診察室から<肺炎予防・手洗いと手洗い後の速やかな乾燥の勧め>

手は感染伝搬の媒体であるというヒト感染に関する新たな対照研究

 

<鼻をほじくるのはなぜ良くないことなのか>

 

鼻をほじくると自分自身だけでなく周囲の人の健康にも悪影響があることが、英リバプール熱帯医学研究所のVictoria Connor氏らによって報告されました。

 

European Respiratory Journal1010日オンライン版。

 

 

背景:肺炎球菌は、咳やくしゃみなどで飛び散る飛沫(しぶき)を介して感染することが知られています。しかし肺炎球菌の感染がどのように広がるのかについては、現時点まで明らかになっていませんでした。そこで著者らは地域における肺炎球菌の感染経路を明らかにするための研究を実施しました。

 

 

対象:1845歳の健康な男女40

 

 

方法:分類比較試験(4分類)

 

1)肺炎球菌を加えた水で濡らした手を鼻に近づけて吸い込む

wet sniff群”

 

2)肺炎球菌を乾いた状態で手の甲に付着させて鼻で吸い込む

dry sniff群”

 

3)肺炎球菌を加えた水で濡らした指で鼻をほじくる

wet poke群”

 

4)肺炎球菌を乾いた状態で指に付着させて鼻をほじくる

dry poke群”

 

 

結果:鼻をほじくったり、こすったりすると肺炎球菌が拡散する可能性があります。

 

その結果、全ての群で、肺炎球菌は手から鼻へと容易に感染することが明らかになりました。また、最も感染しやすいのは肺炎球菌を加えた水で濡らした2つのwet群でした。すなわち、肺炎球菌を加えた水で濡らしたに鼻を近づけて吸い込むwet sniff群と、肺炎球菌を加えた水で濡らした指で鼻をほじるwet poke群でした。

 

 

考察:乾燥した環境では細菌が死滅しやすいことが要因である可能性があります。「肺炎球菌は世界の死亡の主な要因となっており、年間で130万人もの5歳未満の小児がこの細菌によって命を落としている」。また、高齢者や免疫力が低下した慢性疾患を有する患者なども肺炎球菌の感染リスクが高い。ただし、細菌の存在によって子どもの免疫系が増強され、その後の感染リスクが低下する場合もあるため「鼻をほじくることは悪いことだけではないかもしれない」

 

 

結論:鼻と手が接触するだけでも肺炎細菌が簡単に広がることの初めての報告。子どものおもちゃを清潔に保つことは、手指の衛生に加えて幼い子どもたちを肺炎球菌の感染から守り、学校などでの集団感染や高齢の家族への拡散を防げる可能性があります。

 

 

原著論文:

Connor V, et al. Eur Respir J. 2018 Oct 10. [Epub ahead of print]

Hands are vehicles for transmission of in novel controlled human infection study.

 

JournalThe European respiratory journal. 2018 Oct;52(4); pii: 1800599.

 

AuthorsVictoria Connor, Esther German, Sherin Pojar, Elena Mitsi, Caroline Hales, Elissavet Nikolaou, Angela Hyder-Wright, Hugh Adler, Seher Zaidi, Helen Hill, Simon P Jochems, Hassan Burhan, Neil French, Timothy Tobery, Jamie Rylance, Daniela M Ferreira

 

 

Dr. Iijimaによるコメント

 肺炎球菌を使用した人体実験を企画した研究者の勇気もさることながら、男女40人のボランティアの決断力・実行力を考えると、日本の医療研究分化とはまるで別世界のような気がしました。

 

たとえこのような研究企画のアイディアが浮かんでも、高円寺南診療所では絶対に実行できない研究です。

 

 

細菌性肺炎の原因となる肺炎球菌感染症の予防のためには、手指の衛生が大切であることは以前から指摘されてきました。

 

この研究では、鼻をほじくることによる肺炎球菌感染のリスク増加を証明しています。

 

 

手洗いをすることは大切ですが、乾燥した環境では細菌が死滅しやすいので、手洗いをした後の手を濡れたままにしないで、速やかに乾燥させることも、患者指導の上で、見逃してはならない大切な視点であると思います。