スピリチュアルというと、音楽の世界では、黒人霊歌(ニグロ・スピリチュアル)が良く知られています。
医療や緩和ケア、心理学の領域ではスピリチュアリティという言葉が用いられます。とりわけ、ターミナルケアやガン治療など終末医療で注目される概念です。
ただし、心霊術とか交霊術でもスピリチュアル、スピリチュアリティ、スピリティズムなどの用語が用いられているため、一般の方には不可解で怪しげな言葉であるといった懸念が拭い去れないのではないかと思います。
スピリチュアル(英: spiritual)は、ラテン語の spiritusに由来し、霊的でること、霊魂に関するさまを表すキリスト教用語です。
キリスト教神学では、スピリチュアリティ(霊性)が用いられます。なお、わが国のキリシタン時代には、ポルトガル語読みでスピリツアル(すぴりつある)と表記されていたそうです。
現代英語としてのspiritualは、宗教的・精神的な物事、教会に関する事柄、または、神の、聖霊の、霊の、魂の、精神の、超自然的な、神聖な、教会の、などを意味します。
このように列記してしまうと、かえってわかりにくいのでOXFORD現代英英辞典を調べてみました。
① connected with the human spirit, rather than the body or physical things: “OPP”METERIAL
② connected with religion:-compare TEMPORAL
理解の助けとなるのは、まず1の“OPP”METERIAL(対義語:物質的)です。
spiritualの意味は、人間の身体や肉体よりもspiritに関与していること。
次いで、compare TEMPORAL(TEMPORALを参照のこと)、とありますが、宗教に関与していること。
temporalについては、
①(formal)connected with the real physical world, not spiritual matters:
(公式用語) スピリチュアルな事象ではなく現実の実体のある世界に関連
② (formal) connected with or limited by time:
(公式用語)時間に関連する、または時間の制約を受ける
③ (anatomy) near the temple(s) at the side of the head
(解剖用語)頭部の両側のtemple(こめかみ)に近い(もの)
私が医学生であった頃、解剖学の授業では、身体部位はすべて日本語、英語、ドイツ語の他にラテン語でも覚えさせられたことを思い出します。
実際、日本の解剖学用語辞典には、この4言語が併記されていました。骨学ではtemporal bone(側頭骨)を覚えましたが、日々の診療ではtemporal region (側頭部)とかtemporal headache(側頭部痛)という表現をカルテに記載していることが多いです。
ただし、一般の方にとっては、templeは寺院という意味の方で用いられていることが多いと思います。
私自身、templeには「こめかみ」という意味があることには気づきませんでした。
皆様、それでは食べ物は良く咀嚼(そしゃく)して、「こめかみ」を使って良く噛み、人生を良く味わいましょう。
そういえば、「かみ」しめることと神は同じ語源であると聞いたことがあります。オオカミ(狼)は大神だとか。
獅子舞の獅子に頭を噛んで貰うと縁起が良いというのも、このあたりに関係があるのかもしれません。
私が興味深いと感じるものの一つは、temporalと時間との関係です。
temporalを時間的と訳すとき、しばしば、これと一対を形成するのがspacial(空間的)です。
しかし、spiritualが空間的かと言うと、どうもそうではならないのが言語の難しい所です。
spiritualとはむしろ、空間的制約や時間的制約を受けない、すなわち「時空を超えた」世界での生き方ということにはならないでしょうか。