最新の臨床医学 1月28日(月)内科Ⅰ(消化器・肝臓)

日本消化器病学会ホームページを検索してみました。

すると、「患者さんとご家族のためのガイド」が公開されていますので、ご参考になさってください。

 

規定により直ちに転載できませんので、「消化性潰瘍」の概要を紹介し、コメントを加えることにしました。

 

 

Q3 

どうして消化性潰瘍になるのですか?

 

A3 

私たちの胃の中では、食べたものを消化したり侵入してきた細菌を殺したりするために、胃酸や消化酵素を含んだ胃液が分泌されます。このとき、正常な状態では胃酸から粘液も同時に分泌されることによって自分の胃粘膜が消化されずに保護することができます。つまり、胃粘膜の攻撃因子(胃酸、消化酵素など)と胃粘膜の防御因子(粘液)とのバランスが崩れると潰瘍ができやすい状態になります。この考え方を「Shayの天秤説」といい、1980年(昭和の終わり)くらいまでは主流の考え方でした。

 

 

Q3-1 

消化性潰瘍の主な原因は?

 

A3-1 

原因の多くがヘリコバクター・ピロリ菌の感染によるものです。

次が、痛み止めの薬(非ステロイド性抗炎症薬)です。

 

 

Q3-2 

喫煙やストレスが原因でも消化性潰瘍になりますか?

 

A3-2 

ピロリ菌に感染している人では喫煙やストレスにより潰瘍になり易いことがわかっています。ただし、喫煙やストレスだけでは潰瘍の原因にはならないとガイドラインには書かれています。

   

胃粘膜の攻撃因子(胃酸、消化酵素など)と胃粘膜の防御因子(粘液)とのバランスが崩れると潰瘍ができると考える「Shayの天秤説」に基づき攻撃因子を抑制する薬剤と防御因子を高める薬剤を併用しても潰瘍が治癒するかどうかの予測は困難で、3分の1くらいが外科手術に回っていた時代がありました。やがてH2ブロッカーの登場によって消化性潰瘍の8-9割が治るようになり、平成3年(1991年)にPPIが開発され、ランソプラゾール(タケプロン®)30mgを1日1錠服用するだけで、難治性を含めた胃・十二指腸潰瘍の9割が8週間以内に治るなど、攻撃因子を抑制するだけで消化性潰瘍が治り、「Shayの天秤説」が否定されました。  

 

やがて平成に入る前にピロリ菌が発見され、消化性潰瘍発生との関係が明らかになり、国内外の消化性潰瘍ガイドラインで推奨されるようになりました。そしてピロリ菌除菌による消化性潰瘍治療が保険適用されたことで、消化性潰瘍は完治する病気と考えられるようになりました。

    

しかし、高円寺南診療所での30年間の臨床経験からいえば、ガイドライン通りではないケースもあり、鵜呑みにはできないと考えています。

   

むしろ大学病院でのガイドライン通りの治療では治らなかった患者さんが高円寺南診療所に集中しました。その多くがストレスフルな毎日を過ごす喫煙者でした。

    

喫煙やストレスは胃潰瘍のリスクであり、増悪因子である可能性については、しっかりと言及すべきではないかと思います。また胃潰瘍との鑑別が問題になる胃がんの発生については多くの研究が行われています。

 

胃癌も正常な胃粘膜からは直接発生しません。ピロリ菌が慢性胃炎を引き起こし、長い経過を経て一部が癌化することが明らかになってきました。ピロリ菌の除菌療法が普及すると慢性胃炎がなくなり、胃癌も発生しにくくなります。若年者に多く見られる未分化型胃癌もなので、中学生など若年者を対象にしたピロリ菌除菌を普及させようという試みがさまざまな自治体で始まっています。

    

胃がんも胃潰瘍と同様にヘリコバクター・ピロリ菌の持続感染などの他に喫煙や食生活などの生活習慣が胃がん発生のリスクを高めると評価されています。仮に喫煙が潰瘍の原因にはならないとしても、より恐ろしい胃がんの原因になっているということに言及しない一般向けガイドラインは検討不足であると考えます。

 

これに関する情報をもっと読みたい方は、国立がん研究センターがん情報センターの一般の方向けサイトをご参照ください。

 

 

Q3-3 

なぜピロリ菌に感染している人は潰瘍が発症しやすくなるのですか?

 

A3-3 

ピロリ菌に感染している人では、胃粘膜を守る粘液の分泌が低下しやすいからです。そのため胃酸や消化酵素などの粘膜攻撃因子により胃粘膜 に炎症が起こりやすくなることで潰瘍が発症しやすくなります。

 

また十二指腸潰瘍は、胃に比べると胃酸に対する抵抗力が弱いです。ピロリ菌感染により、防御力が低下すると胃酸の分泌が高くなり、十二指腸の粘膜が傷つけられやすくなることで生じやすくなります。

 

感染していることがわかれば除菌療法が推奨され、定期的な胃の検診 を受けることが勧められます。感染の有無に関わらず、禁煙する、塩や高塩分食品のとり過ぎに注意する、野菜、果物が不足しないようにするなどの配慮が重要となります。