精神科医が担当している可能性が高いと思われます。一方、精神科医は精神保健指定医などの高度な資格を有しており、患者さんに医療保護入院などができます。この強制力を持った入院処置などは心療内科医にはできません。  

 

さて、当院の心療内科にはどのような症状や訴えの方が受診されているのでしょうか? この1年間に受診された新規患者さん150名 の主訴(主たる訴え)を第10位まで調査しました。  

 

 

第1位は「不眠」が圧倒的でした。

 

第2位「痛み」は、全身・背部・腰の痛みなどで、頭痛と腹痛は入っていません。

 

第3位「頭痛」(註:飯嶋が挿入)

 

第4位「不安」は、精神症状ではトップでした。

 

第5位「動悸」は、不安の部分症状かもしれません。

 

第6位「腹痛」 は、おそらく消化器内科で異常なしと言われた症例かと思われます。

 

第11位以降は、「気分の落ち込み」「食欲不振」「意欲低下」などが続きます。  

 

決して、精神的な不調の方が受診していないということがお分かりいただけたでしょうか?

 

痛み系が多いのは、私が「リウマチ専門医」も持っているからでしょう。  以上より、“原因がわからないといわれた身体的不調のある方”の受診を特にお勧めします。

 

 

<杉並国際クリニックの立場から>

中部労災病院心療内科の研究会には何度も足を運びました。部長の芦原先生は、総合病院における心療内科の在り方に対して、確固とした「正しい心療内科」のお考えをお持ちで、わが国の総合病院心療内科のモデルの一つを構築してきた方です。

 

これに対して、私は個人クリニックにおける心療内科の立場で臨床経験を積んできました。精神科医や神経科医が在籍しない心療内科のクリニックにおいては、総合病院心療内科のような「正しい心療内科」のスタンスを維持することは極めて困難でした。心療内科医であることを超えて、心療内科標榜医として社会から期待されている避けがたい役割の大きさに圧倒される中で、日本うつ病学会等の正会員になったり、臨床心理士の資格を取得したり、可能な限りの自己研鑽を積んできた歴史でもありました。

 

芦原先生が総合病院における「正しい心療内科」を堅持して来られたのに対して、私は個人開業医としての「正しい心療内科」を目指してきたといえるでしょう。両者は相矛盾することはなく、個人開業医としての「正しい心療内科」の中核は、やはり総合病院における「正しい心療内科」に相当する部分である、と言ってよいでしょう。

 

芦原先生も、しばしば、「心療内科指導医の中でリウマチ専門医資格を持っているのは、自分と飯嶋先生くらいのものでしょう」とおっしゃいます。

 

そこで、あらためて中部労災病院心療内科受診者の主訴のランキングをながめてみますと、興味深いことにほとんどが杉並国際クリニックと重なることに気づかされました。杉並国際クリニックの特徴としては、「痒み」の症状が多いですが、それはアレルギー専門医としてアレルギー疾患(喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎等)を診療していることが背景にあると思います。

 

芦原先生が、いみじくも< “原因がわからないといわれた身体的不調のある方”の受診を特にお勧めします。>と書かれていますが、心療内科専門医の専門性の勘所は、このあたりにあると考えることもできるでしょう。