最新の臨床医学 2月20日(水) 内科Ⅲ

糖尿病はもはや国民病です。糖尿病専門医だけに任せておけばよい病気ではありません。薬物療法の発展は目覚ましいのですが、食事療法、運動療法、生活習慣編世用のための行動療法を駆使して治療に当たるのでなければ、コントロールに至ることは難しいです。

 

糖尿病は動脈硬化性疾患とならんで臨床栄養学の中では中心的な病態です。私は、糖尿病専門医ではありませんが、たいていの糖尿病専門医よりは、糖尿病について深くかかわり、実践してきたという自負があります。

 

私は、昭和学院短期大学のヘルスケア栄養学科で、臨床栄養学を担当していたことがありますが、「臨床栄養学」の教科書を2冊出版して、改訂を重ねています。どうぞご参考になさってください。

 

 

 

糖尿病治療の目標と指針

 

Q2-1 

糖尿病の治療の目標は?

 

【要点】

糖尿病治療の目標は、

 

① 高血糖に起因する代謝異常を改善すること、に加え

 

② 糖尿病に特徴的な合併症、および糖尿病に併発し易い合併症の発症、 増悪を防ぐこと、さらには

 

③ 健康人と変わらない生活の質(quality of life: QOL)を保つこと、

 

④最終的には、健康人と変わらない寿命を全うすることにあります。

 

 

【 杉並国際クリニックの実地臨床からの視点 】

言うは易く、行うは難し。それは、糖尿病治療の目標達成も例外ではありません。この難題を解決するにあたっては、まず、その理由を分析することが大切だと思います。

 

治療目標①:高血糖に起因する代謝異常を改善すること

高血糖に起因する代謝異常は、その程度が軽度であれば、ほとんど自覚症状として気づかれることはありません。気づきがなければ、認識がかわらないので、生活習慣態度や健康行動に向けての行動変容は期待できません。

 

糖尿病はインスリン作用の不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝性疾患であるため、インスリンの作用不足に気づくための工夫が必要であるということになります。気づかないために、長期間放置されることがあります。

 

そうなると、治療目標 ② 糖尿病に特徴的な合併症、および糖尿病に併発し易い合併症の発症、増悪を防ぐこと、を達成することは困難になってしまいます。代謝障害が軽度でも長く続けば特徴的な慢性合併症(網膜症、腎症、神経障害)を発症するリスクが高くなるからです。

 

さらに、糖尿病では全身の動脈硬化症が促進され、これが心筋梗塞、脳梗塞、下肢の閉塞性動脈硬化症の原因となります。また、細菌感染に対する抵抗力の低下をもたらします。

 

この状態になると、治療目標 ③ 健康人と変わらない生活の質(quality of life: QOL)を保つこと、は望むべくもありません。

 

また、血糖値が著しく高くなる代謝状態では口渇、多飲、多尿、体重減少がみられるようになります。さらに急速に進行すると、急性合併症として意識障害や昏睡に陥り、効果的な治療が行われなければ死に至ることもあります。

 

治療目標 ④ 健康人と変わらない寿命を全うすること、

この目標を達成するためには、早期に治療目標①:高血糖に起因する代謝異常を改善すること、この目標を達成することが大前提であるということがわかるはずです。

 

気づきにくい病状に気づくためには、自覚症状のみを唯一の健康尺度にしている多くの人々の意識を変革する大胆な手立てが必要です。

 

とはいっても、それは必ずしも難しいことではなく、定期的な住民健診や職場健診を積極的に活用し、健診の結果に基づいて、適切な対応をすることだけでも十分な解決策であると思います。